帰宅


 たっぷり一時間ほど殴り続けて、私が疲れてきたので終わりにした。我ながらよくやったと思う。


「凪沙。もういい、です?」

「うん……。だって、こんなことをしても、妹は喜ばないから……!」

「一時間も殴り続けたやつのセリフとは思えないわね!」


 ユアさんは黙っていてください。何も言えなくなるので。

 リンネちゃんは頷くと、倒れてる女神の方へと歩いていった。女神の顔をのぞき込んで、わずかに笑う。いい顔になった、と。


「少しは……反省した、です?」

「反省……した……」

「ん……。家族がいる……手を出す、だめ、です」

「分かってるよぅ……。生き残りがいるって知ってたら手を出さなかったよぅ……」


 いやそういう問題じゃ……。いや、いっか。もう私は満足した。これ以上、何かをするつもりは……。


「ふん!」

「あ」


 ユアが女神をおもいっきり蹴り飛ばした。いや、まあ、ユアも色々あっただろうからね。やりたい気持ちは分かる。リンネちゃんも薄く苦笑いするだけで止めなかったし。

 ユアによって第二ラウンドが開始される。まあ、うん。がんばって。

 私はその間に妹の体を見に行った。少し成長しているように見えるのは……女神が何かしたのかもしれない。見たこともない簡素な服を着てるけど、やっぱり間違い無く私の妹だ。眠っているだけのように見えるけど、息はしていない。

 期待はしていなかった……と言えば嘘になる。女神を追い出せば、もしかしたら妹が蘇るかも、なんて少しだけ思っていたけど……。そんな奇跡は、ない。


「遅くなってごめんね」


 妹の頬に触れる。冷たい体に、やっぱり私は一人だ、というのを改めて突きつけられたみたいで。気が付けば、涙が溢れてきていて……。

 ああ、だめだなあ。こうならないようにしたかったのに……。


「凪沙。大丈夫、です?」

「リンネちゃん……」


 いつの間にか、リンネちゃんが横に立っていた。


「あは……。やっぱり私は、一人きりだったよ……」

「…………。その……。わたしが、いる、ですよ?」


 リンネちゃんを見る。少しだけ、照れ臭そうに笑っていた。


「凪沙がいなくなるまで……。側にいる、ですよ」

「うん……。ありがとう、リンネちゃん……」


 やっぱりリンネちゃんは優しいなあ……。


「死ねやおらあ!」

「みぎゃあああ!」


 後ろの音がなければいい終わり方だったんだけどなあ!




 妹は私が背負って連れて帰ることになった。生命がないからアイテム袋に入れることも可能らしいけど……。さすがにそれはできない。大事な妹だから。

 外に出たら、火葬して、家族の墓に入れてあげるつもりだ。天国できっと仲良くやってるはずだから。

 それよりも。


「なんで一緒に来るの?」

「えへへ……」


 なんと女神がついてきました。お姉様と一緒がいいから、だそうで。正直なめてるのかと言いたくなったけど……。まあ、姉妹仲良くは、いいことだよ。うん。いいことだ。

 ちなみに例のごとく名前がないとのことだったので、ショウと名付けた。輪廻転生から。リンネちゃんの妹みたいなものらしいし。リンネちゃんは不服そうだったけど。

 そうして、戻ってきた。深層一層目に。


「なんで!?」

「ドラゴンの……焼き肉、パーティ、です」

「なんで!?」

「解決の……みたいな、です?」

「いえーい!」

「ショウは黙って!」


 リンネちゃんの考えることは時折分からない! いや、いいけど! 食べたいのならやるけど! 焼き肉いいよね! うん!


「さあ……ユア。焼く、ですよ」

「あれ? もしかしてあたしってこのために呼ばれてたりする?」

「はい」

「怒るよ?」


 いや、さすがに冗談だと思うよ。多分。

 リンネちゃんが解体してユアちゃんが焼いていく。そうしてみんなでお肉を食べる。調味料とかたくさん持ってきておいてよかった。なかなか美味しく食べられてるから。

 最初は女神を殴りにいく、ということでどうなることかと思ったけど……。終わりよければ全てよし、と考えていいかな。

 ショウが反省してるかは分からないけど、もう私も気が済んだからどうでもいいと思ってる。でも、うん。ダンジョンだけはどうにかした方がいいと思うけど。


「ねえ、ショウ」

「はぐはぐ……。なに?」


 こいつ、自分が生み出した魔物を自分で食って、それでいいの? いや、本人がいいのなら、私がとやかく言うことじゃないけど。


「ダンジョン、もう少しどうにかならない?」


 今はリンネちゃんがいるから、日本での犠牲者はなくなってる。でもリンネちゃんがいない場所、つまり国外だといつも通りだ。犠牲者は、今も出続けてる。

 ショウは少し考えるように視線を上向かせて、そしてまた私を見て。


「うーん……。まあ、凪沙にはこれからお世話になるし……。いいよ」


 そう言った。


「え。いいの? 本当に?」

「うん。完全になくすことは今更できないけどね。まあ、難易度調整ぐらいなら……いいかな」


 今現在、世界中から戦争がなくなっているのは、ダンジョンの脅威によるものだ。今更それをなくしてしまうと、犠牲になった人たちの意味すらなくなってしまう。だからやめることはしない。それが、ショウの意見。

 ショウにとってもダンジョンは最終手段だったらしい。実は直接国の指導者に言ったりとかもしたらしいよ。それでも変わらないから、強硬手段を使った結果がダンジョン。

 犠牲者が大勢出る。それは分かってる。だからせめて、無駄にならないように。そういうこと、らしい。

 良いか悪いかなんて私には分からない。でも……。家族の死に意味がなくなるのは、私も嫌だ。


「じゃあ、難易度調整? お願いね」

「はーい」


 軽いなあ……。ショウの返事に、私は思わず苦笑いした。


「凪沙。お肉。お肉、もっと、食べるです」

「ほら! もっと焼くよ!」


 リンネちゃんとユアちゃんの声。その声に少し元気をもらって、私はリンネちゃんの方に歩いて行った。

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