猜疑
轟音と共に雷が落ち、あっという間に全てのコボルトが黒焦げになって倒れてしまった。
そうして、私が来た道からゆっくりと歩いてくるのは、黒いローブの魔女様。フードを目深に被ってるけど、とても呆れられているのが雰囲気で分かってしまった。
「姫花。怪我はない、です?」
「はい……。ありがとうございます、魔女様。助かりました」
「いえ……。無事なら、いいのです」
ああ、やっぱり。魔女様はとっても優しい人だ。とりあえずこれで安心だ。この人の側は、不思議な安心感があるから。
ゆっくり安堵のため息をついて、みんなへと振り返る。口をあんぐりと開けて固まっていた。みんなは固まってるけど、ドローンから自動音声は流れてくる。
『なんだ今の雷』
『コボルトを倒してくれたってことは、救助ってことか?』
『あんな広範囲高威力の魔法見たことないぞ』
『てかあんな冒険者をそもそも見たことないが』
配信を見てる人たちのコメントだ。やっぱり魔女様はすごい人みたいで、魔女様の魔法は知らない人も多いみたい。
でも、魔女様をそもそも知らない人も多いみたいなのは気になる。もちろん私も知らなかったけど、こういった配信を見てる人たちは冒険者についても詳しい人が多い。
それなのに、魔女様を知ってる人が今のところ一人もいない。もしかして魔女様は海外の人なのかな。たまたまこっちに来ていた、とか。
そうしている間に、私の仲間も正気に戻り始めたみたい。へたり込んでいた人もいたけど、なんとか立ち上がって魔女様にお礼を言い始めた。
「あの……。ありがとうございます。姫花を、俺たちを助けてくれて」
「ありがとうございました……!」
「ん……。別にいい、です。それより……姫花は少し、疎外感を覚えている、です。もうちょっと……話し合いが……必要と思う、ですよ」
「ちょ!? 魔女様!?」
まさかそんな本人たちに言われるなんて……! いや待って怖い! みんながぐるんと勢いよく振り返ってきた! なんか怖い!
「姫花! どういうことよ!」
「いや、ちが、これは……」
「そうだよなあ……。俺たちが元々の友達で、姫花だけ後から参加だったもんな……」
「ごめん……! リーダーなのに、姫花の気持ちも分からなくて……!」
「あわ、あわわ、あわわわわ」
なんか、みんなにすごく気を遣われてる! ちょっと申し訳ない気持ちが出てくるよ。
でも。こうして心配してくれて、助けに来てくれて……。私は、考えすぎだったみたい。私はちゃんと、受け入れてもらえていたんだ。
それが、とても、嬉しい。
「ひぐ……」
「え」
「みんなありがどおおお」
「うわあ!?」
「姫花!? どうしたの!? どこか痛いの!?」
「痛いの痛いのとんでいけってやるか!?」
『子供かwww』
『なんだこのほのぼのパーティ』
『ええパーティやん。こういうパーティが全滅しなくてほんとよかった』
私にはもったいない仲間だよ……! 本当に、恵まれてる……。
「ん……。よかった、ですね。姫花」
そう言った魔女様は、やっぱりフードを被っていてよく表情が見えなかったけど、少し笑っているような気がした。
配信を通しての連絡で、とりあえずこの四層まで上位ランクの冒険者パーティが救助に来てくれるらしい。というのも、魔女様はまだダンジョンを潜るそうで、一緒に上までは来てくれないとのことだったから。
視聴者さんたちはそんな魔女様の態度に不満があるみたいでたくさん文句を言っていたけど、私としては十分だ。救助の冒険者が来てくれるまで待ってくれるらしいしね。
むしろ、救助に来たわけでもない魔女様が、完全な善意で私を助けてくれて、ここまで連れてきてくれた。感謝こそすれ、不満に思うはずがない。
それは私のパーティも同じみたいで、むしろ文句を言う視聴者さんを諫めていた。まあ意味はなさそうだけど。
そうして待つこと三時間。救助の冒険者が来てくれた。
「良かった。無事みたいね」
来てくれたのは、赤い鎧が特徴的な女性の剣士。Bランクパーティのリーダーさん、だったはず。確かなパーティの名前は、深紅。みんな真っ赤な装備を使っているのが特徴的。
「とりあえず……みんな、戻ったらギルドマスターの説教があるから、覚悟しておくように」
「うぐ……。ですよね……」
「分かってました……」
勝手に三層に入ったことはもちろん、今日なんて四層まで来てる。それも、救助を促すために。これは怒られても仕方がない。私ももちろん怒られるつもりだ。自分の意見をちゃんと言えなかった私にも問題があるから。
「それで……」
深紅のリーダーさんが、魔女様へと向いた。右手は、腰の剣に。
「あなたが、この子を助けてくれたのよね?」
「そう、です」
「あなたは……何者なの?」
深紅のリーダーさんが、腰の剣の柄をしっかりと握った。明らかに、魔女様を警戒してる。
意味が分からない。どうして、そんなに魔女様を警戒するのか。だって魔女様は、最初からずっと私を守ってくれていて……。
「あなたのような人は、冒険者にいない。少なくとも、このダンジョンに潜った人にあなたのような人はいなかった」
その言葉に、私は驚いて魔女様を見てしまった。
ダンジョンの出入りは徹底的に管理されてる。誰がいつ入ったのか、調べようと思えば簡単に調べられるほどに。
「このダンジョンのギルドは、あなたのことを誰も把握していなかった。どういうことかしらね?」
上位ランクのパーティリーダ―に睨み付けられた魔女様は、けれど特に大きな反応はなかった。ただ静かに、一瞥しただけ。
それは、戸惑っている、という様子ではなく。むしろ、例え襲われたところで問題ないとでも言いたげに。
「何が言いたい、です?」
「あなたは本当に人間なの?」
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