ギルド
駅から続く太い道をまっすぐ歩けば、そのままダンジョンの入り口にたどり着くことができる。車でも簡単に通れる大きな門だ。実際に車が何台も行き交ってる。
この最初の壁の内側は、車が通るための道路は当然あって、駐車場とか観光施設とかあったりする。最初のエリアは常に一般にも開放されてるエリアだ。
ただし、非常時はその門も当然閉ざされる。その時に何かあっても自己責任、ということになっていた。今のところ、ここが閉ざされたのは一度しかないらしいけど。
さらに内側の門を通る。ここから先は冒険者や私たちギルド職員のためのエリアだ。売店とか宿とか病院とか。ここの売店に武器とかはまだないけど。
さらに内側。三つ目のエリアに入ると、冒険者やギルド職員がたくさんいるようになる。唯一ある売店に並ぶのも、武器とかポーションとか、ダンジョンでのみ使う道具になる。
ちなみに武器の持ち出しは禁止。さすがに危ないから。
四つ目のエリアに続く門は、大きな建物の中にある。それが私たちの職場、ギルドだ。そのギルドでダンジョンに入る冒険者の管理をしてるってわけだね。
「四つ目のエリアは……どんな、エリア、です?」
「広い部屋と壁が何枚も重なってるだけ。つまりは防壁だね。出てきた魔物を押しとどめて、そこで倒すことが理想かな」
「なるほど、です」
その四つ目のエリアを抜けた五つ目のエリアが、ダンジョンの入り口だ。地下に続く大きな穴と階段がある。階段で百メートルほど下りて、洞窟に入ることになる。
今はとりあえずギルドだ。ダンジョンに入る予定はないから。
ギルドの建物は十階建て。それぞれの階層の広さもちょっとした商業施設ぐらいの広さがある。
一階は受付と、冒険者たちの憩いの場、とでも言えばいいのかな。売店の他、飲食店も並んでるから、昼夜問わずたくさんの冒険者が居座ってる。
二階は私たちギルドの職員の事務スペースだ。たくさんの部署があって、大勢の人が働いてる。
三階と四階は冒険者たちの宿泊スペース。三階は狭い個室が大量に並んでいて、四階は大勢で泊まれるような大部屋が並ぶ。ちなみに有料。
五階は私たちギルド職員の宿泊スペース。もちろん仮眠もできる。さすがにこっちは無料で利用できるよ。
六階から八階は倉庫みたいなもの。冒険者がダンジョンで集めてきた道具もよく運び込まれてる。
九階と十階は偉い人たちが利用してる。何に使ってるかは、新入りの私だと何も分からない。
「そんな感じ、かな」
「なるほど……。楽しみ、です」
「あはは……。一般の人にはあまり公開されてないんだけどね」
時間制限ありで見学はできるけど。あとは、家族とかもやっぱり時間制限ありで入れるようになってる。とりあえずリンネちゃんは私の家族として登録する予定だ。
問題なのは、身分証とかがないことだけど……。いや、かなり大きな問題だよねこれ。とりあえず先輩に相談してみよう。
ギルドに入って、階段を上って二階に向かう。階段から入れる部屋には全て指紋認証の扉があって、私たち職員しか入れないようになってる。
扉を開けて、リンネちゃんを連れて中に入った。
「おい! 誰もいないのか!」
「誰が行けるんだよあんな場所!」
「救援要請とか無理に決まってるじゃない!」
なんだか、いつもと違った怒号が飛び交ってる。何かあったのかな。
出直した方がいいかも。そう思っていたら、目の前を知ってる人が通っていった。
「あ、先輩!」
思わず声をかけると、その人が振り返った。
ギルドの制服に身を包んだ、ポニーテールの女性。年は二十歳で、私にいろいろと教えてくれる頼れる先輩だ。そんな先輩がすごく慌てていて、私を見て目を丸くしていた。
「凪紗ちゃん!? どうしたの、もしかしてマスターに呼び出された?」
「あ、いえ、ちょっとこの子の身内の登録に……」
「え?」
先輩がリンネちゃんを見る。怪訝そうに眉をひそめて、次に私を見た。何度も見比べて、
「本当に身内……?」
「え、と……。その……」
うん……。やっぱり、通じない、よね。どうにかごまかせたりは……。
「もしかしてだけど、例の件と関係ある?」
「あー……」
例の件。私が富士山の黒い球体を消滅させたことだと思う。とっさに何も言えなくて口ごもると、先輩は呆れたようなため息をついた。
「凪紗。あなたは嘘が苦手なんだから、もうちょっと考えて行動しなさい」
「う……」
「いろいろと聞きたいけど……。でも、ごめん! 今はちょっと忙しいの!」
ああ、やっぱり忙しいんだ。何があったんだろう。ここまで蜂の巣をつついたような騒ぎになってるギルドは初めてだ。
「何があったんですか?」
「Aランクパーティのドラゴニュートからの救難要請が届いたのよ!」
「え」
Aランクというのは、最上位のランクだ。ましてやドラゴニュートは、日本の冒険者のパーティでは間違いなくトップクラス。それが救難要請なんてよほどのことだと思う。
それよりも問題は。Aランクの救援なんて、誰も行けないということ。
だって、ただでさえトップクラスの冒険者パーティがピンチに陥っているんだ。その辺の冒険者が行ってもそもそもたどり着けないし、他のAランクもわざわざ危険な仕事を引き受けてくれるかはかなり微妙なところ。
それでも、どうにかしようとみんながこうして走り回ってる。どうにか他のAランクに依頼できないかと連絡したり、Bランクの合同で行けないか調べてみたり……。
でも。やっぱりかなり厳しいんだと思う。みんな表情が暗いから。
どうしよう。私も何かできることが……。
「あの、先輩、何か手伝えること……」
「いいから、凪紗は帰りなさい。今日は休みなんだから」
「でも……」
「凪紗」
その声は、私の隣から。視線を向けると、こちらをじっと見つめるリンネちゃんと目が合った。
「その人たちは……助けた方がいい、です? 助かってほしい、です?」
「それはもちろん、そうだけど……。え、ちょっとまってもしかして」
「ん……。じゃあ、助ける、です。大丈夫、場所は……なんとなく、分かる、ですので」
そう言って、リンネちゃんは忽然と姿を消してしまった。
後に残されたのは私と、
「え……?」
目をまん丸にして呆然とする先輩でした。
リンネちゃん、もうちょっと、人の視線というものを考えてほしかったなあ……!
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