14-2.少女全員が奴隷首輪をする国 後編(5000文字)

●後編

 昨日きのう大変たいへん気持きもちよくねむれた。

 こんなにぐっすりねむれたのは十ねんぶりくらいかもしれない。

 いつもなにかしらのへんゆめやすいのだ。

 旅先たびさきでのハプニング、妖怪ようかいばばおそわれそうだったり、迷路めいろまよんだりと、内容ないようはさまざまだがおれってのろわれているのかとおもっていた。


「クマ親父おやじあさはん

「はいよ。ミルクがゆでいいか?」

「いいよ」

たすかる。これしかないんで」

商売しょうばいするなしかよ」


 小麦こむぎとミルクのかゆはこのへんでは獣人じゅうじんおもべる一般いっぱんてき食事しょくじだろうか。

 いやミルクなのは上流じょうりゅう家庭かていかな。一般いっぱんじんはおのおかゆべるから。


「うまいなこれ」

「だろ。ミルク仕入しいれるの大変たいへんなんだ」

「だろうな。これだけの都市としだからなぁ」

「そういうこって。おきゃくさんは結構けっこうそういうのくわしそうだね」

一応いちおう商人しょうにんなんで一般いっぱんひんながれくらいなら」

「なるほどな。冒険ぼうけんしゃじゃないのか」

「ああ、一応いちおうな」


 おれ冒険ぼうけんしゃというよりは商人しょうにんだろう。たび商人しょうにんだな。

 でもたまにかねがないと冒険ぼうけんしゃまがいのこともしたことがある。

 パーティーから追放ついほうされたこともあるいわくつきだ。

 おれなにがそんなにわないのか。ペドラーのなにわるいってんだ。


 人間にんげんにはてんしょくがあるとしんじられている。

 十五さいになると神殿しんでんさずけてもらうのだがおれはペドラーつまりたび商人しょうにんだった。

 たび商人しょうにん商人しょうにんでもあるし冒険ぼうけんしゃでもあるのだ。

 だから戦闘せんとうものもある程度ていどできる。それで一部いちぶ冒険ぼうけんしゃにはおれみたいな「なんでもできるやつ」は相当そうとう目障めざわりらしく、よくつつかれるのだ。

 ペドラーは冒険ぼうけんしゃエクスプローラーよりもしたられているので、余計よけい軋轢あつれきがあった。

 そんなこんなで不満ふまん爆発ばくはつなんでおまえばっかり、とわれてペドラーだからとこたえたら「おまえ追放ついほうだ」とこうなるわけ。


「あはは、バカばっかだな。おつかさま

「それ以来いらいおれはほぼソロだな」

「よくソロなんてやってられるな。ぎゃく尊敬そんけいする」

「そうだろうな。くにをまたいで一人旅ひとりたびとかギャグの領域りょういきだもんな普通ふつうなら」

「それがペドラーさまになると平気へいきでこなすと」

「まあそうだな。うん。それでまたなんであいつなんかがと無限むげんループ」

「まったく。人間にんげんろくなことかんがえんな」

「おうよ」


 ペドラーの一人旅ひとりたび

 モンスターにおそわれたらソロなんてぬようなものだ。

 冒険ぼうけんしゃ普通ふつうれる。みんなでわせて仲良なかよくすればいいのにあらいやつばかりなのだ。

 それでもこわいのでパーティーをむ。

 みんな不器用ぶきようなりに役割やくわりをこなしてすすむわけだが、ペドラーは一人旅ひとりたび仕様しようなので料理りょうりもするし戦闘せんとうもするし荷物にもつはこびもするし、なんでもできてしまう。

