[総ルビ]滝川海老郎の短中編集

３．エンチャンター (4000文字)

●３．エンチャンター（enchanter）

　エルフ（elf）の美少女（びしょうじょ）、ラティア（Latia）嬢（じょう）のクラス（class）はエンチャンター（enchanter）だった。

　付与（ふよ）術（じゅつ）師（し）というやつだが、身体的（しんたいてき）接触（せっしょく）をしていないと、効果（こうか）を発揮（はっき）できないという、クソ要素（ようそ）がある。

　前衛（ぜんえい）が立（た）ちまわって戦闘（せんとう）しているときに、いちいちくっついていられたら邪魔（じゃま）以外（いがい）の何物（なにもの）でもない。

　だからクラス（class）のうち『最（もっと）も役立（やくた）たずのエンチャンター（enchanter）』と呼称（こしょう）されている。

　これは事実（じじつ）だが、俺（おれ）には関係（かんけい）がない。

　俺（おれ）はウォーロック（warlock）だ。

　そして範囲（はんい）魔法（まほう）を得意（とくい）とする。

　この範囲（はんい）魔法（まほう）は全（ぜん）方向（ほうこう）で、俺（おれ）を中心（ちゅうしん）に発動（はつどう）するため、俺（おれ）の至近（しきん）距離（きょり）にいないと、味方（みかた）だろうが死（し）ぬ。

　逆（ぎゃく）に言（い）えば、俺（おれ）の至近（しきん）距離（きょり）にさえいれば、安全（あんぜん）なのだ。

　魔力（まりょく）は俺（おれ）から出（で）ているが、火（ひ）の玉（たま）が俺（おれ）の体（からだ）から直接（ちょくせつ）飛（と）んでいくわけではないので。

　放出（ほうしゅつ）された魔力（まりょく）が一定（いってい）距離（きょり）を離（はな）れると、物質（ぶっしつ）化（か）して炎（ほのお）になるらしい。

　俺（おれ）の背中（せなか）に引（ひ）っ付（つ）いて、俺（おれ）を大幅（おおはば）に強化（きょうか）してくれるエンチャンター（enchanter）は、相性（あいしょう）が非常（ひじょう）にいい。

　他職（たしょく）には宝（たから）の持（も）ち腐（ぐさ）れだが、俺（おれ）個人（こじん）には、絶大（ぜつだい）な効果（こうか）が見込（みこ）める。

「というわけで、ラティア（Latia）嬢（じょう）は、俺（おれ）と相性（あいしょう）が非常（ひじょう）にいい」

「はいっ、そうみたいですね。でも範囲（はんい）魔法（まほう）なんて実在（じつざい）していたんですか、おとぎ話（ばなし）ですよね？」

「バラエル（Barael）の話（はなし）か？　実話（じつわ）なのだろう」

「実話（じつわ）、なんですか、にわかには信（しん）じがたいです。すごいです」

「まあな」

「それにしても、相性（あいしょう）がいいとか、なんか恥（は）ずかしい台詞（せりふ）ですね」

「そうだな」

「その、あの、体（からだ）の相性（あいしょう）みたいで」

　頬（ほほ）を染（そ）めて、目（め）を逸（そ）らすラティア（Latia）嬢（じょう）。

　おい聖女（せいじょ）だろ。なんだよエッチの相性（あいしょう）とか想像（そうぞう）してるのか。

　むっつり助平（すけべい）だろ絶対（ぜったい）。

　ちなみにエンチャンター（enchanter）に似（に）ているが全然（ぜんぜん）違（ちが）う職業（しょくぎょう）にバッファー（buffer）というのがある。

　補助（ほじょ）魔法（まほう）を使（つか）う魔法（まほう）使（つか）いだ。

　身体（しんたい）強化（きょうか）、魔法（まほう）攻撃（こうげき）力（りょく）強化（きょうか）魔法（まほう）などを相手（あいて）に掛（か）けることができるが、その倍率（ばいりつ）は低（ひく）い。

