制裁?
「あ! あ! やめなさい! お姉様を撫でていいのはわたしだけなんだから!」
「いやそれはそれとしてなんで私の妹の体使ってんの?」
「う……」
すっと女神を睨む。一歩後退る女神。その反応は失礼ではなかろうか。
「いや、あんなハイテンションだったのにいきなり落ち着いて睨んだら誰だって怖いと思うけど」
「同感、です……」
「えー」
だって、私だって女神にはいろいろ思うところがあるわけですから。特に妹の体について。
「凪沙……。あいつと話すなら……どうぞ、です。ちゃんと……正直に、話させる、です」
「うん……。今はリンネちゃんの方が強いの?」
「はい、です。ダンジョンの維持に……多くの力を、使っている、です。わたしの方が……強い、ですよ」
「それでも深層の魔物とかよりは強いからね!」
それはまあそうだろうなとは思うけど……。リンネちゃんの方が強い、と聞くとちょっと安心だね。女神もそれは間違い無いって言ってるし。
それじゃあ……。聞きたいことは聞かせてもらおう。
「聞きたいことは単純。なんで私の妹の体を使ってるの?」
「家族の生き残りがいるなんて思わなかったから。それと……」
「それと?」
「イメージに一番近かったから」
女神が言うには。少し幼いぐらいの子供の体を探していたのだとか。そうして見つけたのが、それほど大きな損傷のない妹だった、と。
あとは場所。日本で、富士山に近いところで探していたらしい。これは単純に、リンネちゃんの封印が近くにあったから、だって。
リンネちゃんが封じられていたあの玉は、地下をずっと巡っていたらしい。それを女神も追いかけていて、そうしてダンジョンを作った時にたまたまいたのが、日本だった。ただそれだけ。
理解はした。納得はしない。私の妹の体が使われている事実は変わらないから。それも、かなりくだらない理由で。
もっとこう、実は妹には気付いていない力があって、とかだったら、まだ良かった……いや良くないかな。どっちみち女神を殴りたい気持ちには変わらない。
「めちゃくちゃ殴り飛ばしたい……!」
「わたしを? いいよ、どうせ痛くないし」
ものすごくいらっとした。なんだこいつ。人をいらつかせる天才かな?
この発言が不愉快だったのは、私だけじゃないみたい。リンネちゃんも眉根を寄せて不愉快そうにしていた。
「変わった……ですね。昔は……もっと、優しかった、です」
「お姉様も、今の人間を見ていたら分かるよ。人間はどいつもこいつも……」
女神からすれば。人間は、ここまでゆっくり育ってきた地球という惑星を、好き勝手壊し回る害虫なんだとか。
地球が長年かけて作ってきた資源を使うだけなら、地球に住まう生物して構わない。でもこいつらはそれを、お互いを殺すための兵器にしてしまった。しかも、他のあらゆるものを巻き込む形で。それが何よりも許せないのだとか。
女神にとって、人間は害虫。それでも地球に住まう生物であることに変わりないから、最低限生き残る道を残した。それが、ダンジョン。
なるほど。
「妹のこと関係ないよね?」
「むう……」
女神が私たち人間のことが嫌いなのは理解した。でも、そんなことはどうでもいい。女神が人間を嫌っているように、私だって女神を嫌ってる。
殴りたい。でも相手は妹の体。それに痛くもないらしい。どうしよう。
リンネちゃんを見る。目が合うと、リンネちゃんがこくりと頷いた。
「任せる、ですよ」
そして、リンネちゃんが杖を振る。すると、
「えええ!?」
女神が体からはじき飛ばされた、みたい。妹の体はその場に倒れ、拳大ほどの光球が出てきた。あれが、女神。
さらにリンネちゃんが杖を振る。光が集まって、人の体になった。リンネちゃんと少し似た女の子。でも生命は感じられない。ただの肉体。
なんとなく分かった。これは、リンネちゃんの体と同じやつだ。
私が考えている間に光の玉が作られた肉体に叩き込まれ、そしてその作られた女の子の目が開いた。
「な、な、な……!」
わなわなと震える女の子。そして、叫んだ。
「な、なんてことするのお姉様!」
「ついでに……こう、です」
「ちょお!?」
女の子の体が黒い鎖で縛り付けられた。なんだか絵面がひどい。
「能力を……封じ、ました。今のあいつは……人の子と、変わらない、です」
「え」
「へえ……」
驚き固まる女神と、思わず笑顔を浮かべる私。どっちか悪役か分からない。でも……いいよね?
ゆっくり女神に近づく。女神は引きつった笑顔で後退りする。
「ま、待って。考え直そう? あ、そうだ! あなたの願いをなんでも叶えてあげる!」
「妹を生き返らせて」
「…………」
やっぱり、命に関わることはできないらしい。知ってたよ。だってそれができるなら、リンネちゃんが先にやってくれただろうから。
「リンネちゃん。おもいっきりやっていいの?」
「もちろん、です。気の済むまで……どうぞ。体は……死なない、ですよ」
「あっは。ありがと」
「あ、あわわ、あわわわわ……」
私は、一流の冒険者と比べるとさすがに非力だ。でもそれは冒険者と比べるから。一般人と比べると、かなり上澄みの方になると思う。
見た目は普通だけどね。でも魔力での強化ぐらいはちゃんと使えるんだ。つまり、この女神相手なら、十分に痛みを与えられるはず。
もし妹が見ていたとしても、きっと喜ばないと思う。これはあくまで私の自己満足。世界の命運とかもどうでもいい。ただただこいつを殴りたい。ひたすらに殴りたい。気の済むまで殴りたい。
というわけで。
「歯、食いしばれ」
「は、話せばわかるあぎゃあああ!」
そんなことはあり得ない、というわけで。
私は女神をおもいっきり殴った。殴りまくった。
「うわあ……」
ユアちゃんがどん引きしてるっぽいけど、そんなことは気にならないのさ!
「あはははは!」
「ちょ、ま、……っ!」
「ん……。これで良し、です」
私はそのままずっと、女神を殴り続けた。
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