5.踊り子の服[終] (5000文字)

●5.おどふく


 さておれたちはゴブリンgoblinたおし、報酬ほうしゅう金貨きんかれた。

 じつえば、ゴーストghost欠片かけら換金かんきんがくのほうがゴブリンgoblin報酬ほうしゅうよりはるかにたかい。

 しかし「やみ聖職者せいしょくしゃ」たる黒魔術くろまじゅつウォーロックwarlockであるから、ゴブリンgoblinのような本当ほんとう卑怯ひきょう連中れんちゅうっておくことなどできない。

 卑怯ひきょうえばドルボDorboおれさがしているらしいがったことではない。


ゴブリンgoblinなんだが、っているとはおもうが女性じょせいさらっておかすというのは本当ほんとうだ」

「え、うそ、そうなんですか……」


 冒険ぼうけんしゃギルドguildなかつぎクエストquestさがすように掲示けいじばんながら雑談ざつだんをする。

 となりにいたラティアLatiaじょうおれうしがわまわってきていてきた。


 最初さいしょすこふるえていたが、だんだんおさまってくる。


わたし本当ほんとうゴブリンgoblin、すごくこわかったんです。はじめての本格的ほんかくてき戦闘せんとうで」

「そっか」

「はい。以前いぜん、ちょっとだけたたかったときに、おそわれそうになって」

「そうか、それは災難さいなんだったな」

ルークLukeさまにくっついていたから我慢がまんできたんです」

「ふむ」

「もっと、もっとつよくなりたい、もう足手あしでまといはいやです」


 おれにギュッとうでまわしてくっついてくる。

 また背中せなかやわらかいふくらみがこれでもかとくっついてくる。

 ドキドキ[onomatopoeia]している心音しんおんすらかんじられた。


 その感触かんしょくはまさしくラティアLatiaじょうきているあかしだ。


 はぁはぁはぁという彼女かのじょのなまめかしい息遣いきづかいがおれのすぐうしろからこえてくる。


 おれエンチャンターenchanter能力のうりょくにより自分じぶん魔法まほう格段かくだん強化きょうかされたのを実感じっかんしている。

 しかし彼女かのじょおれ彼女かのじょなしでの攻撃こうげきりょくたことがないので、自分じぶん功績こうせき評価ひょうかできていないようだった。

 だから自分じぶん自身じしんちから過小評価かしょうひょうかしているのだ。


 「からだ相性あいしょうがいい」かはともかく彼女かのじょエンチャンターenchanter能力のうりょくおれ保証ほしょうする。


「あの、わたしつよくなります。決意けついしました」

「そうか」

おど衣装いしょうます」

「え、いいのか?」

「はい」

「どんなふくたことあるのか?」

「はい、一度いちどだけ、酒場さかばで。……すごくぬのすくなくてびっくりしました」

「じゃあ、やめたほうが」

「いえ、るんです。エンチャンターenchanter能力のうりょくって厚着あつぎより薄着うすぎのほうが効果こうかたかいんです。だから、おど衣装いしょうって本来ほんらいエンチャンターenchanter衣装いしょうだったんだそうです」

「そ、そうか。ならおれなにうまい」

「いままで活躍かつやくする機会きかいもなかったし、すごくずかしいからようとおもわなかったけど、うん、わたしプロproエンチャンターenchanterになるんです」


 おど衣装いしょうとは。

 端的たんてきえば、すごくちいさなブラbraパンツpants装飾そうしょくがついたものだ。

 装飾そうしょくひん魔術まじゅつてきさくようがあり、増幅ぞうふく効果こうかがある。


 本職ほんしょくおどダンスdanceおどかみにささげることで、補助ほじょ魔法まほう効果こうかせる。

 かみ彼女かのじょたちの「肉体美にくたいび」をとしている。はるかむかし全裸ぜんら奉納ほうのうまいをしていたらしい。

 一般人いっぱんじんまえでは普通ふつうワンピースone pieceのような衣装いしょうていたのだが、しかしやはりエンチャンターenchanterのような直接的ちょくせつてきなものより効力こうりょくひくい。

 そこでかんがされたのがあの露出ろしゅつきわめてたかい、必要ひつよう最低限さいていげん部分ぶぶんのみをおお服装ふくそう、いわゆるひもビキニbikiniタイプtypeだった。

