ドラゴンのお肉は大事です


 リンネちゃんが帰ってきたのは、忽然と消えてから十分後だった。


「戻った、です……。わぷ」


 突然現れたリンネちゃんをとりあえず捕獲した。ぎゅっと抱きしめて逃げられないようにする。だってまた消えられると嫌だし。


「凪沙……苦しい、です」

「いなくならない?」

「え……?」

「心配、したんだよ?」

「あう……」


 リンネちゃんを見る。何故か顔が真っ赤だ。何を恥ずかしがっているのか分からないけど、頷いてくれたからとりあえず解放してあげる。


「あの……凪沙。ここはどこ、です?」

「会議室。先輩が用意してくれたんだよ」


 リンネちゃんが消えた後、先輩はこれでもかと大きく目を見開いていたけど、私に何か事情があると察してくれたみたいで、この使ってない会議室に入れてくれた。しっかり鍵をかけられてしまったのは……他の人が入ってこれないように、と思いたい。

 それを説明すると、リンネちゃんは申し訳なさそうに眉尻を下げた。


「ごめん、なさい……。他の人の……視線を、考えてなかった、です……」

「うん……。気をつけてね? 今回は見ていたのが先輩だけだったから良かったけど、他の人も見てたらどうなっていたか……」


 あの場に人は多かったけど、皆が皆、自分のやることに意識が向いていた。だからリンネちゃんが消えたことに誰も気付かなかったし、少人数いたとしても目の錯覚だと思ったと思う。みんな疲れているだろうし。

 少なくとも今は、リンネちゃんのことで騒ぎにはなってない。


「それで、リンネちゃんはどこに行っていたの?」

「ダンジョン、です。ドラゴン……倒した、です」


 詳しく聞いてみると、ダンジョンでピンチになっている冒険者パーティを助けに行ってくれたらしい。ピンチになっていた冒険者パーティ、ドラゴニュートを襲っていたのはドラゴンだったのだとか。


「危なくなかった? 怪我してない? 大丈夫?」

「よゆー、でした。らくしょー、です」


 怪我どころか埃一つついてないように見えるぐらいだし、本当に楽勝だったのかもしれない。思っていた以上に、この子は強い。強すぎるほどに。


「ちなみに……素材は?」

「え」

「ドラゴンのお肉、すごく美味しいらしいよ」

「おいしい……!?」


 あ、リンネちゃんが何かを考える仕草をしてる。視線を彷徨わせたり、しまった、なんてことを呟いたり。

 そして、言った。


「凪沙……!」

「え、うん。なに?」

「少しだけ……もう少しだけ、出かける、です!」

「理由は?」

「お肉! もらって、きます!」


 そう言うと、リンネちゃんはまた消えてしまった。まあ、お肉はどうしたのか聞いたのは私だからね。今回はさすがに怒らないでおこう。

 そうして、五分後。リンネちゃんが戻ってきた。いつも表情が薄いのに、今はなんだかほくほくとした顔に見える。笑顔、ではないけどご機嫌だ。


「もらった、です」

「そ、そっか……」


 ドラゴニュートの人たち、どう思ってるだろう。なんというか、ちょっとだけ、ごめんなさい。

 さて。この後は、どうしよう。とりあえず先輩を待つしかないけど……。帰ろうと思ったら帰れてしまうと思う。リンネちゃんに頼ることになっちゃうけど。

 でも先輩は優しい人だから、悪いようにはしない、はず。きっと理解を示してくれる、はず……。どうしよう不安になってきた……!

 ちょっと気持ちを紛らわせるために何かジュースでも飲もう。この会議室の隅には冷蔵庫があって、中には缶ジュースが入ってる。自由に飲んでいいことになってるジュースだ。


「リンネちゃん、ジュース飲む?」

「飲む、です」

「じゃあ座って待っててね」


 リンネちゃんに座ってもらって、私は冷蔵庫からジュースを取り出した。

 この会議室は長いテーブルが並んだシンプルな会議室だ。部屋の隅にはホワイトボードも置いてある。リンネちゃんは端の椅子に座って、興味深そうに部屋を見回していた。


「そういえば、よくここに転移できたね。勝手に場所を変えたのに」

「凪沙の側に転移しただけ、です」


 ジュースを渡しながらそう言うと、そんな返答だった。つまり私がどこにいいても、私の側に転移するつもりだったってことかな。

 ギルドマスターに報告に行かなくてよかった。心底そう思った。


「凪沙。開け方が……分からない、です」

「ああ、うん。こう開けるんだよ」


 普通のオレンジの缶ジュースだけど……。でも見たことがないなら、プルタブの開け方なんて分からないか。

 私が開け方を見せてあげると、リンネちゃんは感心したように頷いて、ジュースを開けて飲み始めた。


「おいしい、です。この入れ物……すごい、です」

「そう?」

「人間……興味深い、です」


 なんだろう。言葉通りの意味程度のはずなのに、なんだかちょっと魔王様みたいな意味に聞こえてしまった。優しい子なのにね。


「改めて……リンネちゃん。ありがとう。あのパーティを助けてくれて」

「んく……。知り合い、だった、です?」

「ギルドで働いてるからこその顔見知り程度、だけどね。それでも知り合いが死んじゃったなんて聞いたら、やっぱり悲しいから」


 ギルドで働く以上、パーティの全滅なんてことも聞くことはある。それを聞くとやっぱりショックだし、担当したことのあるパーティだと泣きそうにもなってしまう。

 先輩は、割り切らないといけないと言うけど……。やっぱり、難しいよ。


「だから、ありがとう、リンネちゃん」

「ん……」

「良い子良い子。なでなで」


 とりあえず撫でてあげる。頭をなでなで、喉元をこちょこちょ。


「うぬぅ……。あらがえない……」


 猫かな? とてもかわいい。なでなでなでなで。


「戻ったわ……。え、なにこれ」


 リンネちゃんをなでなでこちょこちょしていたら先輩が戻ってきてばっちり見られてしまった。とりあえず、その……。忘れてください。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・あとがき・・・

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