　確（たし）かに身体的（しんたいてき）接触（せっしょく）を用（もち）いず、ヒール（heal）のようにバフ（buff）魔法（まほう）をするだけで、お手軽（てがる）なので重宝（ちょうほう）するが、その効果（こうか）は限定（げんてい）的（てき）だ。

　それに対（たい）してエンチャンター（enchanter）の強化（きょうか）は、倍（ばい）近（ちか）いという噂（うわさ）がある。

　倍（ばい）の攻撃（こうげき）力（りょく）とか、想像（そうぞう）を絶（ぜっ）する。

　そして「体（からだ）の相性（あいしょう）がいい」相手（あいて）とは、さらに倍（ばい）ドンで強力（きょうりょく）になるという、これまた根（ね）も葉（は）もない、エッチな噂（うわさ）がある。

　だからエンチャンター（enchanter）は性的（せいてき）な噂話（うわさばなし）が絶（た）えない。

　彼女（かのじょ）も少（すく）なからず、そういう話（はなし）を聞（き）いたことがあるのだろう。

　まったく純真（じゅんしん）な俺（おれ）の聖女（せいじょ）に何（なに）を吹（ふ）き込（こ）んでるんだか。

「体（からだ）の相性（あいしょう）……た、確（たし）かめてみますか？　初（はじ）めてなので本当（ほんとう）か分（わ）からないんです」

　もう夕方（ゆうがた）。これから寝（ね）る時間（じかん）だ。

　目（め）を潤（うる）ませている。

　夕日（ゆうひ）で光（ひかり）はやや赤（あか）いが、ラティア（Latia）嬢（じょう）の顔（かお）はその中（なか）でもさらに真（ま）っ赤（か）なのが分（わ）かる。

　なんだか、俺（おれ）とラティア（Latia）嬢（じょう）が今（いま）からしけ込（こ）むみたいじゃないか。

「あの、宿屋（やどや）まで、一緒（いっしょ）に行（い）ってください」

「金貨（きんか）やったろ、一人（ひとり）で行（い）けないのか？」

「あの、一人（ひとり）で宿屋（やどや）に行（い）くと、連（つ）れ込（こ）まれそうになったことがあって、怖（こわ）いんです」

　俺（おれ）の腕（うで）の裾（すそ）をギュっと強（つよ）く握（にぎ）ってくる。

　その手（て）はわずかに震（ふる）えていた。

　唇（くちびる）もきゅっと結（むす）んで、何（なに）かに耐（た）えるような表情（ひょうじょう）をしている。

　どこにもクソ野郎（やろう）はいる。

　なるほど、これほどの美少女（びしょうじょ）が一人（ひとり）で宿屋（やどや）に来（く）れば、一発（いっぱつ）ヤッてやろうという不届（ふとど）き者（しゃ）がいてもおかしくはない。

「それから、これはお願（ねが）いなんですけど」

「なんだ」

「一緒（いっしょ）の部屋（へや）に、その、泊（と）まって欲（ほ）しいです。も、もちろんダブル（double）ベッド（bed）で」

「そんなに宿屋（やどや）が怖（こわ）いのか？」

「はい」

　なるほど、これは問題（もんだい）だな。

　俺（おれ）のことは怖（こわ）くないのだろうか。

　一番（いちばん）、悪（わる）いことをしそうな格好（かっこう）をしている黒（くろ）ずくめなのだが。

　宿（やど）は裏（うら）路地（ろじ）のヤバそうなところは避（さ）けた。

　お嬢（じょう）さんを連（つ）れていけるような宿（やど）ではない。もちろん一発（いっぱつ）ヤるだけなら別（べつ）だ。

　一本（いっぽん）裏通（うらどお）りにある、知（し）る人（ひと）ぞ知（し）る感（かん）じの比較的（ひかくてき）綺麗（きれい）だが値段（ねだん）は手（て）ごろな宿屋（やどや）を見（み）つける。