 また装飾そうしょくひん非常ひじょう高価こうかだがそのぶん増幅ぞうふく効果こうかたかくなる。


 ただあのぬのなんてほとんどないふくなのに一体いったいがたになっている装飾そうしょくひんのせいで値段ねだんはバカたかいらしい。

 そのため露出ろしゅつもっとたかおど衣装いしょうせておどらせるのを、王侯おうこう貴族きぞく見世物みせものとしてこのむという、イヤらしい文化ぶんかがある。


 エンチャンターenchanterはそうではないが、おど分類ぶんるいじょう娼婦しょうふ一種いっしゅだ。

 つまり、そういうあつかいだということだ。


 彼女かのじょ処女しょじょおどになる、とっているのだ。

 いくらふく起源きげんエンチャンターenchanterだろうと、あんな露出ろしゅつふくずかしいだろうに。


「いいか、おれ一応いちおう反対はんたいする。自分じぶん犠牲ぎせいにまでするものではない」

「いいんです。わたしよわいから」

よわくはない。はっきりうがおれ範囲はんい魔法まほうばいぐらい強化きょうかされていた」

ばいですか……」


 ばいいて、まるくするラティアLatiaじょう

 ほんのりほほめて「ばいばい……んっ」とつぶやく。


「やっぱりからだ相性あいしょう、いいんですね」

「え、そうなのか?」

まえ野良のらんだひと半分はんぶん強化きょうかされませんでしたから」

「それは、たぶん……」

「たぶん?」


 そいつが下心したごころからのゲスい人種じんしゅだったからだ。

 彼女かのじょ魔力まりょくはとてつもなくんでいる。

 たりまえだが女性じょせいをとっかえひっかえしてただれた生活せいかつをしているようなヤツの魔力まりょくよごれていて、そのよごれた魔力まりょくではラティアLatiaじょう綺麗きれい魔力まりょくうはずがない。


「そいつの魔力まりょくよごれていたからだよ。綺麗きれいじゃないとわないんだ」

「そうだったんですねっ」


 ラティアLatiaじょうおれ背中せなかにくっついたまま、うれしそうにちいさく上下じょうげする。

 う、うん。上下じょうげするとからだにくっついたやわらかいふくらみも上下じょうげれて、ぷるんぷるんという感触かんしょくがあってたまらない。


 魔力まりょくよごれは生活せいかつ習慣しゅうかんじゅなどのおはらグッズgoods性行為せいこうい頻度ひんどまる。

 性行為せいこういはなければないほうがよい。理想りそう処女しょじょ童貞どうていだ。

 坊主ぼうずにくわないがあれも一種いっしゅ願掛がんかけ、または自己じこのろいだ。

 べつにくわないというちかいをてなければ関係かんけいはないので、おれにく普通ふつうべる。

 おれ最大さいだい禁欲きんよくちかいは童貞どうていつらぬくことだ。

 まぁなかにはにく生臭坊主なまぐさぼうずばれる人種じんしゅもいるが、あいつらはほかめんでもよごれきっていて、今更いまさらにくくらいどうということもない、ということだろう。


