第6話 王子殿下に絡まれる

「おい。平民のくせに貴族の学校に入学する気か?」


 学園の講堂の前で、人だかりができている。

 なんだろうと思って見に行くと、粗末な服を着た少年と、豪華ないかにも金持ちの坊ちゃんみたいな少年が対峙していた。


 これはあのイベントだな……主人公のヴァイスと王子殿下のクラウスのバトルイベントだ。 


 貴族第一主義を掲げるクラウスが平民でセプテリオン魔法学園に入学するヴァイスに絡んでいくイベント。

 もちろん主人公のヴァイスが勝利して、それを見ていた生徒会長の公爵令嬢——ファルネーゼがヴァイスに目をつけてるのだ。


「ヴァイス! 私と戦え。私が勝ったらお前はこの学園に入学するな」

「もし俺が勝ったらどうする気だ?」

「そしたらお前に土下座しよう」

 

 ヤバイぞ。クラウス殿下! キミはヴァイスには負ける運命なのに土下座なんて約束しちゃダメだろ?!

 ……とゲームのシナリオを知ってる俺は思うわけだが、悪役領主の俺には関係ないからスルーするか。巻き込まれたら面倒だし。 


 俺とアンジェリカはクラウスやヴァイスに気づかれないように人だかりを通り過ぎようとしたが——


「そこにいるのは、オウガ・デューク・ブライラント公爵令息じゃないか! キミも平民が歴史あるセプテリオン魔法学園に入学するのは反対だろ?」

「?!」


 ヤバいヤバいヤバい……っ! クラウス殿下に声をかけられてしまった。なんで声をかけてくるんだよ?! 

 そんな悪役登場イベントはゲームになかったのに!

 うん。ここはとりあえず聞こえないフリをしよう……。

 それでなんとかやりごして――


「クラウス殿下、我が主の、偉大なオウガ様に何のご用でしょうか……? もし面倒事に巻き込もうとするなら私はあなたを許しません」


 アンジェリカがクラウスを睨みつける。

 おいおいおい! なんで俺がスルーしようとしているのに、なんでクラウスに返事しちゃうんだよ?!


「メイドごときに話かけていない。私が話している相手は、公爵令息のブライラントだ。おい、どうなんだ? キミも平民がセプテリオン魔法学園に入学するのは反対だよな?」

「……いえ、俺は入学に賛成です」

「何?! キミは貴族第一主義者のブライラント公爵の息子だろう! 私たちを裏切る気か?」


 貴族第一主義――アルトリア王国の上級貴族たちの間で流行っている思想だ。

 貴族がとにかく一番大事で、平民は族に従うべし、というヤバめな考え方。

 マジで最悪だよな……ガチで差別思想だし。

 で、もちろん悪徳領主であるブライラント公爵家は、貴族第一主義の派閥に入っている。

 

「はい。俺と父上は別の人間ですから」

「そうか。キミは私たち貴族第一主義者を裏切るのだな」

「そうです。俺は平民を差別しない!」

「さすがオウガ様です……っ!」


 アンジェリカが俺を褒めてくれるけど、そもそもアンジェリカがクラウス殿下に返事をしちゃったからこうなったんだが?!


「平民に持ち上げられて喜ぶとは……貴族の中のゴミだな、ブライラント。私はキミを許さない……っ!」


 火に油を注いでじゃん。さらに怒らせてるじゃないか。これはまさか——


「ブライラント、キミに決闘を申し込む。平民よりも貴族の裏切り者をまず潰してやる」


 マジかよ……。 



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