第23話 新世界の神になる 勇者ヴァイス視点

【勇者ヴァイス視点】


 ——オウガたちがルーナ孤児院へ行く前日のこと。


「おい。お前らにいい仕事がある……」

 

 王都の郊外にある、捨てられた貴族の館。

 ここは盗賊団【黒狼団】のアジトだ。

 ゲームでも王都を黒狼団が襲撃するイベントがあり、主人公がそれを撃退することになる。

 俺が書いたシナリオだから、アジトの場所はよく覚えていた。

 俺は黒狼団に、ある依頼をしてにやって来る——


「誰だ? てめえは……?」


 黒浪団の頭目——ガイウスが俺を睨む。

 ゴッツイ筋肉に包まれた強靭な身体、左目が黒の眼帯で覆われている。

 いかにも盗賊団のボス、って感じの見た目。

 まあ俺がそうデザインしたからなのだが……


 ガイウスのスキルは【怪力】だ。

 馬を片手持ち上げられるほどの、腕力がある。

 実はガイウスとは二度戦闘があり、一度目の戦闘では主人公たちは撤退することになる。

 いわゆる「負けイベント」ってやつだ。

 レベルをしっかり上げて、二度目の戦闘でやっと勝利できる設定になっている。

 つまり——ガイウスは割と強いボスキャラ。

 少なくとも、ブライラントより強い敵キャラだ。


「俺は……この世界の神だ」

「神……? まさか、宗教の勧誘にでも来たのか?」


 ガイウスが薄笑いを浮かべながらそう言うと、


「「「ぎゃはははは……っ!」」」


 黒狼団の連中はどっと笑い出す。


 神であるに俺になんと不敬な態度だ……

 わからせてやらないといけない。


「催眠魔法——ヒプノシス発動っ!」


 俺の右目が赤く光る。

 すると、黒浪団の一人がゆらりと立ち上がる。


『お前の持っている剣で、自分の首を刺せ』


 俺がそいつに命令を下すと……

 

 ——グサっ! 


 そいつは自分の剣を引き抜いて、自分の首を突き刺した。

 剣は首を貫通して、バタリと倒れた。


「「「な、なんだ……っ?!」」」


 黒狼団の連中は、驚いて一斉に立ち上がる。

 さっきまで俺をバカにしていたくせに、かなりビビっているようだ。


 催眠魔法【ヒプノシス】は、追加の隠しダンジョンでしか入手できない魔法だ。

 まさか追加ダンジョンまでこの世界にあると思わなかったが、それがあったのだ。

 俺は追加ダンジョンを攻略し、ヒプノシスを入手。

 ゲームではヒロインたちに催眠をかけて好き放題する魔法なのだが、モブキャラにも効くらしい。


 このヒプノシスで教師たちに催眠をかけて、俺が学園で起こした事件はすべてチャラにした。

 本当に便利すぎる、万能の魔法だ……!


「神をバカにした罰だ。お前らも神を敬わないとこうなるぞ……?」

「て、てめえはいったい……?」

「神だと言っただろう? 今日はお前らに神の命令を伝えに来た」

「神の命令……?」


 さすがのガイウスも、恐怖の表情を浮かべる。

 まあこいつらモブ悪役が、知るばすのない魔法を使っているからな。


「ああ。明日、ルーナ孤児院へオウガ・フォン・ブライラントって男が行く。その男を殺せ」

「それはどうして……?」

「神に理由を問うな。殺すぞ」

「ひっ!」


 催眠魔法は、ひとつの命令しか下せない。

 命令の内容は何でもいいが、出せる命令はひとつしかないのが催眠魔法の制約だ。

 こいつらにはまだ利用価値がある。

 散々利用した後、自殺を命じて口封じすればいい。


「学園生の女が二人いるが、その二人は殺すなよ。後はみんな殺しでいい」

「あの……孤児院の子どもも殺していいですかい?」

「そうだ。女二人以外は殺していいぞ」


 余計なヤツが生きていると、後が面倒だ。

 メインヒロインのファルネーゼとエステル以外は、みんな死んでもらったほうがいい。


「わ、わかりやした……」

「ふっふっふ。ブライラントをぶっ殺して、俺は新世界の神になる——」



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