[総ルビ]滝川海老郎の短中編集

11．人化ドラゴンのドラゴン退治 (3500文字)

●タイトル

人（じん）化（か）ドラゴン（dragon）のドラゴン（dragon）退治（たいじ）

●本編

　俺（おれ）はリュウ。何（なに）を隠（かく）そう、いや実際（じっさい）隠（かく）してるんだけど、俺（おれ）の正体（しょうたい）はドラゴン（dragon）だ。

　しかしドラゴン（dragon）家（か）業（ぎょう）では肉（にく）しか食（く）っていけないので、人（じん）化（か）して出（で）稼（かせ）ぎに出（で）ている。

　人（じん）化（か）した竜（りゅう）を人（ひと）族（ぞく）はドラゴニュート（Dragonewt）と呼（よ）んだりするけど、彼（かれ）らは竜（りゅう）っぽい翼（つばさ）やしっぽなどがあり、一目（ひとめ）見（み）ればわかる。

　俺（おれ）はもっと高（こう）位（い）の竜（りゅう）族（ぞく）なので、完全（かんぜん）な人（じん）化（か）術（じゅつ）を使（つか）えるのだ。

　こうして住（すみ）処（か）の山（やま）を離（はな）れて、少（すこ）し離（はな）れた場（ば）所（しょ）にある町（まち）で冒険者（ぼうけんしゃ）をしていた。

　冒険者（ぼうけんしゃ）業（ぎょう）は、力（ちから）に優（すぐ）れた俺（おれ）に向（む）いていて、また密（ひそ）かに使（つか）える魔（ま）術（じゅつ）による探（たん）査（さ）や気（け）配（はい）察（さっ）知（ち）や、覇気（はき）で敵（てき）を寄（よ）せ付（つ）けないなど色々（いろいろ）なことができるため、みるみるうちにランク（rank）が上（あ）がっていった。

　俺（おれ）には固（こ）定（てい）パーティー（party）がいない。いつも野良（のら）パーティー（party）やソロで活動（かつどう）していて、顔（かお）なじみも多（おお）いが、それでもバラバラで活動（かつどう）していた。

　それでもランク（rank）は今（いま）はAランク（rank）。もうこれ以（い）上（じょう）はＳランク（rank）、ＳＳランク（rank）、そして殿堂（でんどう）入（い）りのＳＳＳランク（rank）しかなかった。

　そんなある日（ひ）、顔（かお）なじみの連（れん）中（ちゅう）に声（こえ）をかけられた。

「なあリュウ、今（こん）度（ど）のクエスト（quest）、一緒（いっしょ）にやろうぜ。とびきりのやつだぜ」

「とびきり？」

「ああ、ここじゃあ言（い）えねえが、ものすげえ話（はなし）だぜ」

　ちょっと口（く）調（ちょう）は悪（わる）いやつだが、そのくせ人（ひと）のいい仲（なか）間（ま）の一人（ひとり）、ウォードが言（い）ってきた。

「参（さん）加（か）するよな？」

「ああ、いいぜ」

　俺（おれ）にかかれば大抵（たいてい）のことは、うまくいく。今（いま）さら負（ま）ける気（き）なんてしない。

「じゃあ、今（こん）度（ど）奥（おく）で詳（しょう）細（さい）を話（はな）そう。ほかの腕（うで）利（き）きにも声（こえ）かけてあるから」

「ああわかった」

　数日（すうじつ）後（ご）、ギルド（guild）の奥（おく）の個（こ）室（しつ）へ行（い）くと、そこでの話（はな）し合（あい）いになった。

　参（さん）加（か）者（しゃ）は顔（かお）なじみばかり、そして腕（うで）が立（た）つやつばかり十（じゅう）名（めい）ほどだった。

「おお、リュウがいれば、怖（こわ）いものなしだな」

「ああ、ちげえねぇ」

　みんなが挨拶（あいさつ）がてら俺（おれ）を持（も）ち上（あ）げてくる。

「というわけで今回（こんかい）の話（はなし）はある貴（き）族（ぞく）の発案（はつあん）だ。――」

　貴（き）族（ぞく）の案（あん）はこうだ。

　ここから少（すこ）し離（はな）れた場（ば）所（しょ）にある山（やま）、ドスラル山（さん）脈（みゃく）の頂上（ちょうじょう）に行（い）き、そこにあると思（おも）われる秘（ひ）宝（ほう）の山（やま）を回（かい）収（しゅう）してくる。

