[総ルビ]滝川海老郎の短中編集

5．固有スキルは好意３０００倍、間違って幼馴染に使う (1900文字)

●タイトル

固有（こゆう）スキルは好意（こうい）３０００倍（ばい）、間違（まちが）って幼（おさな）馴染（なじみ）に使（つか）う

●あらすじ

間違（まちが）って俺（おれ）の固有（こゆう）スキル「好意（こうい）３０００倍（ばい）」を幼（おさな）馴染（なじみ）に使（つか）ってしまった。普通（ふつう）なら戻（もど）るはずが彼女（かのじょ）はずっとそのままでそれ以来（いらい）好（す）き好（す）き光線（こうせん）を浴（あ）びせてくる。しょうがないのでそれ以来（いらい）付（つ）き合（あ）っていて一緒（いっしょ）にダンジョンにもぐりレベルを上（あ）げてスキルが制御（せいぎょ）できるようになるのが目標（もくひょう）となった。そんな俺（おれ）と彼女（かのじょ）のダンジョン＆ラブコメ＆現代（げんだい）ファンタジー。

●本文

　俺（おれ）は斉藤（さいとう）歩夢（あゆむ）。十六（じゅうろく）歳（さい）。

　この世界（せかい）にいつの間（ま）にかダンジョンが出来（でき）て十（じゅう）年（ねん）。

　みんな当（あ）たり前（まえ）のように以前（いぜん）からダンジョンがあったような風（ふう）に気（き）にしていないが、俺（おれ）はずっと気（き）になっていた。

　他（ほか）の人（ひと）の認識（にんしき）では前（まえ）からあったような気（き）がするらしい。

　実際（じっさい）、徐々（じょじょ）にダンジョンの数（かず）は増（ふ）えていき、今（いま）では家（いえ）の近所（きんじょ）にもある。

　そしてダンジョンで戦闘（せんとう）をするとレベルが上（あ）がる。

　レベルが上（あ）がるとスキルを覚（おぼ）えることがあった。

　俺（おれ）がスライムとゴブリンばかりを倒（たお）してレベル１０に到達（とうたつ）したとき【好意（こうい）３０００倍（ばい）】というレアスキルもしかしたら固有（こゆう）スキルを取得（しゅとく）した。固有（こゆう）スキルは英語（えいご）でユニークスキルともいう。

「アユム君（くん）、好（す）き好（す）き、結婚（けっこん）、結婚（けっこん）しよ、はやく」

「あぁ十八（じゅうはち）になったらな」

「待（ま）ちきれない。私（わたし）、キュンキュンしちゃう」

「まったく、マユはすぐそうだ」

「だってアユム君（くん）のこと好（す）きなんだもん」

　誰（だれ）はばかることなく、俺（おれ）に好（す）き好（す）き光線（こうせん）を浴（あ）びせてくる。

　俺（おれ）は一（ひと）つ過（あやま）ちを犯（おか）した。

　そう、三河（みかわ）真由（まゆ）、十六（じゅうろく）歳（さい）。俺（おれ）の幼（おさな）馴染（なじみ）。

　軽（かる）い気持（きも）ちで好意（こうい）３０００倍（ばい）をマユに使（つか）ってしまったのだ。

　どうせ状態（じょうたい）異常（いじょう）なので他（ほか）のスキル同様（どうよう）、効果（こうか）は十分（じゅっぷん）くらいだろうと高（たか）を括（くく）っていたのだけど。

　永遠（えいえん）効果（こうか）があるなどと思（おも）っていなかった。

　それ以来（いらい）、好（す）き好（す）き光線（こうせん）は留（とど）まることを知（し）らない。

　マユと手（て）を恋人（こいびと）つなぎでがっちりつないで登校（とうこう）する。

　高校（こうこう）へ行（い）かないといけない。

　毎朝（まいあさ）のことでもう慣（な）れたとはいえ、さすがにマユが迫（せま）ってくるのが衆人（しゅうじん）に晒（さら）されて、なかなか精神（せいしん）にくるものがある。

「放課（ほうか）後（ご）はダンジョンにもぐるぞ」

「うん。アユム君（くん）のしたいこと、なんだってしていいんだよ」

「そ、そうか」

「もちろん、あんなことも、こんなことも」

　そういって胸（むね）をギュッと押（お）し付（つ）けてくる。

　もとから俺（おれ）への好意（こうい）はいくらか高（たか）かったのだが、３０００倍（ばい）のせいで天井（てんじょう）を突（つ）き抜（ぬ）けていた。

「キスしたくなってきちゃった」

「え、路上（ろじょう）でか？」

「うん。今（いま）すぐじゃないとヤダ」

「しょうがないな、さっとだぞ」

「うん」

　こっちに顔（かお）を向（む）けて口（くち）を突（つ）き出（だ）してくる。

　チュっとキスをすると、顔（かお）をこれでもかと真（ま）っ赤（か）にして頭（あたま）が沸騰（ふっとう）したような顔（かお）になった。

　３０００倍（ばい）でもまだまだマユは初心（うぶ）そのもので、好（す）き好（す）き光線（こうせん）を向（む）けてくるものの「行為（こうい）」そのものは、あまり進展（しんてん）がなかった。

