第2話 転移前と子犬時代 (2000文字)

だい2 転移てんいまえ子犬こいぬ時代じだい


 ぼくがこの世界せかいばされてきてから、いままでのはなしをしようとおもう。

 ちょびっとだけまえ世界せかいはなしもする。


 地球ちきゅう西暦せいれき二〇〇〇にせんねんぎてから二十にじゅうねんあまり。

 ぼく日本にほん中学生ちゅうがくせいをしていた。

 地方ちほう中核ちゅうかく都市としであり、政令せいれい指令しれい都市とし県庁けんちょう所在地しょざいちだった。

 政令せいれい指令しれい都市としというのは五十万ごじゅうまんにんから百万ひゃくまんにん規模きぼがあるのだ特徴とくちょうだ。

 そんな都会とかいとも田舎いなかともいえない場所ばしょ徒歩とほ近所きんじょ中学ちゅうがくかよった。

 成績せいせき普通ふつう運動うんどう普通ふつうよりちょっといいくらい。

 一年生いちねんせいとき、はじめてのバレンタインチョコをもらった。


「これ広樹ひろきくん義理ぎりチョコ……だから。勘違かんちがいしないでよね」

「う、うん。ありがとう、美紀みきちゃん」

「じゃあね。秘密ひみつだからね、だれにもっちゃだめだよ」


 いまでも鮮明せんめいおぼえている。

 放課ほうか教室きょうしつされてのこっていたぼく彼女かのじょだけの空間くうかん

 くろかみながくて綺麗きれい笑顔えがおがかわいいだった。

 かおにしてみぎばしてハートがたのチョコレートをわたしてきた。

 義理ぎりだとくちではっているが、どうみても本命ほんめいだろう。

 さすがにぼくだってそれくらいはわかる。

 すぐにずかしいのだろう彼女かのじょきびすかえして早足はやあしかえっていく。


 ぼくかれていたのだ。

 そのかえり、ぼく一人ひとりあるいているところを信号しんごう無視むしのトラックにぶつかる、一瞬いっしゅんまえ

 魔法陣まほうじんまれて世界せかいからえたんだとおもう。


 いたら子犬こいぬ変身へんしんしていた。

 貴族きぞく屋敷やしきわれている血統書けっとうしょしろいぬである両親りょうしんのすぐちかくでうずくまっていた。

 子犬こいぬかずひきくらいいたので、まぎれていたのだろう。

 でもなんで子犬こいぬなのかはわからずしまいだ。

 ぼくしろくてふわふわの子犬こいぬだった。

 屋敷やしきにはかがみもあったので、自分じぶんたしかめることができた。


 すぐにぼくもらわれていくことになる。

 そのいえがマリーちゃんのいえだった。

きみわたしのわんこだからね。わんこ」

「きゃうっ」

 まだぼくこえたかかったころだ。

 マリーちゃんはとなりいえのマークくんとも顔合かおあわせをしていなかった。

 マリーちゃんがさいくらいのころだろうか。

 貴族きぞくいえではちいさいいえそだつ。

 はっさい前後ぜんごまで病気びょうきんでしまうがそこそこの割合わりあいであったのだ。

 地球ちきゅうでもちいさい突然とつぜんんでしまうことがある。

 だから子供こどもとして公表こうひょうされるまでは家族かぞく以外いがいとはあまり交流こうりゅうたないのだそうだ。


 それでマリーちゃんは友達ともだちもなくてさむしかったのだろう。

 ぼく面倒めんどうてくれた。

 ごはん支度したくもしてくれたし、うんちの始末しまつ貴族きぞく令嬢れいじょうであるのにマリーちゃん自身じしん積極的せっきょくてきにやろうとした。

 もちろんそれはメイドさんによって阻止そしされて、マリーちゃんは指示しじ監督かんとくだけすることになる。

「ブル、ごはんべていいよ」

「わうぅ!」

 こうしてこえけてくれるのもマリーちゃんのつとめとなっていた。

 ぼく実質的じっしつてきにマリーちゃんの唯一ゆいいつ友達ともだちだったのだ。


 それからぼくおおきくなっていきマリーちゃんとおなじくらいのおおきさになった。

 いぬになってさんねん。マリーちゃんがはっさいのころ、やっと幼児ようじデビューをたし公表こうひょうされた。


「こちらがのマリーよ」

「こっちはマーク」

「わうぅうん」

 マリーちゃんとマークくん顔合かおあわせにぼく参加さんかした。

 マリーちゃんをまもるようにおすわりをしているぼくをマークくんはさすがに警戒けいかいした。

「ふふ、マークくん、そのはブル。マリーちゃんのナイトなの」

「ナイト、騎士きしさまなのですか」

「うん。だからへんなことしなければ大丈夫だいじょうぶよ」

へんなこと」

「そう」


 マークくんがごくりとつばんでぼくのぞいてくる。

 ぼくはすましたかおかれながめる。

 きばをむいたりしないし、おどしたりもしない。

 ただしマリーちゃんをかせなければね。


「マリーちゃん、よろしく」

「マークくん、こちらこそ」


 マークくんぼく警戒けいかいしつつマリーちゃんと握手あくしゅわした。

 うん、よかったね。

 握手あくしゅをして、二人ふたりとも笑顔えがおだ。

 仲良なかよくなれたようだった。


 それ以降いこうはおとなりのマークくん頻繁ひんぱんあそびにるようになった。

 次第しだいぼくにもれて、一緒いっしょあそんでくれることもある。

 それでもぼくへの警戒心けいかいしんはずっとのこっているようで、たまにビクビクしていることがある。

 あそんではくれるけどマークくんはマリーちゃんみたいにでたりしない。

 とくあたまでることはいっかいもしたことがない。からだ何回なんかいさわられたけれど。

 あたまくちちかいのでまれるのを警戒けいかいしているのだろう。

 そういう意味いみではマークくん慎重しんちょうだった。だたその性格せいかく騎士きしなどになるには有利ゆうりはたらくとおもう。

 べつ臆病おくびょうというわけではなく、一線いっせんえない、という警戒心けいかいしんはある意味いみではカッコよくえた。


 それからねんぼくいぬになってななねん現代げんだいいたる。

 いまでもマークくんぼくのことがほんのちょっと苦手にがてだ。

 これは一度いちどみついた意識いしきはそうそうわらないのだろう。

 でもいいんだ。ぼくはそのぶんマリーちゃんにあいしてもらっている。


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