第12話 なんでみんなアイツの話ばかりするんだよ! 勇者ヴァイス視点

【勇者ヴァイス視点】


「ブライラント、マジすごいよな」

「あのクラウス殿下をボコったらしいぞ」

「カッコよかったわー」


 ここはセプテリオン魔法学園の教室。

 俺は一番後ろの席から、他の学園生を眺めていた。


 入学式と適性試験を終えた新入生たちは、クラス分けされて、それぞれの教室へ行った。

 もちろん、主人公であり勇者である俺は、最上位のAクラスだ。

 適性試験では規格外の魔力を見せつけ、教師どもの度肝を抜いてやった。

 ここまでは俺の創ったシナリオ通りの展開。 

 だったのだが——


「誰も俺のことを話題にしない……っ!」


 完全におかしいっ!

 俺は適性試験でトップの成績だぞ……?

 しかも貴族ではなく平民なのに、だ。

 俺の創ったシナリオでは、平民が適性試験でトップだったことに、学園中がざわつくはずだった。

 なのに、誰も俺の話をしないだと……


「ブライラントって強いんだな」

「最低の悪徳領主って聞いたけど違うみたい」

「よく見たらイケメンかも……」  


 ブライラントは俺に首を斬られる悪役。

 それがブライラントの設定だ。

 勇者の俺は、悪徳領主から領民を救った英雄になれる……それが本来のシナリオ。


「どうしてブライラントの評価が上がっているんだ?」


 ブライラントの評価が上がるイベントなんてない。

 俺はそんなもの書いた覚えはない。

 ブライラントは好感度0の「ざまぁ対象」でしかない——そんなキャラだ。


「もしかして……ゲームのシナリオを書き換えようとしているのか?」


 まさかブライラントも「転生者」なのか?

 そう考えればすべて辻褄が合う。

 悪役に転生してしまったから、破滅フラグを回避して、主人公の俺に取って代わろうとしているのでは……


「だとしたら……絶対に許せない」


 俺はこのゲームの制作者。

 つまり、この世界の神。 

 神の定めた運命にキャラ(人間)が逆らうなど、絶対に許されない。

 ブライラントには……神の裁きが必要だ。


「だだ殺すだけじゃ足りない。苦しめてから殺す」


 神の創ったシナリオ(人生)を汚すゴミムシ。

 駆除してやらねば……


「ねえねえ、ブライラント様って彼女いるのかな?」


 俺の隣に座っていたモブ令嬢が、話しかけてくる。


「うるせえっ! モブキャラのくせに、気安く神に話しかけるな……っ!」

「ひっ! ご、ごめんなさい……!」


 モブ令嬢は席を立って逃げ出す。

 俺はこの世界の神だ。モブキャラのくせにブライラントの話を俺にするなんて……許さねえ。


 俺は立ち上がって、教室の角に逃げたモブ令嬢に近づく。


「さ、さっきはごめんなさい……」


 モブ令嬢はひどく怯えている。 

 ははっ! 神である俺に怯えるがいいっ!

 俺はすこぶる気分が良くなる。


「あ、あたしは、ただ、ブライラント様の話をしたかっただけで……」


 ブライラント様——

 俺はその言葉にブチキレた。

 

「オラァ!」

「ぎゃあ……っ!」


 俺はモブ令嬢の顔に、顔面パンチを叩き込む。

 モブ令嬢は鼻を抑えて倒れ込んだ。


「な、何するのよ……いきなり?!」

「俺は神だ! 神は何やっても許されるんだよ!」


 俺は倒れたモブ令嬢の腹に、蹴りを入れる。


「ぐふっ!」

「オラァ! 神にひれ伏せ!」


 俺はモブ令嬢の腹を蹴り続けるが、


「おい! やめろよ!」


 近くにいたモブ令息たちに止められる。


「うるせえっ! 俺は神だぞ! 神は何をやっても——」


 ガラガラ……!

 教室に、教師が入ってきた。


「クソモブどもが。後で死ぬからな、てめえら……」

「お前、頭大丈夫か……?」


 と、舐めたことを言ったモブ令息がいた。

 神に逆らった罰だ。

 後でシナリオからデリートしておこう。


 (全部、ブライラントのせいだ……)


 俺はブライラントへのリベンジを誓う。

 ブライラントに汚された、神の国を取り返す。

 絶対に。


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