「よし、ここにするか、いいな？」

「はい」

　ラティア（Latia）嬢（じょう）はまだ俺（おれ）の服（ふく）の裾（すそ）をギュっと握（にぎ）って離（はな）さない。

　よほど怖（こわ）い思（おも）いをしたと見（み）える。

　ドア（door）を開（あ）け、受付（うけつけ）を済（す）ませる。

　宿屋（やどや）の主人（しゅじん）は、俺（おれ）をしっかり見（み）た後（あと）ラティア（Latia）嬢（じょう）をさっと見（み）ていぶかしむが、見（み）て見（み）ぬ振（ふ）りをして、何（なに）食（く）わぬ「俺（おれ）は何（なに）も知（し）らないですよ」という顔（かお）で鍵（かぎ）を渡（わた）してくる。

「くれぐれもトラブル（trouble）はご遠慮（えんりょ）ください」

「分（わ）かってるって」

　俺（おれ）はできそこないの笑顔（えがお）を貼（は）り付（つ）けて、それに応（おう）じる。

　ラティア（Latia）嬢（じょう）も怖（こわ）がりながらも笑顔（えがお）を浮（う）かべて店主（てんしゅ）に頭（あたま）を下（さ）げる。

　店主（てんしゅ）はその時（とき）初（はじ）めてラティア（Latia）嬢（じょう）の顔（かお）をはっきりと見（み）たのだろう。

　鼻（はな）の下（した）を伸（の）ばして店主（てんしゅ）は一言（ひとこと）。

「いくらだ？」

「は？」

　俺（おれ）は一瞬（いっしゅん）意味（いみ）が分（わ）からなかった。宿（やど）代（だい）を払（はら）ったのはこちらだ。

「その子（こ）、いくらだったの？　後（あと）で俺（おれ）にも貸（か）してくれる？　それでいくら？」

「は？」

「奴隷（どれい）でしょ？　いくらで買（か）ってきたんだい？　それとも化粧（けしょう）もしてないけど娼婦（しょうふ）なの？」

「どっちでもない。知人（ちじん）だ」

「うそん」

「本当（ほんとう）」

　俺（おれ）は店主（てんしゅ）をにらみつけるが、平気（へいき）な顔（かお）をしている。

　無駄（むだ）に場数（ばかず）を踏（ふ）んだこういう店主（てんしゅ）は質（たち）が悪（わる）い。

「そんな見（み）え見（み）えの嘘（うそ）ついてもダメだよ」

「本当（ほんとう）に知人（ちじん）だ。シメるぞ」

「ひっ、こわ。これだからウォーロック（warlock）はおっかねえ」

「分（わ）かってるんだったら、黙（だま）ってろ」

「あーはい。すみませんね。で一発（いっぱつ）だけでいいよ、いくら？」

「貸出（かしだし）するわけないだろ、頭（あたま）に魔法（まほう）叩（たた）きこむぞ」

「うひょおお。こりゃあ失礼（しつれい）。どうぞごゆっくり。げへへ」

　エロい顔（かお）を浮（う）かべて、俺（おれ）たちを奥（おく）に促（うなが）す。

　ラティア（Latia）嬢（じょう）の顔（かお）を見（み）たら、目（め）に涙（なみだ）を浮（う）かべているが、声（こえ）を上（あ）げて泣（な）かないように必死（ひっし）に我慢（がまん）していた。

