第2話 軽自動車は狭い (2000文字)

だい2 軽自動車けいじどうしゃせま


 じいちゃんの軽自動車けいじどうしゃえきにやってきた。

「おぉぉ、秀介しゅうすけ明日香あすかちゃん、ってって」

「こんにちは」

「こんにちは。おじゃまします」


 おれたちは二人ふたり後部こうぶ座席ざせきる。


「んじゃすぞ」


 片方かたほうからったので、おくめる。

 そのさいかさなって、さわってしまう。


「わるい」

べつにいいって」

「そか」


 明日香あすかのぬくもり。

 なんだかなつかしいな。

 ちいさいころ本当ほんとうちいさなをふたりでつないで、ずっとはしまわった。


 軽自動車けいじどうしゃ駅前えきまえのビルぐんけると、すぐに田舎町いなかまち風景ふうけいになり、次第しだいいえもまばらになっていく。

 そうしてみちすすんでいき、山間やまあいのぼっていく。


「あっ、んん」

「ごめん」

「だから、いいって」

「すまん」

「もう、じゃあにぎっててよ」

「いいぞ」


 二人ふたりにぎる。

 山道やまみちおもった以上いじょう左右さゆうれて、安定感あんていかんわるい。

 からだ左右さゆうれて、何回なんかいたる。

 明日香あすかすこ不安ふあんだったのだろう。

 おれをつないでそれを誤魔化ごまかそうとしているようだった。


「こんなにやまなかだっけ、ねえしゅうちゃん」

「そうだな。ちいさいときはてたかららないんじゃないの?」

「そっか、なるほど」


 ふむふむ、といながらスギばやしながめている。

 このあたりもむかし植林しょくりんして全部ぜんぶスギばやしにしてしまった。

 花粉症かふんしょうもとだ。

 さいわおれたちはまだ大丈夫だいじょうぶだが、両親りょうしん花粉症かふんしょうがある。


 明日香あすかがたまににぎにぎしてきてなんだかかわいい。

 ちからはいったり、けたりするのだ。

 本人ほんにん自覚じかくはないのだろうけど、なんだか子供こどもみたいで。


「どうしたの?」

「うんにゃ」

「そう」


 まあ誤魔化ごまかしておこう。

 おなどしだけど、明日香あすかはたまにおねえさんぶりたいとしごろみたいだしな。


 ひろおくける国道こくどうかられて、結構けっこう山道やまみちへとはいっていく。

 国道こくどう沿ってかわながれているので、はしわたる。


「いい雰囲気ふんいきはしだね」

「コンクリートだけど、けっこうふるい」

「だよね、耐震たいしんとか」

「それはいま予算よさんがないんだと」

「へぇ」


 コンクリートきょうわたり、反対はんたいがわくと、さらにやまのぼる。

 そしてすこはいったところがじいちゃんちの集落しゅうらくだった。


 最後さいごなんて本当ほんとうみちほそくてひやひやした。


「ついたー」

「お、おう。おつかれ」


 明日香あすか両手りょうてげてびをする。

 笑顔えがおがまぶしい。

 見慣みなれているとはいえ、常人じょうじんだったられてしまいそうだ。


「おっきくなったなぁ」

「いえいえ」

「あはは」

「それに、明日香あすかちゃん、えらい別嬪べっぴんになってまぁ」

「えへへ」


 まんざらでもなさそうにえへへとわらう。

 学校一がっこういち美少女びしょうじょわれていることくらい本人ほんにん自覚じかくしている。

 否定ひていするのもへんだし、まあれるしかないだろうな。


 駐車場ちゅうしゃじょうまわりにはいえがあって、段々畑だんだんばたけひろがっている。


「これなつミカンかな?」

「これは甘夏あまなつだよぉ」

「おじいちゃん、なるほど、ありがとう」

「へいへぇぃ」


 おれいわれたおじいちゃんも満更まんざらでないというかおはなしたこする。

 別嬪べっぴんだもんな、明日香あすか

 ありがとうなんてわれたらこっちもれちゃうよね。


 さて、テレテレしつつ三人さんにん母屋おもやへとかう。

 ガラガラガラ。


「こんにちはー、おばあちゃーん」

「おーしゅうちゃん、よぅたねぇ」


 まだ元気げんきなおばあちゃんが出迎でむかえてくれる。

 こしがっているがまだまだ現役げんえき家事かじはたけ世話せわもしている。

 じいちゃんはまえよりほそくなったがする。

 やはり確実かくじつとしはとっていくんだな、なんてすこさびしくなってしまった。


「あらぁ、明日香あすかちゃんかい?」

「はい、向日葵ひまわり明日香あすかです」

しゅうちゃん、よかったなぁ、大当おおあたりじゃない」

「え、おれ?」

「およめさん、結婚けっこんするんだろう?」

「いや、えっと」

結婚けっこんしないのかい? もったいないねぇ」

「いやまあ、しないというかするというか」

「あはは、ずかしいのか、まあそういうとしだもんねぇ」


 おばあちゃんにおれもタジタジだった。

 結婚けっこんするっていきなりなんだもの。

 明日香あすかこまったように笑顔えがおける。


「なんかむかい?」

「あ、まだペットボトルあるんで」

わたしも」


 二人ふたりして手持てもちのペットボトルをせる。


「わかったわぁ。じゃあお饅頭まんじゅうだけすわねぇ」

「あ、はい」

「ありがとうございます」


 いえれてもらってテーブルにならんですわる。

 すぐに温泉おんせん饅頭まんじゅうてきた。

 ちかくに温泉おんせんがあり、そこで製造せいぞうしているのがこの近所きんじょのスーパーでもっているらしい。

 ちいさいときにたときも毎日まいにちのようにもらったおぼえがある。


美味おいしいです」

「もう一べる?」

「あ、え……はい」


 明日香あすかちいさく。はいとこたえていた。

 ひそかにけっこういしんぼうなところがあるのだ。


 こしあんに茶色ちゃいろかわのお饅頭まんじゅう

 かなりあまいが美味おいしいのだ。


 おれはお饅頭まんじゅうべたあと、ジンジャーエールをむ。


「ふぅ」


 さっぱりしてこちらも美味おいしい。

 このわせがおれきだった。


 ミーンミーンミーンミーンミーン……。


「ミンミンゼミだね」

「そうだよぉ」

「うちのほうはまだアブラゼミがいてます」

「こっちはすこすずしいのかねぇ」

「そうかもしれませんね」


 おばあちゃんと明日香あすか談笑だんしょうしたりしていた。

 そっか結婚けっこんしたら、明日香あすかのおばあちゃんでもあるんだな、まごみたいなものだ。

 結婚けっこんはしないけどな。



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