 それが反感はんかんう。おまえはずるい、チートだと。

 なかにはペドラーなのをかくして冒険ぼうけんしゃはこびつまりポーターとして振舞ふるまっているひとっている。

 だがおれわせればできるのにしないほうが職務しょくむ怠慢たいまんではないのだろうか。

 パーティーのために全力ぜんりょくせば、御覧ごらんのありさまとなってしまう。

 なぜなのか。おれ納得なっとくしがたい。


 そういうわけ胡椒こしょう一人ひとりはこべる。

 もちろん費用ひよう一人ひとりぶんむので格安かくやすだ。そのぶん利益りえきがデカいという。


「オレンジひとつ。いやカゴ全部ぜんぶしい」

「ありがとうございますっておきゃくさん。ちょっとって」

「えなんで?」

「カゴ全部ぜんぶって正気しょうきですか? それ意味いみ理解りかいしていますか?」

「もちろん。おれ他国たこく風習ふうしゅうにもくわしい」


 オレンジの少女しょうじょかおになってあわてている。

 まわりの露天ろてんしょうひともその行動こうどう注目ちゅうもくしていた。


「お、おげ。あっ、ありがとうございます。ぷしゅぅ」


 あぁぁ、えられなかったのかうずくまってしまった。

 がってからポロポロこぼしはじめた。


「ずみばぜん。わたし、こんなことされるのはじめてで」

「そりゃ人生じんせいで二はないようにちかう」

「そうですけど、こんなオレンジってるくらいしかできないわたしで、いいんですか?」


 きながらしょうくびをかしげる。そのしぐさも、めちゃくちゃかわいい。

 まわりも歓迎かんげいムードのようだ。

 よそものおれんでろとかわれなくてよかった。


「おとうさんのところってきます」

「あ、ああ」


 はしってってしまう。

 そのあいだおれがバシバシ背中せなかたたかれまくっている。


「おめでとうっ」

「おめでとう。あんたもあるな」

人間にんげんくせがあってよかったな」

「まったくだぜ。あのひとがあるのに、全然ぜんぜんだったからなぁ」

「まったくまったく、あはは」


 かおあかくしたまま父親ちちおやらしいねこみみオレンジのお義父とうさんをれてもどってきた。


「あんたか、おれむすめしいってのは」

「はい。名前なまえはバル。マルシラ一族いちぞく末裔まつえい、バル。名字みょうじはないです」

「おうマルシラ一族いちぞく末裔まつえい、バルなおぼえたぜ」

職業しょくぎょうはペドラー。たび売買ばいばい冒険ぼうけんしゃもできます。イルクルー王国おうこくから馬車ばしゃいでひとりできました」

「イルクルー王国おうこくからソロか。いい度胸どきょうだな、しんじがたいが」

おれにカゴのオレンジをすべてっていただけますか?」

「おとうさん。このひと信頼しんらいできる、とおもう」

「ああかった。ってやるよ。畜生ちくしょうおれのかわいいむすめがまさか『大人おとない』とはな」


 これがにいう「大人おとない」という習慣しゅうかんだった。

 ある商品しょうひんすべう。それはつまり彼女かのじょうという意味いみになる。

 商品しょうひん代金だいきん本当ほんとう支払しはら義務ぎむがある。

 おんな奴隷どれいではあるが商品しょうひんではないのでるわけではない。

 商品しょうひん売買ばいばいできるだけの甲斐かいしょう信頼しんらいもとめられているのだ。


 それだけ胡椒こしょうきんになった。丸儲まるもうけだ。

 いままでめた資金しきん今回こんかい代金だいきん十分じゅうぶんオレンジの大人おとないはできる。


わたし名前なまえはミシェル。ホラムロン一族いちぞく末裔まつえい

「そうかミシェルか。いい名前なまえだ」

「ありがとうございます」

「ああ」

「――おとうさん」


 彼女かのじょ首輪くびわ父親ちちおやはずされる。

 奴隷どれい契約けいやく首輪くびわなので父親ちちおや以外いがいはずすことはできない。


 おれあたらしい首輪くびわわたされる。


わたし首輪くびわをください。あたらしいご主人しゅじんさま