　そこは十（じゅう）年（ねん）ぐらい前（まえ）まで、ドラゴン（dragon）の巣（す）であった。

　しかしそのドラゴン（dragon）は姿（すがた）を消（け）し、最近（さいきん）は誰（だれ）も目撃（もくげき）していない。

　くたばったか、他（ほか）の地（ち）へ引（ひ）っ越（こ）したのではないかと言（い）われている。

　どちらにせよ安全（あんぜん）だ。

　ドラゴン（dragon）と言（い）っても、竜（りゅう）だ。宝石（ほうせき）を集（あつ）めることはするが、全（ぜん）部（ぶ）を持（も）って引（ひ）っ越（こ）すとは限（かぎ）らない。

　何（なに）か、ダイヤ（dia-mond）やルビー（ruby）、金塊（きんかい）など、巣（す）に残（のこ）っているのではと思（おも）われる。

　それを取（と）りに行（い）こう。

　万（まん）が一（いち）、ドラゴン（dragon）がまだいる可（か）能（のう）性（せい）を考（かんが）え、最（さい）強（きょう）の戦（せん）士（し）たちに集（あつ）まってもらった。

「あぁああ……」

　俺（おれ）はため息（いき）しか出（で）ない。

　そこ、俺（おれ）ん家（ち）。そこ俺（おれ）の巣（す）だから。

「あの、ドラゴン（dragon）はちょっと。今（いま）から抜（ぬ）けるってことは？」

　俺（おれ）は信用（しんよう）が落（お）ちることを承（しょう）知（ち）で一応（いちおう）、発言（はつげん）を試（こころ）みる。

「そりゃあねえぜ。秘（ひ）密（みつ）を知（し）って抜（ぬ）け駆（が）けするかもしれねえ。抜（ぬ）けるのはナシだ」

「そうだそうだ。リュウに抜（ぬ）けられたら、こっちの命（いのち）がやばいぜ」

「リュウ頼（たの）むぜ、一緒（いっしょ）に行（い）こうぜ」

　どうやら今（いま）から抜（ぬ）けるのも何（なに）も無駄（むだ）なようだ。

　集（しゅう）合（ごう）は明日（あす）の朝（あさ）から移動（いどう）になるらしい。

「私（わたし）がリュウを一晩（ひとばん）中（じゅう）、相（あい）手（て）するから、大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）よ」

　よく一緒（いっしょ）にパーティー（party）を組（く）む、若（わか）い治（ち）療（りょう）師（し）のレティが俺（おれ）のところに来（き）て腕（うで）をがしっと掴（つか）んできた。

　その大（おお）きな胸（むね）が存在（そんざい）を主（しゅ）張（ちょう）していた。

「ああ、しょうがない、よなあ、はぁ」

「夜（よる）は私（わたし）が相（あい）手（て）をしながら、監（かん）視（し）もしてあげる、ちゅっ」

　俺（おれ）はもう逃（に）げられない。

　俺（おれ）は冷（ひ）や汗（あせ）をかきながら、解散（かいさん）してレティと夜（よる）を過（す）ごした。

　寝（ね）ている間（あいだ）に抜（ぬ）け出（だ）せそうだが、こいつは気（け）配（はい）に敏感（びんかん）で、夜（よる）抜（ぬ）け出（だ）すのは俺（おれ）でも無理（むり）だった。