　これは元（もと）から彼女（かのじょ）が奥手（おくて）であることと関係（かんけい）あるのだろう。

　そんな清楚（せいそ）なところも俺（おれ）は好（す）きだった。

「んふふふ、キスしちゃった。キスしちゃった」

「お、おう」

「アユム君（くん）の唇（くちびる）、柔（やわ）らかいの。大好（だいす）き」

「俺（おれ）も好（す）きだぞ」

「えへへへ、うれしい、天国（てんごく）に行（い）っちゃいそう」

　こうしていると幸（しあわ）せそうだ。

　なんだか危（あぶ）ない薬品（やくひん）でも使（つか）っているのかという気（き）もしないでもないが、全部（ぜんぶ）俺（おれ）のスキルのせいなのだ。

　そういう意味（いみ）では罪悪（ざいあく）感（かん）もある。

　本来（ほんらい）の彼女（かのじょ）は、手（て）をつなぐのも、恥（は）ずかしくてできない。

　でも俺（おれ）のことがほんの少（すこ）し好（す）き。気（き）になって気（き）になって仕方（しかた）がない。

　でも、でも、だって……。

　みたいな子（こ）だった気（き）がする。

　もはや恋（こい）は盲目（もうもく）という病気（びょうき）になってしまったように見（み）える。

　学校（がっこう）に着（つ）いたら、授業（じゅぎょう）を受（う）ける。

　後（うし）ろからすごい視線（しせん）を感（かん）じる。

　彼女（かのじょ）とは同（おな）じクラスで、彼女（かのじょ）の席（せき）は俺（おれ）より後（うし）ろ側（がわ）だ。

　一日（いちにち）中（じゅう）、ノートはちゃんと取（と）ってはいるようだけど、一（いち）秒（びょう）でも暇（ひま）さえあれば俺（おれ）を見（み）ている。

　その執着心（しゅうちゃくしん）は怖（こわ）いほどだけど、やっぱりこれもスキルのせい、なのだろう。

　当然（とうぜん）のようにお昼（ひる）は彼女（かのじょ）の手作（てづく）り弁当（べんとう）だ。

　何（なに）が入（はい）っているか分（わ）かったものではない、のだけど断（ことわ）ると、ワンワン泣（な）いて手（て）を付（つ）けられなくなる。

　最初（さいしょ）、ちょっと怖（こわ）かったので断（ことわ）ろうとしたら大変（たいへん）なことになった。

　ちなみにこの好意（こうい）３０００倍（ばい）のスキル、本当（ほんとう）なら「俺（おれ）が意識（いしき）すれば」効果（こうか）がなくなる。

　敵（てき）に使（つか）っても手足（てあし）のように扱（あつか）うことができる。

　一種（いっしゅ）のテイマーと同（おな）じだ。

　そして効果（こうか）を切（き）ってからそいつも倒（たお）してしまえば、全部（ぜんぶ）元通（もとどお）り。

　そのはずなんだけど、幼（おさな）馴染（なじみ）には効果（こうか）がなくならないのだ。

　どう頑張（がんば）っても、俺（おれ）のことを好（す）き過（す）ぎて、元（もと）に戻（もど）らない。

　前（まえ）はこんな子（こ）ではなかったはずなのに、どうしても以前（いぜん）のようになってくれなかった。

　悪（わる）い気（き）はしないものの、怖（こわ）いといえば怖（こわ）い。

　元（もと）に戻（もど）してやりたい。

　俺（おれ）は制御（せいぎょ）できるようになることを夢見（ゆめみ）て、日々（ひび）ダンジョンにもぐってレベル上（あ）げをしている。

　もちろんマユも一緒（いっしょ）についてくるといって聞（き）かない。

　彼女（かのじょ）が「私（わたし）が守（まも）るんだ」と言（い）って前衛（ぜんえい）をしている。

　俺（おれ）はどちらかというと魔術（まじゅつ）師（し）なので、ファイアとかアイスとかウォーターとかを使（つか）っている。

　とにかく、そんな感（かん）じで日々（ひび）は構成（こうせい）されていた。

　ダンジョンにもぐって敵（てき）を倒（たお）し、おかしくなってしまった彼女（かのじょ）を元（もと）に戻（もど）したい。

　戻（もど）ったうえで俺（おれ）のことが好（す）きなら、幼（おさな）馴染（なじみ）のマユと普通（ふつう）の恋（こい）がしたい。

　そう願（ねが）っている。