 彼女かのじょなみだながしながら上目うわめづかいでこえけてくる。


かった。これからはおれがご主人しゅじんさまだから、一生いっしょう大切たいせつにする」

「はい。ありがとうございます」


 首輪くびわめ、金具かなぐ固定こていする。

 これでもう彼女かのじょおれ奴隷どれいだ。つまりつまになったことを意味いみする。

 それはこのくに習慣しゅうかんだけれども、おれもそれを尊重そんちょうする。


「オレンジりはどうしようか」

「あの、いもうとがいるので」

「そっか、よかった」


 たしかに彼女かのじょちいさくしたようながおとうさんのうしろにくっついておれ観察かんさつしている。


いもうと名前なまえは?」

秘密ひみつです。いもうとにご主人しゅじんさまられてしまいます」

「あはは。なるほど」


 これはたわむれではなくてそういう習慣しゅうかんらしい。よくからないけども。


「これからわたしはえっと……」

砂漠さばくのオレンジ。これをイルクルー王国おうこくる」

「これをそんなとおくで」


 さすがにまるくした。冗談じょうだんだとはおもっていないようだ。


 あじわるくない。たびは二週間しゅうかん程度ていどかかるが、それまでにわるくなったりはしないだろう。オレンジは比較ひかくてきちょう期間きかん保存ほぞんできる。

 こうでもってはいるが高級こうきゅうひんだった。

 それがこのまちでは獣人じゅうじん露店ろてん販売はんばいしているからおれおどろいたのだ。

 どこの富豪ふごうかとおもったが、ここいら一体いったい産地さんちだとって納得なっとくした。


 おおくのことはっているが、らないこともある。

 たびをすればあたらしい発見はっけんがあった。新鮮しんせんなことがれて非常ひじょうにうれしい。


「ご両親りょうしんとおわかれは?」

はははもういません。ちちとはおわかれはませました」

「そうか、じゃあこうか」

「はい」


 こうしておれ大人おとないを決行けっこうして彼女かのじょとオレンジをった。

 後悔こうかいはしていない。

 彼女かのじょひとがある。それだけでも十分じゅうぶん資質ししつだ。

 それになりよりオレンジのかみみみ。これに一目ひとめれをしてしまったのだ。


 一時いちじ露店ろてん大騒おおさわぎになったが、なんとかおさまったのでおれたちは王都おうとみちもどる。

 きは一人旅ひとりたびだったがかえりは二人ふたりたびだ。


王都おうとそとすながすごいですね」

そとにはあんまりないのか」

「はい。半分はんぶん砂漠さばくなので」

「だよな」


 ミセドラシルけん王国おうこく砂漠さばく地帯ちたいにある。

 砂漠さばくってもくさえていて放牧ほうぼくうしがいる。


「ミルクの正体しょうたいはこれか」

「ええ、だい都市としでも需要じゅようをなんとかまかなえているようですね」

「なるほど」

うしさん、たくさんいますね」

「そうだな」


 こうして放牧ほうぼくうしながら馬車ばしゃすすんでいく。


 一週間しゅうかんほどで国境こっきょうまできた。


「いよいよ国境こっきょうだけど」

「はい。緊張きんちょうしてきました」

べつだい丈夫じょうぶだから。おれ奴隷どれいだからな」

「はい。ご主人しゅじんさま

「そうわれると相変あいかわらずむずがゆい」

「バルさまのほうがよろしいですか?」

「いやびやすいほうできにんでくれ」

「わかりました。ではご主人しゅじんさまと」

「そうか。いいのか?」

「はい。あこがれだったんです。ご主人しゅじんさまになってくれるひとあらわれるのって」

「お、おう」


 さすがにおれれてしまう。

 そしていよいよ国境こっきょうもんれつ消化しょうかされていき、おれたちのばんになった。


まれ! そこのおとこ奴隷どれい

「はいっ」

「はいぃ……」


 おれたちはガチガチに緊張きんちょうしていた。

 まさかめられるとは。ほかひとはスルーだったのになにちがうんだ。


「どうても親子おやこではないが」

たしかに」


 そうっておれたちをじろじろる。

