名前と朝ご飯


 さて。家族が増えたというわけで。


「名前がないと不便だよね」


 いつまでも君とか女の子とか言ってられない。外で見られたら絶対に面倒なことになる。ちゃんと名前を決めたいところだ。


「希望はある?」

「凪沙が決めたもの……なら、なんでもいい、です」

「また困る返答だなあ……」


 ある程度方向性を示してくれた方が嬉しいんだけどね。

 んー……。名前。名前。


「じゃあ、リンネで」

「りんね、です?」

「そう。由来は……」

「輪廻転生、です?」

「よ、よく知ってるね……」


 ずっと生きているから、ということで思い浮かんだのがこれだった。正確には輪廻転生って何度も生死を繰り返して生まれ変わること、みたいな意味だったと思うけど……。そこは些細な問題、ということで。


「わかり、ました。ではわたしは、リンネ、です」

「うん。よろしくね、リンネちゃん」


 そう呼ぶと、リンネちゃんは言葉に詰まって、私をまじまじと見つめ、なんだかどこか嬉しそうに頷いてくれた。とてもかわいいと思います。


「明日はまだお休みだから、いろいろ買い物に行こっか。服とか、小物とか」

「作れる、ですよ?」

「はい?」


 首を傾げる私の目の前で、リンネちゃんがなんだか真っ黒な闇に包まれた。その闇はすぐ消えて、そうして出てきたリンネちゃんは、全く別の服を着ていた。

 黒を基調としたパーカーに深紅のスカート。髪は大きなリボンでまとめられて、ポニーテールになってる。


「だいたい、作れる、です」

「なにそれずるい」


 つまりあれか。ウィンドウショッピングとかして服とか見ておけば、不思議な力で全部作れてしまうと、そういうことか。めちゃくちゃ羨ましい……!

 でも! 買い物も大事だけど……!


「お出かけしない?」


 お互いのことをもっと知るためにも、大事だと思うから。

 リンネちゃんは不思議そうにしていたけど、すぐに頷いてくれた。

 リンネちゃんとのお出かけ、楽しみだ。




 夜。リンネちゃんの希望で晩ご飯もカレーライスを食べて、就寝の時間。ベッドは一つだけしかないからどうしようかと思っていたんだけど……。


「狭くない……?」

「平気、です」

「そう?」


 一緒のベッドで寝ることになってしまった。こういうのはだめだと思うんだけどね。

 もちろん何かしたりはしないけど。ただ温もりが近くにあるのはすごく嬉しい。今日はぐっすり眠れそう。


「凪沙」

「うん……?」


 目を閉じて、眠ろうとしたところで、リンネちゃんが声をかけてきた。


「ありがとう、ございます。わたしを、受け入れて、くれて……」

「んー……。リンネちゃん、かわいいからね……」

「それでも……。普通は、避けるもの、ですよ」

「考えられないなあ……」


 あー……。だめだ。すごく眠い。いろいろありすぎて、疲れているのかも。


「あなたで、よかった、です」


 眠りに落ちる直前、リンネちゃんのそんな声が聞こえたような……気がした。




 翌日。朝ご飯はトーストだ。トースターであつあつに焼いたパンにバターを置く。するとバターがじゅわりと溶けて、バターの香りが鼻をくすぐってくる。

 単純だけどとても美味しい、朝食にはぴったりだと思う。


「これが……トースト……」

「ほらほら。食べてみて」

「はい、です」


 さくり、と一口。リンネちゃんは目を丸くして、一心不乱に食べ始めた。さくさくと食べ進めていくリンネちゃんはリスみたいでとてもかわいい。


「美味しい?」

「おいしい、です……!」


 シンプルなバタートーストだけど、ここまで喜んでくれたらとても嬉しい。

 さくさく食べ進めるリンネちゃんを見ながら、軽く部屋を見回す。あまり物がないから一人暮らしには困らなかったけど、これからリンネちゃんも一緒に住むとなったら、さすがに少し狭いかもしれない。

 せっかく一緒に住むんだし、せめて不自由がないようにさせてあげたいところだけど……。引っ越し、考えようかな?

 そう思っていたら、あ、というなんだか悲しそうな声が聞こえてきた。リンネちゃんを見ると、空になったお皿を見てしょんぼりとしていた。何この子すごくかわいい。


「お代わり、いる?」

「いい、です?」

「もちろん。ちょっと待ってね」


 もう一度食パンを焼いてトーストを用意。バターを載せて渡してあげる。リンネちゃんはほんの少し頬を緩ませて、また食べ始めた。さくさくさく。なんだか見ていて楽しい。

 住むところにお金をかけるなら、食べ物にかけた方がいいかな? でも、うん。とりあえずは、買い物、だね。

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