　翌朝（よくあさ）、普（ふ）通（つう）に集（あつ）まり出（しゅっ）発（ぱつ）した。

「どうしようかなぁ」

　俺（おれ）は嘆息（たんそく）する。

　今（いま）はウォードとレティに挟（はさ）まれて馬（ば）車（しゃ）に揺（ゆ）られている。

「お宝（たから）ザクザクだといいよな、な、リュウ」

「ああそうだな」

「私（わたし）、お姫様（ひめさま）みたいなティアラ（tiara）がほしいわ。リュウ、見（み）つけたダイア（dia-mond）で作（つ）ってくれるわよね？」

「ああそうだな」

「もう、何（なに）よ。何（なん）にも話（はなし）聞（き）いてないじゃない。どうしたのよ」

「いやべつに」

「変（へん）なリュウ」

　しょうがないよなぁ。どうしようかな。

　確（たし）かに過去（かこ）に集（あつ）めた財宝（ざいほう）も、巣（す）の奥（おく）のほうにはある。

　だが中（なか）には呪（のろ）い装（そう）備（び）などもあって、素人（しろうと）が手（て）を出（だ）すのは危（き）険（けん）極（きわ）まりない。

　特（とく）に、所有者（しょゆうしゃ）を呪（のろ）い殺（ころ）すという「呪（のろ）いのアメジスト（amethyst）」がやばい。

　あれらは危（き）険（けん）だから俺（おれ）が集（あつ）めて保（ほ）管（かん）しているものだ。

　無（む）情（じょう）にも馬（ば）車（しゃ）の旅（たび）は順調（じゅんちょう）に進（すす）み、徒歩（とほ）での山登（やまのぼ）りが始（はじ）まった。

「歩（ある）きは面倒（めんどう）だが、冒険者（ぼうけんしゃ）はなれっこだもんな」

「ああ」

「そうね。私（わたし）も最初（さいしょ）はひ弱（よわ）な女（おんな）の子（こ）だったのに今（いま）じゃ余（よ）裕（ゆう）だわ」

「ムキムキマッチョ娘（むすめ）か」

「なによ、そんなことだけ反応（はんのう）して、嫌（いや）みなリュウ」

「ああそうだな」

「まったくずっと上（うわ）の空（そら）で、何（なん）なの本当（ほんとう）」

　数日（すうじつ）かかったが、夜（よる）もレティがずっとそばにいて、半（なか）ば俺（おれ）の独断専行（どくだんせんこう）がないか監（かん）視（し）してくる。

　俺（おれ）のことが好（す）きなだけかもしれないが、困（こま）ったな。

　いやぁ持（も）てる男（おとこ）はつらいなぁ。

　そうこうしているうちに頂上（ちょうじょう）に到（とう）着（ちゃく）した。

「俺（おれ）、ちょっと先（さき）トイレ（toilet）」

「っち、はやくしてこいよ」

「へいへい」

　適当（てきとう）に断（ことわ）って、ささっと繁（しげ）みから影（かげ）のほうへ向（む）かう。

　もうこうなりゃ、しょうがない。

　みんなには悪（わる）いがあきらめてもらおう。

　俺（おれ）はドラゴン（dragon）に変身（へんしん）した。

「ガオオオオ」

「うわああああ」

「でたああああ」

「に、逃（に）げるか？　やる？　おい、リュウは」

「リュウのやつ、しょんべんって、まさか気（け）配（はい）察（さっ）知（ち）で逃（に）げたのか、あいつ」

「どうする、どうする」

「こっちは腕（うで）利（き）き十（じゅう）人（にん）、いや九（く）人（にん）。勝（しょう）負（ぶ）するか？」

「いいえ、ここは引（ひ）きましょう。逃（に）げるほうがいいわ」

　最（さい）後（ご）に判断（はんだん）したのはレティだった。

　若（わか）手（て）だが、彼女（かのじょ）は頭（あたま）がいい。

　屈（くっ）強（きょう）な男（おとこ）たちは腕（うで）っぷしはいいが、状況（じょうきょう）判断（はんだん）のような頭（ず）脳（のう）プレイ（play）を苦（にが）手（て）としていた。

　俺（おれ）は暴（あば）れまわるように見（み）せかけて、ちょっと手（て）を大（おお）げさに開（ひら）いたりして威（い）嚇（かく）をする。

　誰（だれ）かをヤっちまわないように気（き）をつけねば。

「て、撤退（てったい）！　ちょっと下（さ）がろう。巣（す）なら離（はな）れれば大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）だろう」

「ああ、逃（に）げるぜ」

「リュウがいないわ。どこいったのよもう、私（わたし）を置（おい）いてくなんて」

　俺（おれ）は竜（りゅう）のまましばらく様（よう）子（す）を見（み）る。

　しかし彼（かれ）らは、山（やま）を下（お）りていく気（け）配（はい）を見（み）せず、周（まわ）りを様（よう）子（す）見（み）しているようだ。

　俺（おれ）は気（き）がついた。

　そう、しょんべんしに行（い）った俺（おれ）が戻（もど）らないので、探（さが）しているんだ。

　どうしよう。

　俺（おれ）は巣（す）の中（なか）の整（せい）理（り）を始（はじ）めた。

　危（き）険（けん）なものはすべて、地（じ）面（めん）を掘（ほ）り、そこに箱（はこ）に詰（つ）めて埋（う）めることにした。

　結構（けっこう）大変（たいへん）だ。

　そして、大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）そうなお宝（たから）を、巣（す）の分（わ）かりやすいけど奥（おく）まった場（ば）所（しょ）にまとめて置（お）いた。

