追放された冒険者の場合
「お前のような役立たずは、もういらない」
その日。僕は五年ほど在籍したパーティをクビになった。
「なんで……どうして……!」
クビになった日、僕はギルドの居酒屋でひたすらに酒をあおっていた。幸い、金はあった。金だけはあった。だから酔いつぶれるまで飲むことができる。
パーティを追放されたあの時。僕には少なくない金銭が支払われた。手切れ金、というやつだ。僕に支払われた手切れ金は、僕みたいな立場からすればかなり多い方だと思う。
僕は、強いパーティを支える裏方みたいな立場だ。パーティが探索に向かう前にポーションなど道具の各種準備をし、探索中は探索に集中できるように、魔石などのアイテムを拾うことに集中する。
そんな僕たちみたいなサポーターは金魚の糞扱いで決して良いわけじゃないけど……。それでも、この強いパーティを支えているという自負があった。誇りがあった、のに……。まさかリーダーからも、役立たずと言われるとは思わなかったな……。
「僕、頑張ってたんだけどなあ……」
カウンターに突っ伏して僕が言う。すると酒場のマスターは何も言わずに酒を出してくれた。かなり強い日本酒だ。それを一気に飲む。かっとした熱いものがこみ上げてくる。
「最近はサポーターが解雇される事例が増えてるみたいだな」
「みたいだね……。まさか自分もそうなるなんて思わなかったよ……」
「お前んところは、結構安定してると思ってたんだけどな。やっぱ下層まで潜るようになって、守るのが面倒になったか」
「そう、なのかな……」
サポーターを守るのはパーティの義務だ。ギルドもサポーターを雇うなら必ず守るようにと要請する。もしサポーターだけに何かあった場合は、説明を求められるぐらいだ。
もちろんサポーターも自分の身は自分で守るためにいろいろとやってきた。結界の魔道具は常に身につけてるし、パーティの足を引っ張らないように逃げ足を磨く人だっている。戦う力はないけれど、それでも僕たちなりに必死なんだ。
まあ、それでも、お前らはいらないって言われてしまうことが多くなったけど。
最初はかなり需要があったんだけどね。ダンジョンの探索をその道のプロが支えるというのは、それだけ魅力的だった……はずなんだけどなあ。
いや……。うん。何を言っても変わらない。僕は無職になった。ショックだ。
「ちょうどいいだろ。あのパーティは兄ちゃんのことをよく悪し様に言ってたからな」
「え。そうなの?」
「そうなのって……。知らなかったのか」
「知らなかった……」
結構いい感じに立ち回ってたと思うんだけど……。そうでもなかった、のかな? 空気の読めなさが原因とか言われそう。
そう言ってみると、マスターさんは苦笑いしながらお酒をくれた。
「ない、とは言えないが……。お前はむしろよくやってた方だと思うぜ」
「そうかな……」
「そうだよ。ほら、飲め飲め」
そうしてマスターに促されるまま、僕は酒を飲み続けた。酔いつぶれるまで飲んでやる!
酔いつぶれた僕は閉店後に店を追い出された……なんてことはなく。目を覚ますと、お店の椅子を並べて作った簡易ベッドの上だった。マスターはとてもいい人だ。僕が女だったら惚れてたかもしれない。
僕が体を起こすと、その音で気付いたのか店の奥からマスターが出てきた。
「お、起きたか。二日酔いはどうだ?」
「うぐ……。気持ち悪い……」
「だろうな。ポーションはあるか?」
「あるぅ……」
「じゃあ飲め飲め」
頷いて、栄養ドリンクのようにも見えるポーションを飲み干す。するとすぐに二日酔い特有の気持ち悪さや頭痛が嘘のように消えてしまった。
うーん……。やっぱりこのポーション、安いわりに効き目もばっちりだ。僕も錬金術師になればよかったかな……。
このポーションは二ヶ月ぐらい前から出回るようになったもので、匿名の錬金術師が格安で販売してるものだ。ポーションを買う余裕がない駆け出し冒険者向けに販売されてるもので、これのおかげで駆け出しの犠牲者はなくなったと言ってもいい。
いや、一番の原因は魔女の存在だけど……。僕は会ったことがないからなあ。
「それで、お前はこれからどうするんだ? また別のパーティを探すのか?」
「うーん……」
マスターが朝食にとお茶漬けを出してくれたから、有り難く受け取る。ちなみに出て行けという意味はないお茶漬けです。そのはず。
お茶漬けを食べながら、考える。普通なら他の雇ってくれるパーティを探すところなんだけど……。今は、サポーターへの風当たりがとても強い。不要論なんてものが出てしまうほどには。
いや、冷静に考えると、それも分かる話ではあるんだ。下層にまでなると、サポーターを守る負担というのはバカにできない。だから、いらないというのも、分からないでもないんだけど……。
でも上層や中層ならそこまで負担でもないはずだから、サポーターはいた方が便利、のはずなんだけどね。そこまで高額の報酬を求めるわけでもないし。
もしかして、いたのかな。高額報酬を求めるサポーターが。だからサポーター不要論が出てきた、とか……。いや分からないな。僕が考えても分かることでもない。
とりあえずは、身の振り方、だ。
「うん……。よし。決めた」
「お?」
「僕はやっぱり、あのパーティが好きなんだ」
パーティ結成から行動を共にしてきた。できれば今後も、ずっと関わっていきたい。そのためには、僕が有能であることを知ってもらわないといけない。
だから。
「ちょっと僕の能力のアピールのために、深層までいってくる!」
そう言って僕は飲食代を支払って店を出た。後ろからマスターが何か叫んでるけど……。信じてほしい。僕は、できる子だ! ……多分!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます