お話区切り
「他には何か知りたいことがある?」
「ん……。じゃあ……。冒険者について、知りたい、です」
「あ、そっか。さっきの話にはなかったね」
今までの話は私が体験してきたこと、かつダンジョンについてのことだけだったから、冒険者について触れるのを忘れていた。でも、これ、どう説明すればいいんだろう。
「えっと……」
冒険者というのは、ダンジョン発生から一年ほどして生まれた仕事だ。それまではみんな、ダンジョンに入りたい人が勝手に入っていっていた。
危険な場所にどうして、と思うかもしれないけど、魔石の有能性についてはわりと早くから分かっていたわけで。それを政府が買い取る、なんてことを発表すると、ダンジョン発生の混乱などで仕事を失った人が入っていってしまった。
結果は、まあ言わなくても分かるよね。犠牲者がさらに増えることになった。
慌てた政府が、ダンジョンへの規制を開始。東京ダンジョンみたいにドームで覆い、ダンジョンに入るのに資格を求めるようになった。
この資格は、冒険者資格。特級、一級、二級の三種類がある。二級が一番下の資格なんだけど、ダンジョンの基礎的な知識と一定の戦闘技能が求められる。その資格を発行するのが、冒険者をとりまとめる国営組織、ギルドだ。
ちなみに、どうして冒険者やギルドと命名されたのかは分からないけど……。多分、名前を決めた人の中にゲームが好きな人でもいたんじゃないかな。不謹慎だけどね。
「ちなみに私たちギルド職員にも冒険者資格が必須なんだ。私も二級だけど持ってるよ」
「おー……。つまり、凪沙は強い、です?」
「いやあ……。ほどほど、かな……?」
一定の戦闘技能なんて言うけど、わりと適当だ。試験で活動中の冒険者の人と戦うんだけど、ある程度戦えたら合格、みたいな感じだから。
冒険者は自己責任の面が強い。ほとんど戦えないならともかく、武道の経験とかがあったらわりと合格して、後は気をつけてね、みたいな感じだと思う。
「リンネちゃんが冒険者になるなら、多分余裕だと思うよ」
「こんな子供が……魔法を使ったら、怪しい、ですよ?」
「確かに」
それは、うん。そうだね。リンネちゃんなら試験官を完封できそうだけど、どうしてダンジョンに入ってない人が魔法を使えるのか、なんて話になると思う。魔法の知識はダンジョンに入ることで与えられるものだから。
「そういえば、冒険者について聞いてきたけど……。リンネちゃんは冒険者になりたいの?」
「いえ……。聞いてみただけ、です」
「そっか」
まあ急いで決める必要もないからね。もしも冒険者になりたいのなら、協力ぐらいはするけど。
「明日はどうする? もしこの辺りをお散歩するなら、お小遣いあげるよ」
「ん……。お小遣いは、いらない、です」
「そう? 美味しいもの、いっぱいあるよ? 肉厚ジューシーなハンバーガーとか、新鮮で美味しいお寿司とか……」
「…………」
ものすごく悩んでる。すごく難しい顔をしてる。誘惑にめちゃくちゃ揺れてる。
「凪沙は……わるい人、です」
「え。急になに!?」
「誘惑、してくる、です……。わたしを見て、楽しんでる、です……」
「否定はしない!」
だって、悩むリンネちゃんもかわいいからね! 私は悪くないと思います!
じっとりとしたリンネちゃんの視線から目を逸らすと、小さくため息をつかれてしまった。
「まあ、いいです……。美味しいもの……興味、あるです。でも、凪沙のお仕事を見たい、です」
「私の仕事? あまり楽しくはないよ?」
「それでも、です」
ふうん……。いや、いいけどね。興味を持ってもらえるっていうのは、なかなか嬉しいものだから。
「分かった。じゃあ明日もギルドに行こう」
「お願いする、です」
どうせなら、かっこいい私を見せてあげたいところだ。いや、まだまだ新米なんだけどね……。
翌日。いくつかの門を通ってギルドに入ると、たくさんの先輩職員に囲まれてしまった。
「凪沙! 待ってたぞ!」
「いつ来るかと思ってたわよ!」
「保護したっていう子を……その子!?」
先輩たちの視線がリンネちゃんに一斉に向く。これにはリンネちゃんも驚いたみたいで、びくっとして私の後ろに隠れてしまった。ちょっとだけ顔を出して様子をうかがう姿はとてもかわいいと思います。
「わあ! かわいい!」
「あらあ! お姉ちゃん大好きなのね!」
「こんな子供がずっとダンジョンで生き残っていたとか、すごいな……」
そんな会話がされているんだけど、当然私には意味が分からない。助けを求めて先輩の姿を探すと、私を見てやばい、と感情をあからさまに顔に出してる先輩を見つけた。
とりあえず視線で問い質す。じっと。じいっと。睨み付ける。
「えー……。ほらみんな! 凪沙が困ってるから! ちょっと説明があるからみんなは解散しなさいっていうか仕事しろ!」
「はあ!? お前ばっかりずるいんだが!?」
「あたしの仕事だよバカ!」
先輩たちが不満を言いながら、そして同時にリンネちゃんに手を振りながら戻っていく。そうして解放されたところで、先輩が側まで来た。
「先輩。詳しく」
にっこり笑顔で聞いてみる。他意なんてない笑顔だよ、もちろん。だから先輩、顔を引きつらせるのは失礼だと……、なんでリンネちゃんまで離れちゃうかな!?
「まあ、うん……。ちゃんと説明するから、とりあえず来なさい」
そうして先輩に連れられて、応接室へ。ここが空いていたからちょうどいい、だって。
「リンネちゃん。オレンジジュースかアップルジュース、グレープジュース……。どれがいい?」
「ん……。グレープがいい、です」
「ふふ。了解」
先輩がジュースを用意してくれる。リンネちゃんはコップを受け取ると、くぴくぴと飲み始めた。両手で持ってちびちびと飲んでる。ぷは、と口を離したところで頭を撫でておいた。
「ん? 凪沙、どうかした、です?」
「いや、かわいいなあって」
「んぅ……。よく分からない、ですが……。気持ちいいので、いい、です」
撫で続けてもいいらしい。なでなでしておこう。なでなで。
「えっと……。話をしてもいい?」
「あ、はい。すみません」
先輩に声をかけられて、慌てて姿勢を正した。リンネちゃんが不満そうだけど、さすがに先に話を聞かないといけないから。
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