第6話 迷子の捜索[終] (2000文字)

だい6 迷子まいご捜索そうさく


 そんなあるちいさなおんな城門じょうもん警備けいびたいのところをたずねてきた。

 そのときにはすでにわんわんいていて、調査ちょうさ難航なんこうした。


 内容ないようをかいつまんでげるとあさおとうとたのが最後さいごいま昼過ひるすぎ。

 いつもならおひるにはもどってくるおとうと行方不明ゆくえふめいなのだという。


 あねはササミちゃんじゅっさいおとうとはバドななさいぐらいのようだ。

 両親りょうしんあさ仕事しごとってかえってくるのは夕方ゆうがたぎりぎり。

 姉弟きょうだいのおひる用意よういするのはおねえちゃんの役割やくわりとなっていた。

 でもおとうとかえってこない、ということのようだ。


 すぐに警備けいびたい何人なんにんかが捜索そうさくているがなにつかっていなかった。


「くそ、まだつからないのか」


 城門じょうもん警備けいびたい宿舎しゅくしゃではイライラがまっていた。


「あの、すみません」

「なんだじょうちゃん」


 マリーちゃんがこえけた。


「もうじき夕方ゆうがたになりますし、もんのお仕事しごとわりです。バルを捜索そうさくたいせるので、おねがいしたらどうでしょう?」

「そうか、そのがあったか! たのむバル」

「わぅぅううん!!」


 城門じょうもんからていくひとつぎまちあかるいうちにきたいので夕方ゆうがたになったらほとんどいない。よほどの物好ものずきかいそぎのひとだけだ。

 ぼくははりきっておねえちゃんのササミちゃんのにおいをいだ。

 おねえちゃんからもおとうとにおいがかすかにする。


「わうぉおん」


 くんくんくん。

 空気くうきちゅうにおいをたっぷりとって、識別しきべつしていく。

 おねえちゃんとているにおいに集中しゅうちゅうすると、西にし方角ほうがくだろうか。

 太陽たいようかたむいているのがえる。まだだけどもうじきしずむ。


 マリーちゃんがリードをっていて、ぼくはどんどんとあるいていく。

 マリーちゃんが怪我けがをしないようにはしったりしない。

 そのうしろを警備けいびたいひとがついてくる。


 つぎみぎれる。そしてまたすすむ。今度こんどひだりへ。

 みち東西とうざい南北なんぼくにあり、においは北西ほくせい方角ほうがくのようだ。

 だからカクカクとがるのをかえした。


 そしてすすんでいくうちに下町したまち地区ちくというすこし治安ちあんわる場所ばしょへとはいっていった。

 このへん鍛冶屋かじやおおいのか、トンカチのおとがする。

 鍛冶屋かじやがいけたさき住宅地じゅうたくちひろがっていた。

 どのいえ装飾そうしょくなどがなく貧乏びんぼうそうだった。


「バド、バド!」


 あとをついてきているおねえちゃんがこえけた。

 民家みんか軒先のきさきでうずくまっている少年しょうねんがいた。

 少年しょうねんかおげる。


「バドだ! いたっ!」

「わぅううん」


 ぼく少年しょうねん近寄ちかよってにおいをぐ。たしかにこのにおいに間違まちがいない。

 おねえちゃんのにおいもかすかにした。


「おねえちゃん! おねえちゃん、おねえちゃん」


 少年しょうねんがってよろよろとすうすすんだところをおねえちゃんがガシッとめる。


「もう、ひとりで勝手かってあるいちゃだめでしょ」

「うん、おねえちゃん。ありがとう」

「いいのよ。もうつかったから、安心あんしんして」

「うん」


 あねおとうとがしっかりとう。


「わおおおおん」


 いっぴきいぬぼく遠吠とうぼえをする。


「「「わおおおおおん」」」


 それに王都おうとじゅういぬごえげてこたえたという。

 姉妹しまいはそれをわらっていた。

 マリーちゃんもぴょんぴょんよろこんでくれた。


「バル、えらい! さすがバル。見直みなおしちゃった」

「わうぅううん、わうわう」


 ぼくはマリーちゃんにからだをこすりつけて鼻先はなさきけて愛情あいじょう表現ひょうげんする。

 マリーちゃんもぼくのふわふわ、もふもふのをぐしゃぐしゃとでまわしてくれる。


えらい! えらい! さすがわたしのバル」

「わぅううん!」


 こうしておとうとバドくん捜索そうさく一件いっけん落着らくちゃくとなった。

 れるまえつかって一安心ひとあんしんだ。

 くらくなったら治安ちあん悪化あっかするので、なにこるかわかったものではない。

 おとこっても、危険きけんにはちがいがなかった。


 王都おうとおもったよりもずっとひろく、たった一人ひとりおとこさがすのもとてもむずかしい。

 それをぼくはながあったので、なんとかかろうじてつけることができた。

 今回こんかいうんがよかったとおもう。

 においにも強弱きょうじゃく種類しゅるいがあり、もっと普通ふつうにおいだったらひとまぎれてわからなくなってしまうこともあった。

 ちょっとだけわったにおいがしたのだ、この姉弟きょうだいは。


 この夕方ゆうがた警備けいびたい宿舎しゅくしゃではげがおこなわれた。

 みんながんでべてそしてうたう。

 ただしおさけない。みんなジュースだ。

 これから夜警やけいをするひともいるし、明日あしたあさばんひともいるので、いまいつぶれてしまうと仕事しごと支障ししょうる。


「はい、おにく

「わぅううん」

「バルはおにくすきだもんね」

「わぅわぅ」


 ぼくもご相伴しょうばんあずかった。おにくだ。おおきなブロックのいたおにくもらった。

 とても美味おいしかった。こんな豪華ごうか美味うまにくべたことがない。

 ご褒美ほうびはうれしい。


 こうして『警備けいびたい一匹いっぴきいぬバル』は王都おうとではかたぐさとなるのであった。

 ぼく今日きょう警備けいびいそしむ。

 たまに「バルちゃん今日きょうもご苦労様くろうさま」というふうにこえけてくれるひともいる。

 はなたかい。警備けいび仕事しごときだ。

 こうして今日きょうぬしのマリーちゃんをれてぼく警備けいび仕事しごとをした。

 異世界いせかいばん警察犬けいさつけんとでもいうのだろうか。

 まだまだぼくたちの活躍かつやくはこれからだ。


わり)

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