おともだち
それじゃあ、そろそろいいかな。
「それで、凪紗だっけ。どうしてあたしを呼んだの?」
「いや、リンネちゃんが、友達になったって嬉しそうに言ってたから、じゃあせめて連絡先を教えておかないとな、と思って」
「あー……」
いや、うん。確かにあのままだと連絡先も何も分からない状態だったけど……。それでもまさか、こうして家まで教えてもらえるとは思わなかった。
いや、というより。
「リンネは、人間なの?」
魔物説まであるぐらいだ。あたしも人間じゃないとは正直思っていたけど、こうして出てきてギルド職員と生活してるということは……。
「人間、違う、です」
「あ、違うんだ」
「はい、です。わたしは……神とか、精霊とか、それに近い、です」
「……っ!」
考えるよりも先に体が動いていた。反射に近い。そうしてあたしは、ダンジョンの外で使ってはいけない魔法を使おうとして……。
「ん……。だめ、です」
リンネが軽く手を振って、あたしが練り上げた魔力は霧散した。
こうなることが分かっていたのか、凪紗は無反応だ。ジュースを飲みながら、あたしのことをじっと見てる。
「わたしは……ダンジョンを作った、別、です」
「…………。リンネとは別のやつってこと?」
「です」
それを聞いて、あたしはゆっくりと息を吸って吐き出した。深呼吸。さすがに、今のはあたしが悪い。いきなり攻撃するなんて、反撃で殺されても文句は言えない。
「ごめん」
「いえ」
あたしが謝ると、リンネはゆるゆると首を振った。
「でも……。心当たりは、ある、です」
「は?」
「待ってなにそれ私も知らないんだけど!?」
あ、凪紗も知らないんだ。寝耳に水とばかりに驚いてる。
「そういえば、言ってなかった、です」
「大事なことはちゃんと話してほしいなあ……」
「ごめんなさい、です」
なんというか……。緊張感のないやり取りだ。それにしても、心当たりがあるなんて……。
「あ、リンネちゃん、もしかして例のパートナーさん?」
「はい……。確認は……してない、です。でも可能性は……高い、ですね」
「あー……。ちょっと分かるように説明して」
さすがに内容が意味不明すぎる。あたしがそう言うと、リンネが頷いて話してくれた。
聞き終えて、とりあえず言った。
「それ、絶対にあたしが聞いちゃいけないことだったと思うなあ……!」
「あははー」
「笑い事じゃないと思うんだけど!?」
このギルド職員は本当に気楽すぎると思う。もっと警戒感を持つべきなのに……! いや、落ち着けあたし。今更だ。
あたしは大きなため息をついて、凪紗を睨んだ。凪紗は笑顔のままだ。この子、かなり図太いと思う。ギルド職員なんてそれぐらいでないとできないのだろうけど。
「結局あたしに何をさせたいの?」
「たまにリンネちゃんと遊んであげてほしいだけ。仕事してる時とか、私はリンネちゃんのことを見てあげられないから」
「まあ……別にいいけど」
何度も言うけど。リンネがいい子なのは分かる。いや、いい子っていうのはおかしいかな。話によると、ものすごく年上みたいだし……。でもまあ、いいか。この子で。
うん……。まあ、それぐらいなら、いいかな。
「じゃあ連絡先とか教えてもらえるの?」
「それはもちろん」
そうしてあたしは噂の魔女の連絡先をゲットした。ちょうど、というか、昨日買ってきたらしい。あたしとのやり取りを見て慌てて買ったのだとか。
「ちなみにリンネちゃんはまだスマホ練習中だから、返信とかは遅いよ」
「難しい、です……」
「あー……。まあ、慣れるまではそんなものよね」
気持ちは、分からないでもない。あたしも初めて持った時は、いろいろ戸惑ったものだから。もうずっと前の話だけど。
ともかく、こうしてあたしはリンネと本当に友達になってしまった。嬉しいのは嬉しいけど、リンネの秘密は絶対に守らないといけない。聞けば、知ってるのはもう一人、ギルド職員の先輩だけらしいし。
本当はちゃんと報告するべきなんだろうけど……。この子は、好きにやらせておいた方がいいと思う。そうすれば、勝手に人助けしてると思うから。
「ところで、あの石については何か分かった?」
ハジメが暴走していた時に持っていた石だ。リンネはすぐに頷いて答えてくれた。
「あれは……女神とやらが、作ったもの、ですね。あの人に……無理矢理、くっつけた、ですよ」
「なんでそんなこと……」
「はっきりとは……分からない、ですが……。気に入らなかった、と思う、です」
犠牲者が少ないことが、ということらしい。女神からすれば、犠牲者はある程度多い方がいいらしいから。それをリンネがゼロにしてしまっているから、無理矢理作ろうとした結果だろう、とのこと。
本当に、女神とやらはクソだ。ダンジョンを作ったことからそれは分かりきってるけど。
でも、あたしはちょっとだけ思うんだ。
「現物は……見た、です。対策、するので……。次はない、ですよ」
女神にとっても、この魔女はクソだと思ってそうだなって。魔女対策をしようとしたら、あっという間に対応されるのだから。女神も怒るだろう、と。
まあ、あんな自称女神なんてどうでもいいんだけど。
「リンネ」
「はい?」
「とことんまでやればいいと思う」
あたしがそう言うと、リンネはわずかに口角を持ち上げて頷いた。
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