7.AIに小説家になれって言われた (2000文字)

●タイトル

AIに小説家しょうせつかになれってわれた


●本編

 おれ高校こうこう卒業そつぎょうしてから、必死ひっし小説しょうせついた。

 高校こうこうころから文字もじ入力にゅうりょく速度そくどだけは自慢じまんだった。

 きまくった。PCでタッチタイピングはぼぼ完璧かんぺきだ。


「あぁあ……今日きょうわりか」


 まどから夕暮ゆうぐれの西日にしびんでくる。

 大学だいがくには進学しんがくしなかった。受験じゅけん勉強べんきょうもしてない。

 そのかわり、流行はやりだとわれるライトノベルや文学ぶんがくしょう受賞じゅしょう作品さくひんなど、たくさんのほんんだ。


 なぜなら、おれ高校こうこうでのAI職業しょくぎょう診断しんだん適性てきせいテストで「あなたは小説家しょうせつかいています。適合てきごうりつは98.12%です」とわれたからだ。

 どちらかというとおれ数学すうがく理科りか得意とくいだった。いわゆる理系りけいぞくしている。

 なぜ小説家しょうせつかなのか。


 小説家しょうせつかにもふたつのタイプがいるらしい。ひとつは文系ぶんけいの「感覚かんかくけい作家さっかだ。感情かんじょうのままに、とき荒々あらあらしく、とき繊細せんさい風景ふうけい登場とうじょう人物じんぶつ感情かんじょうつたえる。

 もうひとつは、理系りけい作家さっか論理的ろんりてき構造こうぞうった小説しょうせつだ。プロットをちゃんといて、物語ものがたりひとつの建築物けんちくぶつのように構築こうちくしていくらしい。

 おれ後者こうしゃだとAIにコメントされていた。


「なら、やってやろうじゃんか」


 おれはAIにしたがった。でもめたのはほかでもない自分じぶんだ。

 AIに指図さしずされて、唯々諾々いいだくだくしたがっているにぎないわけではない。


 実家じっか子供部屋こどもべやはんこもりの生活せいかつをしている。

 とき小説家しょうせつか実体験じったいけんしたことしかけないとわれるが、おれ恋人こいびとがいたことはない。女子じょしとは距離きょりをいつもっているタイプだった。女子じょしとメールやメッセージアプリとかしたことがない。クラスのグループチャットはべつだけど。


 それでも妄想もうそうはできる。「実体験じったいけんしたこと」じゃないんだ「想像そうぞうした範囲はんい」しかけないというのがただしいのかもしれない。

 自分じぶん意見いけん正反対せいはんたいのこともくことができるが、それを想像そうぞうできない場合ばあいには、上手うまくことができない。


今年ことしこそ、絶対ぜったいしょうってやる」


 おれ一人ひとりPCにかう。高校こうこう生活せいかつ妄想もうそうして。


「ラブコメだああ、ラブコメ。世界一せかいいち美少女びしょうじょとラブラブするやつ!」


 世界せかいネット・ミスグランプリ優勝ゆうしょう美少女びしょうじょのクラスメートとこいちる。甘酸あまずっぱい青春せいしゅんラブストリー。

 どうだ、敵対てきたいしているミスコンの出場者しゅつじょうしゃ襲撃しゅうげきしてきたり、このがサブヒロインになったり、もと幼馴染おさななじみ近所きんじょしてきて、おれせまってきたり、おんなとバタバタした生活せいかつおくる。世界一せかいいち美少女びしょうじょとは最初さいしょ友達ともだち程度ていど関係かんけいだったが次第しだい親密しんみつになり、ついに恋人こいびとになる。

 どうだたか。


 ヒロインはもちろんおれ趣味しゅみめた。黒髪くろかみロングの清楚せいそけい

 だれにでもやさしくて、うつくして、かわいい。

 ちどころがないが、男性だんせいだい苦手にがて

 なぜかおれだけは平気へいきだった。

 どうだ、これでいける。


 文章ぶんしょう次々つぎつぎがり、小説しょうせつかたちつくっていく。

 最初さいしょはただぶんならんでいるだけだったのに、それが「はなし」になり「しょう」になり、「10まん文字もじ」になり「長編ちょうへん作品さくひん」になる。


 おれはまたひとつ、小説しょうせつという高層こうそうビルを建築けんちくできたのだ。

 どうか、欠陥けっかん住宅じゅうたくではありませんように。

 ハズレ物件ぶっけんとかわれないように、いたつもりだ。


「もしもし、ねえねえ、アキラくん小説しょうせつどう?」


 幼馴染おさななじみのミライが電話でんわしてくる。彼女かのじょまって電話でんわだ。


「いっこ、完成かんせいした。つぎしょうす」

「ふぅん。それって小説しょうせつ投稿とうこうサイトで昨日きのう完結かんけつした作品さくひんでしょ?」

「そうだぞ。なんだ、まさかんだのか?」

「うん。すごく面白おもしろかったよ。ああいうきなんだなってつたわってきちゃった」

「あぁまあな」


 彼女かのじょミライは学校一がっこういち美少女びしょうじょだった。

 ちいさいころ一緒いっしょあそんだりしたが、中学ちゅうがく高校こうこうがって、おれとはとお場所ばしょってしまった。


「なんかさ、黒髪くろかみロングの清楚せいそけいとかさ、なんか既視感きしかんあるよね」

「だろうな」


 ヒロインにはミライの面影おもかげがあるのだ。

 たりまえだが、おれ女性じょせい経験けいけんなんてそれくらいしかないのだから、当然とうぜんだった。


「ねえ、今度こんど一緒いっしょにランチべようよ」

面倒めんどうだな」

「どうせいえにいてひまでしょ」

「そうだが。わるいか」

わるくないよ。好都合こうつごう。にひひ」

「だろうな、わかった、じゃあつぎ月曜日げつようびひるでいいか?」


 おれはなるべく土日どにちけたい。


「ちょっとまって、えっと、いいよ。つぎ月曜日げつようびひるはんね。時間じかんつくっておくね。じゃあ、またね、ばいばい」

「ああ」


 ツーツーツー。

 電話でんわれる。まったくミライもおれなんかかまってなに面白おもしろいんだか。

 ミライか。ミライがヒロイン……恋人こいびとか。どうなんだろうな。

 作家さっかとして、経験けいけんになるだろうか。

 そうだな、うん。実際じっさいったら、おれのラブコメもみがきがかって受賞じゅしょうできたり、ランキングをがって書籍しょせきしたりできるかもしれない。


 つぎ月曜日げつようび、ちょっとはなしてみるか。

 なんだか、客観的きゃっかんてきると現実げんじつのほうがラブコメっぽいよな、あはは。


  ◇


 あれから三ねん。ミライとうことができ、おれ無事ぶじハイファンタジーでしょう受賞じゅしょう

 コミカライズからヒットをばし、アニメ決定けっていしたところだった。

 ラブコメはなんだがうまくいかず、結局けっきょくハイファンタジーに恋愛れんあい要素ようそしたものが読者どくしゃけたようだった。

 なか、こんなものだ。

 しかし、すべての体験たいけん作者さくしゃ還元かんげんされるのだ、どのようなかたちにしろ。それは事実じじつだとおもう。

 おれ今日きょうもPCにかって、ビルの建築けんちく作業さぎょうのように小説しょうせついている。


(了)

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