　俺（おれ）の服（ふく）の裾（すそ）はシワがよって、痛（いた）そうなぐらいギュッと強（つよ）く握（にぎ）られている。

　こんな子（こ）になんてことを。守（まも）らないと。

　そんな感情（かんじょう）になるのは俺（おれ）の中（なか）では非常（ひじょう）に珍（めずら）しい。

　部屋（へや）に入（はい）り、内鍵（うちかぎ）をおろす。

　これで、あのゲスい店主（てんしゅ）も入（はい）ってこれない。

「まったくクソ店主（てんしゅ）だったな」

「はい」

　ラティア（Latia）嬢（じょう）は鍵（かぎ）を見（み）て、ほっと胸（むね）をなでおろす。

　その表情（ひょうじょう）はまだ硬（かた）いけど、少（すこ）しだけ安心（あんしん）したように無理（むり）やり笑（わら）って見（み）せる。

「ところで、俺（おれ）がラティア（Latia）嬢（じょう）を襲（おそ）う可能（かのう）性（せい）については、考慮（こうりょ）しなくていいのか？」

「そういうことしない人（ひと）だと理解（りかい）しているつもりです。これでも人（ひと）を見（み）る目（め）には自信（じしん）があります」

「それでも、男（おとこ）は男（おとこ）だ」

「知（し）っています。でも、あなたになら襲（おそ）われても文句（もんく）は言（い）いません。金貨（きんか）前払（まえばら）いですから」

　今度（こんど）の彼女（かのじょ）はニッと笑（わら）って見（み）せる。

　冗談（じょうだん）のつもりのようだ。全然（ぜんぜん）笑（わら）えていなくて、痛々（いたいた）しいから可哀（かわい）想（そう）だけど。

　その健気（けなげ）な姿勢（しせい）は、儚（はかな）い美少女（びしょうじょ）そのもので、このまま保存（ほぞん）したい。

「私（わたし）なんかの処女（しょじょ）でも、高（たか）く、買（か）ってくれるんでしょうか？」

「ちょっ、本当（ほんとう）に処女（しょじょ）なのか？」

「そうですよ、悪（わる）いですか。まだ体（からだ）を売（う）ったことはないです。いくら貧乏（びんぼう）でも、エルフ（elf）は体（からだ）を安（やす）く売（う）るものではないと、強（つよ）く言（い）われて育（そだ）ちましたから」

「ああ、そうだろうな」

　エルフ（elf）は見（み）目（め）がいいため、奴隷（どれい）でも娼婦（しょうふ）でも高（たか）く売（う）れる。

　体（からだ）を売（う）るのは最終（さいしゅう）手段（しゅだん）だが、安売（やすう）りをしてはいけない。

　もちろん本意（ほんい）は、誇（ほこ）り高（たか）いエルフ（elf）は誰（だれ）にだろうと体（からだ）を売（う）ってはいけないという意味（いみ）だ。

　そんな彼女（かのじょ）が、優（やさ）しく微笑（ほほえ）む。聖母（せいぼ）様（さま）のようだ。

「でも、あなたになら、抱（だ）かれても、いいです。売春（ばいしゅん）がダメなら、無料（むりょう）でも、いい……」

「簡単（かんたん）に言（い）ってくれる」

「簡単（かんたん）じゃないです。一大（いちだい）決心（けっしん）ですよ、これでも」

「そうなのか」

「はい」

　顔（かお）はまた真（ま）っ赤（か）になっている。

　冗談（じょうだん）にしても、本当（ほんとう）にしそうで困（こま）る。

　俺（おれ）が真剣（しんけん）な表情（ひょうじょう）で見（み）つめてやると、耐（た）えられなくなったのか視線（しせん）を逸（そ）らす。

　その流（なが）し目（め）がエロい。

　誘（さそ）っているわけではないのだろうが、彼女（かのじょ）の顔（かお）は整（ととの）いすぎていて、どんな表情（ひょうじょう）をしても、見（み）ているこっちは劣情（れつじょう）を催（もよお）すようにできている。

