21.秘密 ~ヴァンパイア少女と初級冒険者の少年の秘密の共有~ (1600文字)

秘密 ~ヴァンパイア少女と初級冒険者の少年の秘密の共有~


■タイトル

秘密ひみつ ~ヴァンパイア少女しょうじょ初級しょきゅう冒険者ぼうけんしゃ少年しょうねん秘密ひみつ共有きょうゆう


本文ほんぶん

「そこの新人しんじんくん

「え、なにぼく

「うん、そう」


 わたしはエルダ。初級しょきゅう冒険者ぼうけんしゃ一見いっけんえる少女しょうじょだけれども、じつちがう。

 金髪きんぱつロングにあかのどこにでもいるいわゆる美少女びしょうじょだ。


「えっと、名前なまえは?」

ぼくはミーシャ」

わたしはね、エルダ」

「エルダちゃんも仲間なかまさがしてるの?」

「うん」


 こうして握手あくしゅをする。

 ミーシャくんかわよろいただけの簡単かんたん装備そうび短剣たんけんだ。

 初級しょきゅう冒険者ぼうけんしゃだとしたら10さいからなので、おそらくそれくらいの年齢ねんれいだろう。

 わたしかわよろいだけどしたにはあかいミニドレスをている。には魔法まほうつえだ。


一緒いっしょ冒険ぼうけんしよっか、ミーシャくん

「ぼ、ぼくなんかと、一緒いっしょでいいのかな?」

「もちろんだよ」

「そ、そうか」


 テレテレとするミーシャくんはかわいらしい。


一緒いっしょ冒険ぼうけんするわりに、半分はんぶんこだからね」


 そういってオオカミにく焼肉やきにくセットをふたたのむ。


「「いただきます」」


 おにく贅沢ぜいたくひんだが、このオオカミにく比較的ひかくてきやすい。

 もぐもぐとあじわう。

 貧乏びんぼうそうなミーシャくんはそれはもうばぐばくとべていた。


「ふふふ」


 ミーシャくんからはまだおんならない綺麗きれいにおいがプンプンする。

 わたし興奮こうふんしていた。

 このけがれをらない少年しょうねんはさぞ美味おいしかろう。


「じゃあ、おなかもいっぱいになったし、スライムりにいこっか」

「うん」


 二人ふたりでダンジョン一層いっそうのスライム平原へいげんかう。

 無駄むだひろわりにはひとすくない。


「いえやー」

「ファイアッ」

「とぅー」

「アイスッ」


 かれけんたたかい、わたし魔法まほう戦闘せんとうをする。

 スライムを次々つぎつぎたおして、かく回収かいしゅうする。


 スライムのはあるんだかないんだか、多少たしょうあまにおいはするものの、別段べつだんごのみではない。

 ゴブリンのはクソ不味まずにおいがするのでんだことはない。


 一通ひととおり、戦闘せんとうえ、二人ふたりかこんで休憩きゅうけいにする。


「ふう、おつかさま

「う、うん……」


 ミーシャくんかおあかい。

 それはそうだろう。いま横並よこならびにすわっているが、かおがとてもちかい。


「んんっ、はぁはぁ」

「エルダちゃん」

「なに?」

大丈夫だいじょうぶいきあらいよ?」

大丈夫だいじょうぶ大丈夫だいじょうぶ


 わたしふたた興奮こうふんしていた。

 あせだってもと成分せいぶんなので、おとこあまにおいがするのだ。

 このひろいスライム平原へいげんている大人おとなはいない。


「あれでしょ、みたいんでしょ?」

「ひぇっ」


 あれ、バレていたのか。このわたしがヴァンパイアだと。


「だってかわいいきばえるし、ぼく首筋くびすじ何度なんどてくるから、さすがにわかるよ」

「い、いいのか?」

「うん。からびるまでんじゃダメだよ」

「わかった」


 本来ほんらい、ヴァンパイアのことは秘密ひみつなのだ。

 しかしバレてしまったのであれば、しょうがない。

 そっと首筋くびすじきばて、をすする。


「んんっ」


 ごくごくと甘美かんび少年しょうねん堪能たんのうする。


「これからも、一緒いっしょ冒険ぼうけんしてくれる?」

「いいぞ、少年しょうねん

「ミーシャだよ」

ってる。ミーシャ、これからもたのむ。たまにはを」

「うん。たまにだからね」

かっている。それからヴァンパイアということは」

秘密ひみつなんでしょ。冒険者ぼうけんしゃギルドにころされちゃうもんね」


 ヴァンパイアは人間にんげんちか種族しゅぞくだが、分類ぶんるいじょうはモンスターだ。

 人間にんげんるが敵対てきたい関係かんけいにある。

 冒険者ぼうけんしゃギルドはかたきにしてくるだろう。


「これからもよろしくね、エルダちゃん」

「ああ、ミーシャ。よろしく」


 そっと握手あくしゅをする。

 そうか、敵対的てきたいてきわなくても、こうして協力きょうりょくしてくれるひとがいれば相手あいてころさずにえるのか。

 いままであまりかんがえたことがなかった。

 これからも二人ふたり冒険者ぼうけんしゃでいられるといいな。


 ぽつ、ぽつぽつとなみだちる。


大丈夫だいじょうぶだよ、エルダちゃん」

「なんでもないぞ」

「そうだね」


 そっとかたせてくれる。

 まだ10さいだとうのに、おんなやさしくできるのはいいだ。

 わたしはなんだか、このいままできてきて、はじめてすくわれたがした。


(終)

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[総ルビ]滝川海老郎の短中編集 滝川 海老郎 @syuribox

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