9.百合勇者 (2500文字)

●タイトル

百合ゆり勇者ゆうしゃになんて魔王まおうたおせるか! ~もちろんですとも、ひめともにやらせていただきます~


●本編

 なにかくそう、わたしこそが世間せけんいまさわがせている「百合ゆり勇者ゆうしゃ」ことエルナ・ミッケンバウム男爵だんしゃく令嬢れいじょうだった。

 今日きょうひめ人目ひとめけて、そっとやさしくてあまいキスをする。


 時系列じけいれつにおはなししましょうか。

 ことこりはいまから八年はちねんまえわたしがまだ八歳はっさいだったころにさかのぼる。

 わたしはじめての貴族きぞくパーティーでおなとしという第二だいに王女おうじょさま、ミシェル・フォン・ファランギースさま同席どうせきした。


「あのがお姫様ひめさまなのですね」


 まだわたしおな八歳はっさいであるのにすでに美貌びぼうられており、大変たいへんかわいらしい容姿ようしはもちろんほがらかでやさしい性格せいかく貴族きぞく大変たいへん人気にんきであった。

 とく男爵だんしゃくなど相対的そうたいてきひく身分みぶん令嬢れいじょうたちにもやさしくせっしてくれるため、おんなたちのあこがれであったのだ。


「みなさま、パーティーに参加さんかしていただき、ありがとうございます」


 まわりにわせて、そっとひめ微笑ほほえんだ。

 わたし一度いちどはなししただけで、その魅力みりょくりつかれた一人ひとりだった。

 ただわたしあこがれは異常いじょうだったのだ。


姫様ひめさまにおちかづきになりたい」


 最初さいしょ邪念じゃねんともとられかねない欲望よくぼうだった。

 メイドにはなれないかとかんがえたが、男爵だんしゃくでは地位ちいひくいと両親りょうしんわれてしまった。

 ひめくらいになるとおきのメイドは侯爵こうしゃくくらいの次女じじょ三女さんじょなどがなるとわれている。

 そこで知恵ちえしぼった結果けっかおんな騎士きしつまり近衛このえ騎士きしになろうとかんがえをえることになった。

 それが無理むりであれば、武装ぶそうメイドという腹案ふくあんもあった。


 わたしけんち、最初さいしょはお父様とうさま、お兄様にいさま訓練くんれんをしていた。

 毎日まいにち毎日まいにちけんる。


「えいやぁ!」

「とやぁ!」


 ミシェルひめわたし十二じゅうにさいになったころひめ聖女せいじょ認定にんていされた。


聖女せいじょさま

「ミシェルひめ聖女せいじょに!」


 世間せけんさわがせたのだが、ミシェルひめ教会きょうかい王宮おうきゅうをいったりきたりいそがしい日々ひびごしているらしい。

 たまに貴族きぞくのパーティーでかける程度ていど姫様ひめさまながめる日々ひびおくった。

 そのたびひめわたしにもこえけてくれてやさしいこえかせてくれる。


 そうしてけば、あれよあれよとけんうでがっていき、ついに騎士きしだんにスカウトされるまでになったのだ。


「エルナ騎士きし任務にんむ拝命はいめいします」


 こうして王立おうりつ騎士きしだん末席まっせき参加さんかすることができた。

 しかし目標もくひょう姫様ひめさま護衛ごえいだ。

 それが近衛このえ騎士きしで、一番いちばん難関なんかんであった。


 それでも往生際おうじょうぎわわるく、訓練くんれんかさず、毎日まいにちのように模擬もぎせんをした。

 同期どうき男性だんせいばかりのなか女性じょせいだけをあつめた騎士きしだん女性じょせい部隊ぶたいすべむように参加さんかすることができたのはうんがよかったとおもう。


 しかしそんなとき世界せかい情勢じょうせい不安ふあんてきた。


魔族まぞく活動的かつどうてきになってきている。王国おうこくはこれにってる。勇者ゆうしゃさま選抜せんばつする。勇者ゆうしゃにはひめ、ミシェル・フォン・ファランギースとの結婚けっこん許可きょかする」