　そう、これらを手（て）放（ばな）すのは、この際（さい）しょうがない。

　これは必要（ひつよう）な犠（ぎ）牲（せい）なんだ。

　こうして俺（おれ）は巣（す）から出（で）て、また人（じん）化（か）した。

　俺（おれ）を探（さが）しているみんなの元（もと）へ、急（いそ）いで向（む）かった。

「あああ、よかった。リュウ生（い）きてたのね」

「ああ、悪（わる）い。ちょっと足（あし）滑（すべ）らせてな。下（した）から上（あ）がってくるのに手間取（てまど）った」

「うそっ、それは大変（たいへん）だったわね。大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）？」

「なんとかな」

「みんな、リュウが生（い）きてたわ。戻（もど）ってきたのよ。再（さい）アタック（attack）しましょう」

「おいおい、また竜（りゅう）が出（で）てくるかもしれないぞ」

「大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）よ、ちょっと前（まえ）に巣（す）から出（で）てきたところを見（み）て以（い）来（らい）、消（き）えてしまったわ」

「ああ……」

　そりゃあ消（き）えるだろう。だってそれ俺（おれ）だもの。

　こうして俺（おれ）たちは巣（す）に再（ふたた）び向（む）かった。

　気（け）配（はい）は何（なに）もしない。そりゃそうだ。

「静（しず）かなもんだ」

「まさかまだいるとは思（おも）わなかったが、今（いま）のうちだ。ささっと探（さが）してお宝（たから）ゲット（get）しようぜ」

「ああそうだな……」

　俺（おれ）は先頭（せんとう）を歩（ある）いて、奥（おく）まで向（む）かう。

　そこには、金銀（きんぎん）財宝（ざいほう）。宝石（ほうせき）ザクザク。

「おい、こりゃすげえ」

　俺（おれ）は大（おお）げさにならないように、驚（おどろ）いてみる。

「リュウどうした。おおお、こりゃお宝（たから）だぁ」

「おおお、財宝（ざいほう）じゃねえか」

「やったわ。私（わたし）たち。これで結婚（けっこん）、ねえ、リュウ。この財宝（ざいほう）で私（わたし）たち結婚（けっこん）しましょう」

　そういってレティがひっついてくる。

　なるほど俺（おれ）たちが結婚（けっこん）ね。そりゃすごい。って俺（おれ）たち？　俺（おれ）が？　無理（むり）だよなぁ。

　いや完璧（かんぺき）な人（じん）化（か）だから可（か）能（のう）ではあるんだが、これから巣（す）どうしようか。

　まいったな。

　俺（おれ）ん家（ち）に強盗（ごうとう）に入（はい）って俺（おれ）がその報（ほう）酬（しゅう）で結婚式（けっこんしき）とはたまげたわ。

　でも十（じゅう）年（ねん）前（まえ）、無（む）名（めい）だった俺（おれ）が宝石（ほうせき）抱（かか）えてそれを売（う）るのは目立（めだ）ち過（す）ぎて無理（むり）だったことを思（おも）えば、むしろラッキー（lucky）だったと思（おも）う。思（おも）うしかないなぁ。

　俺（おれ）が俺（おれ）を退（たい）治（じ）して、お宝（たから）がっぽがっぽとは、さすがに考（かんが）えつかなかったわ。

「やったな、すげーぜ」

「ははは、お宝（たから）だぁ」

「さあ、早（はや）く持（も）っていきましょ。まだ気（け）配（はい）はしないけど帰（かえ）ってくるわよ、そのうち」

　俺（おれ）たちは俺（おれ）が置（お）いた目（め）についた宝石（ほうせき）を袋（ふくろ）にしまうと、巣（す）を後（あと）にして帰（き）還（かん）したのだった。

　すぐに帰（かえ）りたいな、俺（おれ）の家（いえ）。俺（おれ）の巣（す）。

　また戦（せん）果（か）を見（み）て泥棒（どろぼう）が集（あつ）まってくるかもしれない。

　呪（のろ）いのアイテム（item）を発掘（はっくつ）されないことだけを願（ねが）うしかない。

　ああ、これからどうしようか、俺（おれ）。

　人間（にんげん）なら一（いっ）生（しょう）遊（あそ）んで暮（く）らせる金（かね）があっても、前（ぜん）途（と）多（た）難（なん）だ。

（了）