　無垢（むく）な少女（しょうじょ）が一生（いっしょう）懸命（けんめい）誘（さそ）っているようで、背徳的（はいとくてき）だとさえ思（おも）う。

「じゃあ、ほら、こっち来（こ）い」

　隣（となり）のベッド（bed）に腰（こし）かけようとしていたラティア（Latia）嬢（じょう）を俺（おれ）のベッド（bed）に誘（さそ）う。

「ひゃい、その、優（やさ）しくしてください」

「ああ、約束（やくそく）する。優（やさ）しくする」

　俺（おれ）の横（よこ）に立（た）っているラティア（Latia）嬢（じょう）に、俺（おれ）は魔法（まほう）袋（ぶくろ）から、桶（おけ）を渡（わた）す。

「はい？　桶（おけ）ですね」

「ただの桶（おけ）だ。しっかり持（も）って」

　俺（おれ）はそこに、魔術（まじゅつ）でお湯（ゆ）を注（そそ）ぐ。

　こういうとき魔術（まじゅつ）師（し）は便利（べんり）だ。こういうことができる。

　俺（おれ）は最後（さいご）にタオル（towel）を出（だ）すと渡（わた）す。

「お湯（ゆ）それからタオル（towel）ですね」

「そうだ。向（む）こう向（む）いてるから、そっちで後（うし）ろ向（む）いて服（ふく）脱（ぬ）いで、体（からだ）を拭（ふ）くといい」

「あ、あの……」

「なんだ」

「ありがとう、ございます。何（なに）から何（なに）まで」

「いいんだ」

　ラティア（Latia）嬢（じょう）は顔（かお）を赤（あか）くして、隣（となり）のベッド（bed）に戻（もど）り、こっちを見（み）てくる。

「向（む）こう、向（む）いててくださいよ。ルーク（Luke）様（さま）だから見（み）ててもいいですけど……」

「いや、見（み）ない。聖母（せいぼ）ラルクーシア（Larcusia）様（さま）に誓（ちか）って、向（む）こうを向（む）いている」

「えっそこまで、私（わたし）の裸（はだか）、見（み）たくないですか？　やっぱり汚（きたな）くて貧相（ひんそう）ですもんね。なんだかショック（shock）です」

「そう言（い）う意味（いみ）ではない。君（きみ）の体（からだ）は綺麗（きれい）だ。美（うつく）しすぎるから、暗黒（あんこく）魔術（まじゅつ）師（し）には眩（まぶ）しすぎるんだよ」

「ふふふ、暗黒（あんこく）魔術（まじゅつ）師（し）さんですか」

「そうだ」

　彼女（かのじょ）は笑（わら）って、向（む）こうを向（む）いたと思（おも）ったらワンピース（one piece）を脱（ぬ）いでしまう。

　綺麗（きれい）な背中（せなか）、細（ほそ）い体（からだ）が見（み）える。

　おっといけない。俺（おれ）は聖母（せいぼ）様（さま）に誓（ちか）った身（み）だ。後光（ごこう）に消（け）し炭（ずみ）にされないように向（む）こうを向（む）いた。

「んっ、ふふん、ふんふん」

　彼女（かのじょ）が鼻歌（はなうた）を歌（うた）いながら、体（からだ）を拭（ふ）いている。

「お湯（ゆ）、気持（きも）ちいいですよ。ありがとうございます」

「ああ」

　部屋（へや）は鼻歌（はなうた）以外（いがい）静（しず）かだ。

　他（ほか）にはたまにお湯（ゆ）を絞（しぼ）る音（おと）がするだけだ。

　なんだか想像（そうぞう）すると、すごくエッチなので俺（おれ）は緊張（きんちょう）してくる。

「お湯（ゆ）で体（からだ）を拭（ふ）くのも久（ひさ）しぶりだったので、うれしいです」

「よかったな」

「はいっ」

　お互（たが）い背中（せなか）を向（む）けて、たまに会話（かいわ）をする。

　なんだかこそばゆいというのだろうか。こういうことは経験（けいけん）したことがないので、表現（ひょうげん）が難（むずか）しい。

　彼女（かのじょ）の体（からだ）は、いい匂（にお）いがするので、それが薄（うす）まるのは残念（ざんねん）ではあるが、埃（ほこり）まみれなのは女（おんな）の子（こ）には辛（つら）かろう。

「ありがとございました。終（お）わりましたよ」

「ああ」

　俺（おれ）がラティア（Latia）嬢（じょう）のほうを向（む）いたら、もう茶色（ちゃいろ）いワンピース（one piece）に戻（もど）っていた。

　なんだか残念（ざんねん）な気持（きも）ちもあるが、ほっとした気持（きも）ちもある。

「じゃあ次（つぎ）は、私（わたし）がルーク（Luke）様（さま）をお拭（ふ）きしますね」

「はあ？」

「え、ダメなんですか？」

「自分（じぶん）で言（い）ってる意味（いみ）を考（かんが）えてくれ」

「よく分（わ）かりませんでした」

　これだから無垢（むく）は困（こま）る。