 あまりにもラティアLatiaじょうがくっついてくるので、おれ禁欲きんよくちかいをやぶらせようとするわななのかとおもうくらいだ。

 しかし彼女かのじょかおるとでやっていて悪気わるぎはないのだろう。

 いつても聖女せいじょさまのようなかわいらしい無垢むく笑顔えがおだった。


「それでおど衣装いしょううのか?」

「はっ、はいっ。どこでいましょうか」

ギルドguildのじゃダメなのか?」

「あ、そうですね。ギルドguildでもってるかもしれません」


 ということでギルドguild売店ばいてんでおものとなった。


「すみません店員てんいんさん。あの……お、おお、おど衣装いしょうっ、く、ださい」

おど衣装いしょうですね?」

「はぃ」

露出ろしゅつ非常ひじょうたかいのですが、だい丈夫じょうぶですか?」

「だいじょうぶでしゅ」


 彼女かのじょかおにさせて、まるで沸騰ふっとうしたヤカンのようだった。

 緊張きんちょうしており、台詞せりふみで、ずかしそうにちいさいこえこたえた。


 商品しょうひんだなではなくうしろの保管ほかんしつからしてくれた。


試着しちゃくしたほうがいいですね、むねサイズsizeがあうといいんですけど」

「はぃぃぃ」


 彼女かのじょおどふくひもビキニbikini」がわたされる。

 たしかにっているが、ぬのなんてほとんどなかった。ひもひも

 そのひも魔術まじゅつよう金属きんぞく装飾そうしょくがついていて豪華ごうかだ。


 試着しちゃくしつはいっていく。


 しばしつ。


 彼女かのじょ試着しちゃくしつからてきた。


「どう、ですか?」

「ああ、似合にあっている」


 しろ綺麗きれいなつやつやの素肌すはだ

 そのうえもうわけ程度ていどブラbraパンツpantsがついている。

 ひも部分ぶぶんには黄金色おおごんいろ装飾そうしょくひんがスダレのようについていて、なかなか煽情的せんじょうてきだった。

 無駄むだなぜいにくがまったくない。例外れいがいおおきなむねだけだ。

 理想的りそうてき綺麗きれいまるかたちをしていてたにがある。

 おしりちいさめで手足てあしほそい。

 スレンダーslender巨乳きょにゅうはこれでもかと、ギルドguildないでもとても目立めだつ。


「ひゃうぅぅ……ずかしいです」

「まあ、そうだろうな」

「でもでも。これで威力いりょく格段かくだんたかくなりますね。わたしたち、最強さいきょうペアpairです」

「そうかもしれないな」


 うえから羽織はお茶色ちゃいろマントmantle購入こうにゅうした。

 普段ふだんはあの衣装いしょううえマントmantle移動いどうする。


 ふたた掲示けいじばんながめる。


「じゃあこれ、オークorcむら討伐とうばつ

オークorc!」

「そうだな。オークorc

オークorcもその……おんなを」

「そうだ。ゴブリンgoblinおなかんじだな」

「そうですか。わたしたちのてきです」

「うむ、これでいいか?」

「はい」


 ラティアLatiaじょうはなにやら決意けついめいた表情ひょうじょうをして、ぐっとにぎった。


 そうして冒険ぼうけんしゃギルドguildて、まちなかをすたすたあるいていく。

 ラティアLatiaじょうはなんだかあかかおをしている。


「なんだかかおあかいが、だい丈夫じょうぶか?」

「いえ、だい丈夫じょうぶ、です。なんだかなかがすーすーするんです。そのマントmantleしたおど衣装いしょうなの意識いしきしてしまって、られてるんじゃないかってになって」

