第4話 父親を追放して自由になる
「今日は――スキル付与の儀式か」
同人エロゲ『ダークネス・ファンタジー』の設定では、15歳の日に貴族の子どもはスキルと呼ばれる異能を授けられる。
今日はオウガの15歳の誕生日。
スキルが付与されるのだが……
「我が息子よ、今日はついにスキル付与の日だな!」
俺は父親のブライラント公爵に呼び出された。
「はい。父上」
「ブライラント公爵家は、代々『剣聖』のスキルを付与されてきた。優秀なお前なら、必ず神は『剣聖』のスキルを付与されるだろう」
「はい……」
(オウガは『剣聖』を付与されないのだけどな……)
実際にオウガが付与されるスキルは、ゴミスキルの『鑑定』だ。
『鑑定』は、アイテムやモンスターの情報がわかるスキル。
もちろん戦闘向きのスキルではない。
Sランク冒険者の末裔として、アルトリア王国軍の司令官を務めてきた家柄のブライラント公爵家には、ふさわしくないスキル。
原作ではスキル付与の儀式の後に、オウガはブライラント公爵家を追い出されて、後継者の地位を剥奪される。
一応貴族だからそのまま王都の魔法学校へ放り込まれるが、そこで女の子を陵辱する愉しみを覚える。
魔法学校を卒業後、領地で女の子を攫って館の地下で陵辱するという最低なことをし始める。
その悪事を勇者の主人公——ヴァイスに暴かれるのだ。
「父上……もしも、仮の話ですが、『剣聖』のスキルが付与されなかった場合、私はどうなりますか?」
「その時は……ブライラント公爵家を追放し、後継者の地位を剥奪する」
「……絶対にそうしますか?」
「うむ。だが、ブライラント公爵家のお前が『剣聖』を付与されないなんてあり得ないがな」
「そうですね……」
(すでに追放の未来は確定しているのか……)
俺はこっそりため息をついた。
やはりオウガの運命は変わらない——
いや、違う。運命は変えられる。
運命を予測できるなら。
ちゃんと準備してきたからな。
「? どうした? オウガ?」
「いえ……何でもないです。父上……」
★
「このスキルは……?!」
ここはブライラント公爵家の教会。
15歳になった子どもたちが集められて、一人ひとり神官からスキルを付与される。
ついに俺の順番がきて、神官からスキルを付与されたわけだが……
「……オウガ・デューク・ブライラント公爵令息様。あなたが神から付与されたスキルは——『鑑定』です!」
神官がスキル名を告げた瞬間、教会にいた人々がざわつく。
それもそのはず。
代々ブライラント公爵家の人間が『剣聖』のスキルを付与されてきたことを、知らない者はいないからだ。
(まあ予想通りの反応だが……)
それでもここまで露骨に大勢の人からガッカリされると、さすがに少し落ち込んでしまう。
ゲームの設定だから仕方ないけど。
「おい……神官。今のは本当か?」
ブライラント公爵が、血相を変えて新刊に詰め寄る。
「はい。ブライラント公爵。たしかにオウガ様のスキルは……『鑑定』と出ています」
「嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ……っ! 我が息子が『鑑定』などというゴミスキルを付与されるわけがない。あり得ない、あり得ないことだ!」
焦りまくるブライラント公爵。
普段は傲慢な男が、かなり動揺している。
神官の胸ぐらをグッと掴んだ。
「本当か? 本当か? 本当に『鑑定』なのか?」
「す、すみません……本当にオウガ様のスキルは『鑑定』です」
「そんなバカな……」
ブライラント公爵は項垂れてしまう。
(自分の息子が『剣聖』になると信じていたから仕方ないか)
これも予想通りの反応だが。
『オウガ様がゴミスキルの鑑定かよ』
『ブライラント公爵家は終わったな』
『ざまぁみろwww』
普段から人々のヘイトを買いまくっていたブライラント公爵家だ。
俺が『鑑定』といくゴミスキルを付与されたのを見て、一斉にディスり始める。
そして、実はオウガ以外の子どもが『剣聖』を付与されることに——
「平民、フィン・スラッグよ……あなたが付与されたスキルは、『剣聖』です!」
「えっ?! ぼ、ぼくが……!」
神官に自分のスキルを告げられた少年が、ひどく驚いた声を漏らす。
フィン・スラッグ——オウガの代わりに『剣聖』を付与される平民。
このフィンが、ブライラント公爵家の後継者になるのだ。
