第5話 海辺のサンセット[終] (1700文字)

だい5 海辺うみべのサンセット


 なんだかねむれたんだかねむれないんだか、よくからないうちにあさになった。


「おはよう」

「おはようございます……しゅうちゃん」

明日香あすかぐせ」

ってる」


 明日香あすかがあくびをする。

 ぐせがあるということはいくらかはねむれたのだろう。


たまごかけごはんでいいぇ?」

「いいよ」

「いいですよ」

かったわぁ」


 たしかにたまごかけごはんだったんだけど、ほか味付あじつ海苔のり卵焼たまごやき、シイタケの醤油しょうゆいため、ホウレンソウのおひたし、ハマグリの味噌汁みそしるてきた。

 そうそうここはやまなかだけど、うみちかいのだ。

 ハマグリはそこでれる。

 地産ちさん地消ちしょうとはいうが、ほいほいハマグリがてくるのもけっこう贅沢ぜいたくなものだ。


「「ごちそうさまでした」」

「おそまつさまでした」


 大満足だいまんぞくでおなかをさする。

 さて、今日きょうなにをしようかな。


「おばあちゃんは、ミカンばたけ剪定せんていでもするけど」

「あ、手伝てつだいます」

わたしも」

「そっか、そか、たすかるよぉ」


 おじいちゃんのけいバンにってミカンばたけまで移動いどうする。

 りて準備じゅんびをしたらさっそく作業さぎょう開始かいしだ。

 やま斜面しゃめん一面いちめんがミカンばたけだった。


「このえだ、ここ」

「はいはーい」

「いいね。つぎこっち」

「はーい」


 作業さぎょう指示しじしたがってどんどんっていく。

 ミカンのらないとおおきくなってしまう。

 そうすると収穫しゅうかくむずかしくなる。

 枝分えだわかれも剪定せんてい制御せいぎょするので、ってなんぼなのだ。


「ここは南斜面みなみしゃめんだからあまくなるんだよぉ」

「へぇ」

いまはまだ、時期じきじゃないけどねぇ」


 ミカンはふゆだもんな。

 かなり作業さぎょうした。

 はたけおもったよりずっとひろく、じゅう労働ろうどうだとおもう。

 おじいちゃんとおばあちゃんはここを長年ながねん二人ふたり管理かんりしてきたのだ。


「ミカンもあと何年なんねんかねぇ」

「だなぁ」

「やめちゃうんですか?」

「うん。かるからねぇ」

「そう、ですか」


 ちかくの農家のうか何軒なんけんか、すでにめたというはなしだった。

 いま集中しゅうちゅう生産せいさん主流しゅりゅうなので、こういうちいさい農家のうかっていくいっぽうだとか。


 おひるべてまたすこ作業さぎょうわらせて、おやつにする。


「んじゃ、もどるべぇ」

「はーい」


 明日香あすかはちょっとつかれているかおをしているけれど「いい仕事しごとをした」みたいな雰囲気ふんいきだから大丈夫だいじょうぶだろう。


「どうせだから、うみ、よってくべ」

「うん」


 いえによって支度したくをしたあと、四人よにんみなとへとくるま移動いどうする。

 途中とちゅう休憩きゅうけいもして、ちかいとってもちょっと距離きょりがあった。

 うみいたころにはしずみかかっていた。


 さっとくるまからりる。

 うみはるさきに、太陽たいようちていく。


綺麗きれい……」

「ああ」

なつってかんじするよね」

「おう、これぞなつわりだな」

「もう、わっちゃうんだね」

「だな」


 このまま今日きょうよる新幹線しんかんせんかえ予定よていだった。

 もう集落しゅうらくへはもどらない。


 やまのほうからかぜいてくる。

 明日香あすかかみさえている。

 いま時期じきではないが甘夏あまなつはなにおいがしたがする。


甘夏あまなつ、みたいな夏休なつやすみだったね」

「そっか」

甘酸あまずっぱい、なつこいなんちって」

こいなのか?」

「うん。わたししゅうくんがむかしわすれてきちゃった恋心こいごころ

「あぁ」

「やっぱり、わたししゅうくんと結婚けっこんしようかな」

「えっ」

「ずっと、毎年まいとし、こんな夏休なつやすごしたい」

「それはかるけど」

わたしじゃ不満ふまん?」

不満ふまんはないけど」

「じゃあ、もう一度いちど二人ふたりこい、しよ?」

「あ、うん」


 明日香あすかちかづいてくる。

 そして二人ふたりかげがそっとかさなった。

 かるいキス。


 そういえばキスはしたことがなかったな。

 なんだかいきなりドキドキしてきた。

 冷静れいせい沈着ちんちゃくおれ動揺どうようしてる。


「んっ」


「んんっうぅ」


「ぷはぁ」

「……」

「キス、しちゃったね」

「うん」

「もう、もどれないよ?」

「しょうがない。まえすすむってめたんだろ」

「そうだよ」

おれたち、何年なんねんまってたもんな」

「うん。なんかわたしいま、すごくドキドキしてて」

「ああ、かるって」

しゅうくん、どうしよう。なんかおかしくなっちゃいそう」


 二人ふたり夕日ゆうひしずんでいくのをつめている。


「でも、そろそろかえらないと」

「そっか、そうだね。いこっか。日常にちじょうへ」

「また来年らいねんだな」

「うんっ」


  ◇◇◇


(めっちゃまずい)


 さて、かえりは二人ふたり新幹線しんかんせんであった。

 となりのシート同士どうしで、めっちゃ緊張きんちょうした。もちろん指定席していせきだ。

 こんなにあせにぎってドキドキしながら新幹線しんかんせんせきすわるのはこのとき最初さいしょ最後さいごかもしれない。

 ペットボトルのジンジャーエールはきとちがいすぐにからになった。


(了)

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