魔女はわりと好き放題やってるらしい
そんな深紅のリーダーさんの問いかけに、魔女様は小さくため息をついて踵を返した。肯定も否定もせず、ただ相手をすることすら面倒だと言いたげに。
「待ちなさい!」
「断る、です。わたしのことは、そちらで決めてほしい、です」
そう言って、魔女様はダンジョンの奥へと戻っていく。
私は。なんとなく、分かってしまった。これがもう、お礼を言う最後のチャンスだって。
だから。
「魔女様!」
私が大声で呼ぶと、魔女様は立ち止まって振り返った。
「あの……! 本当に、ありがとうございました! このご恩は忘れません!」
しっかりと頭を下げる。私の側で、私の仲間もみんな頭を下げたのが分かった。
「え、と……。その……」
魔女様の声は、少しだけ震えていた。恐怖とかそういうのじゃなくて、多分、恥ずかしがってる。ちょっと声がうわずってるし。
「恩は……気にしなくていい、です。でも、今後はちゃんと気をつける、ですよ?」
「はい……。もちろんです」
今回は助けてくれたけど、次は魔女様が近くにいるとは限らない。当然誰かが助けてくれる保証もないわけで。次からは、いや次なんてないように、気をつけようと思う。
私の返答に満足してくれたのか、魔女様は小さく頷いて、今度こそダンジョンの奥へと消えていった。
「…………。ぶはあ……。あんたたち、すごいわね……」
深紅のリーダーさんがそう言って、私は首を傾げた。
「何がですか?」
「あいつ……。とんでもないやつだったわ……。もしも戦いになっていたら、皆殺しにされていたかも」
深紅ほどのパーティのリーダーが言うなら、魔女様はやっぱりそれぐらい強いのだと思う。でも警戒は必要ないんじゃないかな。魔女様はきっと優しい人だから。
そんな答えに、深紅のリーダーさんは呆れたように肩をすくめていた。
その後。魔女様はいろんな場所で目撃されるようになった。私たちが潜っていたダンジョンだけじゃなくて、日本全国、いろんなダンジョンで人助けをしてる。
それを聞いて、私は思った。やっぱりいい人だったなって。
できればもう一度会ってお礼を言いたいけど……。無理、だろうなあ。
・・・・・
「凪沙。実験が成功した、です」
夜。晩ご飯の唐揚げをもぐもぐと頬張りながら、リンネちゃんはそう言った。
この子は昨日とお昼にあんなことがあったのに、なんだか平常運転だ。
昨日、急にリンネちゃんから念話が届いてかなり驚いたけど、人助けの最中で戻れないと聞いて、さらに驚愕した。まさかそんなに早く人助けを始めるなんて思わなかったから。
どんな子を助けてるんだろう、とちょっと思っていたけど、翌日、つまり今日のお昼頃にそれが発覚した。
学生のパーティのヒーラーが行方不明。そのヒーラーを助けたのが、リンネちゃんだった。
もちろんリンネちゃんは、リンネちゃんを知ってる人にばれないように対策はしてるらしい。認識阻害の魔法を使っていて、あの魔女とリンネちゃんが結びつかないようになっているのだとか。
じゃあ私も分からないんじゃと思ったけど、私だけその魔法の対象外にしているのだとか。リンネちゃんの勇姿を一人で確認できる。これはちょっと特別感があって嬉しい。いや待って違うそれはどうでもいいんだよ。
「実験って、どんな?」
「大穴に落ちても死なないようにした、です。いろんな石がクッションになっているはず、ですよ。スマホは壊れていた、ですが、人は死んでいなかった、です」
あの女の子のことだね。別のダンジョンのことだから私にはあまり情報が入ってこなかったけど、パーティからはぐれてしまった原因は大穴に落ちたことらしい。
そもそも落ちるな、という話になるけど……。さすがに学生のパーティを責めるのはだめかもしれない。きっとあっちのギルドが、本気のお説教をしてるだろうから。
ともかく。今後は大穴に落ちても、それが原因で死んでしまうということはほとんどなくなりそうだね。もっとも、大穴に落ちた時って、適正階層より下の魔物と戦うことで死んでしまう、ということの方が多いと思うけど。
その辺りはどうなんだろう? 聞いてみると、リンネちゃんは少し考えて言った。
「姫花も……魔物に殺されそうになっていた、です。少し考える、ですよ」
それきりリンネちゃんは黙ってしまった。
今更だけど。リンネちゃん、ダンジョンでわりと好き放題やりすぎじゃないかな。いやもちろん、一ギルド職員として、ダンジョンでの犠牲者が減ることは願ったりだ。少しでも減るようにと、新人への講習の機会はたくさんあるほどだから。
でも。リンネちゃんの場合は冒険者の質とかには手を出さず、ダンジョンそのものに手を出そうとしてる。これは、許されるべきことなのかな。
当たり前だけど、考えたところで私には分からない。あの女神とか名乗るやつからの天罰に襲われないことを祈るばかりだ。
「リンネちゃん」
「はい?」
「無理はしちゃだめだよ?」
私にとっては、リンネちゃんが一番大切だから。他の人のために無理をして、リンネちゃんが怪我とかしないかと心配になる。リンネちゃんはすごく強いけど、もしもの時があるかもしれないから。
リンネちゃんは何度か目を瞬かせていたけど、やがてほんの少し、嬉しそうに微笑んだ。
「もちろん、です。わたしも……ここが大切、ですので」
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