 王命おうめいであった。


「えっちょっと……」

「エルナ、どうするの?」

わたし、もちろん参加さんかする」

姫様ひめさま結婚けっこんするの? そこまできだったの?」

「うん……」

「きゃっ、エルナすごい」


 女性じょせい部隊ぶたいたちとわいのわいのとさわいだ。


 勇者ゆうしゃ選抜せんばつ試験しけんわたし参加さんかした。

 おおくはやはり騎士きしだんからで、何割なんわりかのひと冒険者ぼうけんしゃから参加さんかしていた。

 そのなかでも女性じょせいわたし大変たいへん目立めだっていた。


「おい、おんな勇者ゆうしゃになるつもりなのか」

姫様ひめさまおんな結婚けっこんするつもりか」

「いくらなんでも勇者ゆうしゃつとまるまい」


 いろいろわれはした。でも、わたし本気ほんきだった。

 姫様ひめさまをおしたいしている。


 そんな場所ばしょにミシェルさまあらわれたのだ。


「あら、エルナ。頑張がんばってくださいね」


 なんとミシェルさまわたし名前なまえおぼえているばかりか、応援おうえんしてくださったのだ。

 騎士きしだん所属しょぞくになったからお言葉ことばをいただいたことは何回なんかいかあるが、こうして名前なまえ直接ちょくせつばれたことははじめてであった。


「ありがたき、お言葉ことばです」

「ふふふ、わたしのことおよめさんにしてくれるんでしょう?」

「はいっ」


 こうしてやる千倍せんばいになったわたし選抜せんばつ試験しけんのトーナメントを次々つぎつぎ撃破げきはしていき、ついにそのいきおいはまらず、優勝ゆうしょうしてしまう。


勝者しょうしゃ、エルナ」

「わぁ、エルナ、すごいわあなた。おんな勇者ゆうしゃですね!」


 ピンクのかわいらしいドレスをたエルナひめわたしをたたえてくれたのだ。


「いいのですか、ミシェル姫様ひめさま? 相手あいておんななのですぞ?」

「いいのです。わたしあいしてくれると約束やくそくしてくれました」

「そ、そうかもしれませんが」

「もうめました。エルナ、まえに」

「はっ」


 優勝ゆうしょうしたわたし一歩いっぽまえる。

 するとミシェルひめ壇上だんじょうからりてきて、わたし正面しょうめん一度いちどまる。


 そしてさらにかおちかづけてきて、そのまま……ちゅ。


「んんっ」

「んっ、あっんん」


 ちかいのキス。

 わたしたちはおんな同士どうし婚約こんやくちかいのキスをそのでしたのだった。


 ということで王都おうとではいま百合ゆり勇者ゆうしゃ」だの「おんなたらしのおんな勇者ゆうしゃ」だと、様々さまざまうわさっている。

 しかし勇者ゆうしゃ実力じつりょくはトーナメントをていた観客かんきゃくたちが一番いちばんよくっており、エルナがつよいことに疑問ぎもんひとはいなかった。


「エルナさまを」

「はいっ、ひめさま」

「もう、姫様ひめさまではありませんよ。ミシェルと名前なまえんでください。結婚けっこんするんですから」

「はい、ミシェル……」

「うふふ、エルナ、大切たいせつにしてくださいね」

「もちろんです」


 こうしてわたしたちは旅立たびだちのになった。

 ミシェルひめもドレスではなく今日きょうよろいている。


「さて、まいりましょうか」

「はい、ミシェルさま

「エルナさま準備じゅんびはいいですね」

「もちろんです。いつでもけます」

「では、出発しゅっぱつ


 姫様ひめさまおんな勇者ゆうしゃわたし二人ふたりだけをせた馬車ばしゃられていく。

 後続こうぞく馬車ばしゃには戦士せんし僧侶そうりょなどがっていた。


「やっと二人ふたりきりだね」

「はい、エルナ」

「ふふ、ミシェル……」


 そっとかたい、キスをする。

 あのちかいのキス以来いらい人目ひとめしのんでたびたびくちびるわせてきた。

 おんな同士どうし二人ふたりはおたがいがきなのだった。


 勇者ゆうしゃであるわたし聖女せいじょであるひめ

 二人ふたりちからわせればどんな魔王まおうだろうとつことができるはずだ。

 聖女せいじょ認定にんていされるだけの魔法まほうちからひめっていたのだ。

 世間せけんにはほとんどられていない強大きょうだい魔法まほうりょく

 勇者ゆうしゃちから何倍なんばいにもする補助ほじょ魔法まほうちから

 にかかったひとすら治療ちりょうするいやしのちから

 しかし、いずれもひめ生命力せいめいりょく犠牲ぎせいにするそうだ。

 このひとなせてはいけない。

 そんなひめも「勇者ゆうしゃまもる」とちかっているのをっている。

 わたしけんちからめて「ひめまもる」とあらためてちかうのだった。

 二人ふたりきてもどる、そのまで。


(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る