 たしかにおよめさんにしても彼女かのじょ平均へいきんよりはるかにわかい。

 結婚けっこん可能かのう年齢ねんれいではあるけれど、そのとし結婚けっこんするひと少数しょうすうだ。貴族きぞくとかをのぞき。


やみ商人しょうにんではないだろうな」

滅相めっそうもございません」

「そうか。で、どういう関係かんけいなんだ」

「あのご主人しゅじんさまわたしのご主人しゅじんさまです。あの……大人おとないで」

大人おとない。あははは、ロマンチストかよ、本当ほんとうに?」


 大人おとないとは一種いっしゅ伝説でんせつたぐいだ。

 たりまえだがそれができるだけのざいちからがあるひとすくないのでにしたひともあまりいない。

 ただ現役げんえき制度せいどではある。


かった。じゃああれだ。キスしてみろ」

「キスですか!!」

「キス!!!」


 一斉いっせい視線しせん集中しゅうちゅうしてくる。

 大声おおごえすんじゃなかった。もうあとまつりだ。

 まわりはひゅーひゅーとはやしててくる。


他人たにん奴隷どれいでないならキスできるはずだ」


 これはあそびではなくて本気ほんきだ。

 キスもむりやりすれば強姦ごうかんとみなされ電撃でんげきらう。


かりました。ご主人しゅじんさま

かった」


 おれとミシェルのかおちかづいていく。

 ここまで一週間しゅうかんおれたちは普通ふつう冒険ぼうけんしゃ仲間なかまであるようなかんじに一定いってい距離きょりたもってきた。

 たびではそのほう普通ふつうだし、らくだとおもっていた。


「んんぅ、んんっ」


 キスをした。してしまった。

 彼女かのじょくちびるすこしの時間じかんあじわう。


「んんんっ、んぅ」


 彼女かのじょはなれていく。


「お、おう。本当ほんとうだったのか、マジでだい人買ひとかいとかしたのか」


 オレンジはおれのマジックバッグにはいっている。


「オレンジをカゴ全部ぜんぶ

「いくらするんだよ、それ」

金貨きんか五十まいくらいかな」

「へぇぇ、参考さんこうにしておく。よしうたがいはれた。とおってよし」


「「「おめでとう」」」

「「すげええ」」

「「ひゅーひゅー」」

「「このしあわもの」」


 おれ花嫁はなよめであるミシェルはもんぺいたちの熱烈ねつれつ歓迎かんげいけて、もん通過つうかしていく。

 めっちゃずかしい。


本当ほんとうにこちらの女性じょせい首輪くびわをしていません」

「ああ、すまない。こっちだと奴隷どれい身分みぶんなんだが」

「そうですね。しかたないです」


 もんのこちらがわはバスティア女王じょおうおうこくだ。

 その名前なまえとお代々だいだい女王じょおうをトップにえてきた国家こっかだった。


 このくににはおんな奴隷どれいにする文化ぶんかがない。

 そのため彼女かのじょ首輪くびわをしている以上いじょう奴隷どれいとしてられてしまう。


 人々ひとびと興味きょうみぶかそうにおれたちをちらちらてくる。


馬車ばしゃってしまおうか」

「はい」


 そうしてすぐに馬車ばしゃむ。

 馬車ばしゃりさえすればあと目的もくてきかうだけだ。


 馬車ばしゃはどんどんすすみ一週間しゅうかん

 イルクルー王国おうこくへともどってきた。


「ここがご主人しゅじんさまくにですか」

「ああ、おれまれ故郷こきょう。ようこそイルクルー王国おうこくへ」


 そして王都おうとベデルダリスに到着とうちゃくするとミシェルがいままでたことないような笑顔えがおでソレをながめていた。


 ――うみ


うみです。ご主人しゅじんさまうみ。すごい、あおい、ひろい」

「ああ、れてきてよかった」

「はいっ、ありがとうございます。わたし世界せかいたびするのってたのしいっておもいます。これからもよろしくおねがいします」


 彼女かのじょ優雅ゆうがれいをしてみせた。とても綺麗きれいだった。


(了)

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