「おお……お前が『剣聖』なのか?」
ブライラント公爵が、フィンの元に駆け寄る。
まるで救世主を見つけたみたいに……
「ブ、ブライラント公爵様……!」
フィンは平民らしく、すぐに跪く。
「フィンよ。頭を上げなさい。お前こそが『剣聖』だ。我が息子よ!」
ブライラント公爵は、フィンを強く抱きしめた。
『マジかよ。ブライラント公爵が平民を抱きしめるなんて!』
『平民が剣聖とかあり得ないわ』
『ということは、オウガ様はどうなる?』
オウガがこれからどうなるか、俺はすでにわかっている。
(全部、想定の範囲内だ)
「……オウガ、お前をブライラント公爵家から追放する。明日、セプテリオン魔法学園へ行け」
貴族は領地を継ぐ者以外、全員魔法学園へ送られる。
つまり、俺は後継者から外れたということ。
「……わかりました。ありがとうございます。父上」
「何っ? ありがとうございます、だと?」
「はい。この時を待っていました」
驚いた顔をするブライラント公爵。
教会の中へ、数人の兵士が入ってきた。
兵士がブライラント公爵を取り囲む。
「何だ……これは?」
動揺を隠せないブライラント公爵。
手がかなり震えている。
「こいつを取り押さえろ」
「はっ! オウガ様……っ!」
俺の命令で兵士たちは、ブライラント公爵を取り押さえる。
「オウガ……いったい何のつもりだ?」
「父上、あなたを追放します」
「つ、追放だと……?」
「はい。王都に父上の悪事を報告しました。父上は貴族にふさわしくないとされたため、公爵位を剥奪されました」
「お、俺が貴族でなくなったと……?」
俺はアンジェリカを使って、密かに王都へ手紙を届けていた。
絶対にバレてはいけない、極秘任務。
(上手いってよかった……)
「そうです。父上はもはや貴族ではありません」
「ば、バカな……っ! 俺はブライラント公爵だぞ?! 俺が平民になるなどあり得ん……!」
「ところがどっこい、これは現実です。すでに父上は平民ですね」
「ぐ……っ! 自分の父親を追放するのか?」
ブライラント公爵は怒りに満ちた目で俺を睨みつける。
「はい。追放します。父上の数々の悪事……強姦、恐喝、賄賂、横領、すべて王都に報告しましたから」
「貴様……っ!」
「兵士たちよ、この大罪人を連れて行け」
兵士たちはブライラント公爵の腕をがっしり掴む、外へ連れ出そうとする。
「は、はなせ……っ! いやだああああっ!」
無様に叫びながら、兵士に引きづられていくブライラント公爵。
人々もブライラント公爵をガチで嫌っているから、誰も助けようとしなかった。
これでヘイトを買っていたブライラント公爵を追放できた。
領民たちもこれでスッキリするだろう。
「さて、悪徳領主の追放が終わったところで、フィンくん」
俺はフィンと向き合う。
「このブライラント公爵家を継いでほしい」
「え? ぼくがブライラント公爵家を?」
「そうだ。君が公爵家を継ぐのだ」
「む、無理です! だだの平民の自分が公爵様になるなんて……」
「いや、キミは『剣聖』のスキルを付与されたんだ。公爵家を継ぐ資格がある」
「ほ、本当にいいんですか? オウガ様」
アンジェリカが俺を諌める。
「いいんだよ。『剣聖』のスキルを持つフィンのほうが領主に向いている」
「ですが……」
心配そうな顔で、アンジェリカが俺を見る。
「これでいいんだよ。フィンならやってくれる」
「……わかりました。オウガ様がそう言うなら、ぼくがブライラント公爵家を継ぎます」
「うむ。ありがとう……! ブライラント公爵家を任せたぞ!」
俺はフィンと固く握手を交わした。
(めんどくさいことを押しつけられてよかった)
領主なんて正直、めっちゃくちゃめんどくさい。
領地経営はすごく大変らしいからな……
それを全部フィンが引き受けてくれるなら、俺はすげえ助かるわけだ。
「俺の信頼する使用人をフィンにつけるよ。最初はそいつらの補佐を受けながら、領地経営をしてくれ」
「はい……! ありがとうございますっ! オウガ様!」
フィンは目に涙を浮かべながら、俺に感謝してくれる。
(喜んでくれてよかった〜〜)
あとはめんどうなことが起こる前に、さっさと魔法学園へ行こう。
あれこれ頼られたら大変だからなあ……
「おう。領地を頼んだぞ。フィン」
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