置き土産
いまいち関係性が分からないけど……。どうにも、魔女と女神は面識があるらしい。しかも、決して友好的ではない関係みたいだ。敵対してると言っていいかも。
だから魔女は、女神の思惑通りにならないように、人助けをしていた……のかも? だめだ、情報が少なすぎる。
多分、あっち側も教えるつもりはないだろうし。
『魔女って結局なんなんだ?』
『確定情報は女神と知り合い』
『つまりこう、上位者的な何か、とか!?』
コメントがすごい勢いで流れていく。魔女の正体が気になる人も多いみたいだけど……。きっと、その部分は何も答えてくれないんだと思う。
配信は記録用と言っていたぐらいだし、コメントは無視されるかな。
「さて……確認は、できた、です。帰る、ですよ」
「は?」
「え?」
『ちょwww』
『帰るの!?』
もしかしたらここで人外の戦いが始まるかもしれない。そう戦々恐々としていたのだけど、その心配は杞憂だったらしい。
女神と争うつもりはないみたいで、本当に踵を返してしまった。そのまま元来た方へと歩き始めていく。
「ふ……」
当然と言うべきか。女神はそれを認めなかった。
「ふざけないで! ここまで来ておいて、何もせずに帰る!? わたしが見逃すと思ってるの!?」
「ふむ……。やる、です?」
魔女が、ゆっくりと、振り返った。
すさまじい魔力がフロアそのものを軋ませる。物理的な圧力すら感じるその魔力は、解き放つとフロアどころかダンジョンそのものを消し飛ばしてしまうかもしれない。
すぐに女神からもすさまじいまでの魔力が放たれた。こちらも、魔女に負けていない。同程度かもしれない。
そんな人知を越えた魔力のぶつかり合い。正直立っているだけでもやっとだ。
『なんだなんだ?』
『もしかして戦ったりする?』
『深層だろうと人助けする魔女とダンジョンを作った女神の戦いとか、胸熱すぎるな』
いやこいつら、なにを気楽なことを……! ここに立ってる僕からすれば、正直恐怖でどうにかなってしまいそうだよ。一瞬後には、僕は死んでいてもおかしくない状態だから。
いや本当に。僕はどうしてここにいるの? 証人って必要だった? いらないよねこれ。むしろ僕は絶対にいらないよね! 命はとても大切なものだと思うので即時帰還を願います!
魔力の圧力が強すぎて口が開けないけど! つまり誰も聞き取ってくれてないわけだけど!
魔力のぶつけ合いは、不意に終わった。どちらからともなく魔力の放出を弱め、やがて普段通りになった。まあその普段通りも、僕からすれば十分怖い魔力量なんだけど。
「やめておく、です。意味がない……ので」
「ふん……」
助かった、らしい。僕が胸を撫で下ろして。
そして魔女が言った。
「なのでこれは……いわゆる置き土産、です」
「は?」
部屋が。フロアが。爆発した。
気付けば、僕は階段の側にいた。
「あれ……?」
周囲は、草原。すぐ目の前には地下へと続く階段がある。遠くには魔物の姿も見えるから、ここは多分ダンジョン第十一層、下層フロアだ。
どうしてここに、と思って立ち上がったら、魔女がお鍋をかき混ぜていた。なにこれ。
「あの……。魔女……?」
「おはよう、ですよ。失礼した、です」
魔女がじっと鍋を見つめながら言う。よく分からないけど、とりあえず鍋を挟んで魔女の対面に座っておいた。
すっとお椀を差し出される。これは、おかゆ、かな? とろみのあるおかゆで、スプーンで食べてみるとわりと美味しい。
「やりすぎで……深層も、吹き飛ばした……です」
「ぶっ……」
思わずおかゆを噴き出しそうになった。こいつ、なんて言った?
「深層……を……?」
「吹き飛ばした、です。全部。今、この四国ダンジョンには……深層が、ない、です」
「ええ……」
実際に見たわけではないけど、まああの魔力だ。吹き飛ばしたと言われても納得できてしまう。置き土産とか言ってたし。危なすぎるけど。
「これを食べ終わったら……帰る、ですよ」
「ああ、うん。地上に戻るってことだね。また上るのは大変だけど……」
「いえ……。転移で帰る、です」
「は?」
転移。今のところ、人間が使えるようになった報告がない魔法。そんなもの使えるわけがない、と思ってしまうけど……。相手はダンジョンの一部を吹き飛ばす規格外。気にしても仕方ない気がする。
「本来なら……使いたくない、ですが……。今回は……付き合ってもらった、ので……特別、です」
「はあ……。ありがとう」
簡単に帰れるなら、それにこしたことはない。
いや、それにしても……。とんでもない経験をしてしまった。本来なら、僕の有用性をパーティメンバーに見せたかっただけなんだけど……。それどころじゃなくなったかもしれない。
帰ったら、とりあえずギルドに報告、かな……。声だけとはいえ、魔女の配信に出てしまった以上、隠しておくと後が面倒だから。
魔女お手製のおかゆを食べながら、そんなことを僕は考えていた。
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