第22話 原作にないハーレム√

「ブライラント様、こっち向いてください!」

「あっ! オウガさんはわたしと話してるのにー!」


 ルーナ孤児院へ向かう馬車の中。

 馬車で二時間ほどかかる、王都の郊外にある。

 なんてことないイベントのはずだったのだが……


 ファルネーゼとエステル――メインヒロイン二人に、挟まれて座る俺。

 本来のゲームの展開なら、ここは馬車の中で、主人公ヴァイスと確定ヒロインが二人きりになるはずなのだが……


「ふふふ……オウガ様、かわいい女の子とイチャイチャしてずいぶん楽しそうですね」


 いつの間にかアンジェリカまで孤児院に着いてきた。

 顔は笑っているが、目がまったく笑っていない……

 うん。けっこう怖い。


「いや、イチャイチャしてるとかじゃないから……」

「孤児院から帰ったら、あたしとイチャイチャしてくださいね! オウガ様っ!」

「なんでそうなる?!」


 なぜかハーレム主人公みたいに女の子に囲まれながら、孤児院を目指す俺であった――


 ★


「今日はよくお越しいただきました……っ!」


 ルーナ孤児院の管理人、フェリシアさんが俺たちを出迎えてくれた。

 ブラウンの巻き髪と、顔の泣きホクロが特徴的な、母性溢れるお姉さん。

 もちろん、巨乳はデフォルトだ。

 攻略対象に追加してほしいキャラとして、ファンも多いらしい……


「子どもたちに、パンとお菓子を持ってきました!」


 ファルネーゼが、バスケットからパンを取り出す。

 セプテリオン魔法学園の慈善事業のひとつで、毎年、ルーナ孤児院に生徒会が食べ物を寄付することになっていた。


「あ~~っ! ファルネーゼお姉ちゃんだっ!」

「ファルネーゼお姉ちゃんが来たぞっ! やったぁ!!」


 ファルネーゼのところに、子どもたちがわっと集まって来る。

 ゲームのキャラ設定だと……ファルネーゼは子どもが好きで、世話焼きな性格だ。

 ルーナ孤児院へも、個人的に来てフェリシアさんを手伝っていたらしい。

 さすが生徒会長、と言ったところだ。


「あっ! ファルネーゼお姉ちゃんが男の人連れて来てる……っ!」

「もしかして、ファルネーゼお姉ちゃんの彼氏?」


 子どもたちが俺とファルネーゼを指さして、からかう。

 

「ふふ。わかっちゃいましたか~~? この人は、オウガ・フォン・ブライラント様です! とっても強くてかっこいい人なんですよ! 将来はすごい魔術師になる人です……っ!」


 ファルネーゼはそう言うと、俺の腕に抱き着く。

 むにゅうっと、ファルネーゼの柔らかい胸が当たる。

 ちょっといろいろ言い過ぎな気がするのだが……?


「ファルネーゼさんっ! 子どもたちに嘘をつくのは……良くないっ!」


 エステルが顔を真っ赤にして叫ぶ。

 ど、どうしたんだ? 突然??

 

「あら。すべて事実ですよ? ブライラント様が強いのは本当のことですもの」

「そ、そっちの話じゃなくて――」

 

 ……と、エステルが言いかけた時だった。


「ぎゃはははっ! お前ら、動くんじゃねえ……!!」

 

 下品なデカい声が、孤児院に響く。

 剣を持った髭面の男たちが、中に押し入ってくる……

 ――盗賊だ!


 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る