目覚め


「つまりこのアイテム袋は、ちょっとした倉庫ぐらいまで物が入るってこと……!? すごい!」

「がんばり、ました……!」

「いいなあ! あたしもこれぐらいのものが欲しい!」

「あ、いいです、よ? まだある、ので……。これ、どうぞ……」

「いいの!?」


 なんか気が付いたらめちゃくちゃ打ち解けてました。自分でもよく分からない。


『なあにこれえ……』

『警戒とはなんだったのか』

『もうすっかりベッドの側で二人で話してるじゃん』

『ていうかユアお前ずるいぞそのアイテム袋!』


「いいでしょ! 友情の証だからね! あげないわよ!」

「友情……!」


 せっかく魔女からもらったんだ! 誰にもあげないしもちろん売らない! これはあたしが使うんだ!

 どうしてこんなに打ち解けたかと言えば、正直よく分からないけど……。きっかけは、カンテラのことだったと思う。そういえば、と魔女が五個ほどその場で作って、あたしに渡してくれたんだ。その時に他の魔道具の話になって、いろいろと作れるって知って……。何故か仲良くなった。

 カンテラやアイテム袋以外でも、魔女はサンプルになるものさえあれば作れるらしい。というわけで、ちょっとポーションを作ってもらった。

 ポーションはダンジョンで手に入る即効性の薬で、傷とかをあっという間に治すことができる。他にも錬金術を扱える冒険者が作る方法もあるけど……。どうしても流通量は少なくて、効果のいいものはかなり高価だ。

 効果が低いものは大量生産できるらしくて、わりと出回るんだけどね。やっぱりいいものが欲しいから。


「いやあ……。ありがとう、魔女さん。大事に使うね」

「はい……。あの、その……」

「うん?」

「ちょっと耳を……」

「はいはい」


 魔女に言われた通りに耳を寄せる。少し前ならさすがに警戒して無理だったろうけど、今は大丈夫。この子は、いい子だ。間違いなく。

 魔女は私の耳元に口を寄せて、言った。


「わたしの名前……。リンネ、です」

「え」

「他の人には……内緒、ですよ?」


 そう言うと、魔女は……リンネはそっと離れて、微かに、本当に薄く笑った。

 うん。


「ああもうかわいいなあ!」

「むきゅう」


 とりあえず抱きしめた。なんだこのかわいい生き物。天使かな。ちょっとあたしにもその天使成分をよこしなさい。吸収させろー!


『てえてえ……ですか?』

『一方的な?』

『一方的なてえてえとは』


 よし。満足。リンネを解放すると、半眼で睨まれてしまった。申し訳ない。


「う……」


 小さな声が、ベッドから聞こえた。

 リンネと顔を見合わせて、すぐに立ち上がる。ベッドをのぞき込むと、ホノカがゆっくりと目を開けたところだった。あたしを見て、次にリンネを見て、またあたしを見て。目をぱちぱちと瞬かせて、はれ、と首を傾げた。


「ここはどこ……ですか?」

「ダンジョンよ。残念ながらまだ地上じゃないわね。ちゃんと覚えてる?」

「えっと……。はい……」


 ホノカが体を起こす。それを確認してからコップに水を入れて渡してあげると、勢いよく飲み干した。もう一杯あげよう。しっかり飲むべきだからね。水ぐらいなら、魔法でいくらでも出せるし。


「落ち着いたなら、地上に向かおうか。ちゃんと送ってあげるからさ」

「いいんですか……?」

「もちろん。助けが来るのを待ってもいいけど、時間がもうちょっとかかるだろうしね」


 救援というのは、かなり慎重に行われる。助けに向かって逆に全滅とか、笑い話にもならないから。だからどんなに浅い階層でも、まだまだ時間はかかると思う。ホノカが眠っていたのは三十分ほどだし。


「ユア」

「ああ、リ……、魔女さん。どうする? あたしと一緒に地上まで……」

「守りながら……帰れる、です?」


 ああ、そっか。リンネは、一緒には来てくれないみたい。でも当然かな。地上では多分たくさんの人が待ってくれてると思う。きっと、リンネが一緒に出たら捕まってしまう。

 もちろんリンネはやろうと思えばみんなを蹴散らせるんだろうけど……。この子はそれを、しないだろうから。


「ここぐらいの階層なら平気。気にしなくていいわよ」

「ん……。それじゃあ、任せる、ですよ」


 そう言って、リンネはきびすを返して歩き始めた。向かう先は、ダンジョンの奥。何をしに向かうのかは、分からない、けど……。


「ねえ、また会えるかな?」


 そう聞くと、リンネは振り返って頷いた。


「はい……。きっと、いずれ」

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