だい丈夫じょうぶだ。ちゃんとマントmantleかくれているだろ?」

「はい……わたし自意識じいしき過剰かじょう、なんですかね」

「そんなことはないさ。あんなふくしたているのは事実じじつだ」

「はいっ」


 たしかに視線しせんにしてあるくと、こちらへ視線しせんをよこすひとおおい。

 みんなラティアLatiaじょうているのか。

 たしかにべらぼうにかわいいからな、ラティアLatiaじょうは。

 それにマントmantleうえからでもむね目立めだつのだ。


 もんとおるときに誰何すいかされた。


「どちらさまですかな。マントmantleいでください」

「ひゃいっ」


 ラティアLatiaじょうこえうわずっていた。とたんにかおまる。

 そっとマントmantleぐ。


 ラティアLatiaじょうのまぶしいビキニbikini姿すがたのもとにさらされる。

 門番もんばんうえからしたまでじっくりながめてはなしたばした。


「ほほぅ、おどさん?」

「いえ、エンチャンターenchanterで」

「へぇぇ、おどエンチャンターenchanterさんなのね。めずらしいね。頑張がんばって」

「はぃぃ」


 そっとマントmantleもどしておれたちはまちあとにする。


 そうしてこうしてもりなかオークorcむら到着とうちゃくした。


「じゃあ、戦闘せんとう準備じゅんびをおねがいする」

かりました。ぎますね」


 なんだか全裸ぜんらになるみたいなイメージimageかんできたが、ビキニbikiniになるのだ。

 もりなか素肌すはださらラティアLatiaじょう場違ばちがかんがすごい。

 たしかにうつくしいもり妖精ようせいみたいだけども。


 さて、戦闘せんとうでやることはゴブリンgoblinおなじだ。

 ちがうのはおれうしろにくっつているラティアLatiaじょうがほとんど全裸ぜんら同然どうぜんひもビキニbikiniだということだ。

 やわらかいふたつのふくらみがおれ背中せなかけられていて、ぽよんぽよんとかんじる。

 まわされたうでも、したえる生足なまあしふくていないかのように錯覚さっかくするほどだ。


 たしかにごわごわしたワンピースone pieceふくしより、ずっと素直すなお魔力まりょくとおるのをかんじる。

 からだ相性あいしょうがいいってじつ全裸ぜんらうって意味いみなのかもしれない。

 それなら辻褄つじつまがあう。


「これならいける」


 オークorcゴブリンgoblinとはちがい、巨体きょたい筋肉質きんにくしつだ。

 ちょっとやそっとの初級しょきゅう魔法まほう程度ていどではぶた丸焼まるやきにはできない。


 『ブゥブゥ』

 『ゴゴ、ブブゥ』


 すでにまえオークorcれがせまってきていた。


「ではいくぞ」

「はい」


 ラティアLatiaじょう魔力まりょく素肌すはだつうじてかんじる。

 この布切ぬのき一枚いちまいもないかんじはたしかにへんくせになりそうな快感かいかんがある。

 すっと魔力まりょくとおって気持きもちがいい。


イノセントinnocentエリアareaファイアfire


 使つかうのはいつものユニークuniqueスキルskill範囲はんい魔法まほう

 ただし威力いりょく段違だんちがいだ。


 "天国てんごく"のきよらかなほのお業火ごうかオークorcれをぶた丸焼まるやきにえていく。


「す、ごい」

「ああ、すごいな」


 おれたちのまわりにいたオークorcたちは次々つぎつぎたおれていき、っているオークorcはついに一匹いっぴきもいなくなった。


わたしエンチャンターenchanter効果こうか、こんなに……」


 彼女かのじょうしろからぎゅっとおれいままで以上いじょういだきしめてくる。

 そのふるえていた。


「こんな、すごいなんて……」


 うしろからなのでえないが彼女かのじょいていた。


わたし、はじめて、やくにたって。ひとやくにたって、こんな、こんなにうれしくて」


 おれ背中せなか湿しめっている。彼女かのじょなみだポロポロ[onomatopoeia]おれシャツshirtまれていく。

 ラティアLatiaじょうおれかおけて、左右さゆうにぐりぐりとこすりつけた。


きてて、よかったです」


 そこからはもう言葉ことばはなかった。

 ただおれ背中せなかにくっついて、いまきていることをかんじているのだとおもう。


 彼女かのじょはじめての自己じこ肯定こうていなのかもしれない。

 ずっと「役立やくたたずのエンチャンターenchanter」として、うしぐらかんじていたのだろう。

 彼女かのじょこころしばくさりいまバラバラ[onomatopoeia]になってくだったのだ。



 ◇◇◇


 おれルークLuke世界せかい最強さいきょう黒魔術くろまじゅつウォーロックwarlockユニークuniqueスキルskillエリアarea」による範囲はんい魔法まほう得意とくいだ。

 彼女かのじょラティアLatiaおどエンチャンターenchanter。もはや「役立やくたたず」ではない。最強さいきょう黒魔術くろまじゅつ何倍なんばいにも強化きょうかする、世界せかい最強さいきょうエンチャンターenchanterだ。


 おれ黒服くろふくくろ水晶すいしょうくろドクロのアクセサリーaccessoryけた、ひとからたら陰湿いんしつ格好かっこうをしている。

 彼女かのじょ普段ふだんはただの茶色ちゃいろローブrobe姿すがただ。

 しかし戦闘せんとうちゅう宿屋やどや個室こしつではおど衣装いしょうとなる。露出ろしゅつたかく、どうても破廉恥はれんちずかしいだろうが、それを上回うわまわ威力いりょく発揮はっきする。

 おれ彼女かのじょ相性あいしょうはばつくんにいい。


 なんだかおれまえでだけひもビキニbikiniせてくれているとおもうと、その信頼しんらいがとてもいとおしい。

 彼女かのじょとは処女しょじょ童貞どうてい関係かんけいつづけている。

 戦闘せんとうには背中せなかやわらかいふたつのふくらみがくっついたりすることもある。彼女かのじょはことのほか、スキンシップ[skin ship]きだ。

 おれはもんもんとしつつ、貞操ていそうちかいをやぶることはけっしてしない。

 おれたちの能力のうりょくのためにも、彼女かのじょとの信頼しんらい関係かんけい維持いじするためにも。


 これからも魔術まじゅつウォーロックwarlockつづけていきたいとおもう。

 おれたちの人生じんせいはまだまだこれから、さきながい。


ルークLukeさまいまふくぎますね。……ずかしいですけど」

「あ、ああ、たのむ」


 今日きょう今日きょうとて、彼女かのじょローブrobeぎ、露出ろしゅつたかおどふくになる。

 おれ彼女かのじょ一心いっしん同体どうたいとなり、世界せかい最強さいきょう範囲はんい魔法まほうはなつ。

 てきはまたしても一掃いっそうされた。


(了)

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