第10話 なんであいつが活躍しているんだ…… 勇者ヴァイス視点

【勇者ヴァイス視点】


 俺、ヴァイス・ランド。

 この同人エロゲ、ダークネス・ファンタジーの主人公であり、勇者だ。

 俺はクラウスとブライラントの決闘を、近くで見ていた。


「なんでアイツがファルネーゼに話しかけてられているんだよ……」


 そう。俺は転生者だ。

 しかも、ただの転生者ではない。

 俺はこのゲームの——制作者だ。

 同人エロゲ、ダークネス・ファンタジーを作ったのは、他ならぬ、この俺。


「自分が作ったゲームの世界に転生できた時は、そりゃもう嬉しかったよ。自分の作った世界で、自分が主人公になれるんだから……」


 しかし——

 俺の作った完璧なシナリオを、破壊しようとしているヤツがいる……


「オウガ・フォン・ブライラント……アイツはいったい何者なんだ?」


 俺の作ったシナリオでは、クラウス王子が主人公ヴァイスに決闘を挑み、ヴァイスが勝利する。

 その決闘を見ていた生徒会長のファルネーゼが、ヴァイスを生徒会に誘うのだが……


「俺の創り出した完璧なシナリオを……あいつが、ブライラントが壊そうとしている……」


 ファルネーゼはメインヒロインの一人で、俺の推しキャラだ。 

 キャラデザだって俺が描いた。


「だからあのおっぱいは、俺のものだ……」


 ヒロインがみんな巨乳なのは、俺が巨乳好きだから。

 全ヒロインのカップ数を記憶している。

 ファルネーゼは、たしかFカップだった。

 俺の一番好きな大きさのおっぱい……


「なのにブライラントが、俺のおっぱいちゃんを奪いやがった……」


 クラウスとの決闘シーンは、俺のお気に入りだ。

 あそこからヴァイスの活躍が始まる。

 俺はこの日を、何より楽しみにしていた。


「ブライラントはかませ犬の悪役のはず……」


 ブライラントは悪徳領主。

 勇者であるヴァイスに倒されるだけの存在。

 ただの踏み台にすぎないのに……


「俺の創った完璧なシナリオを壊すヤツは……絶対に許せない」


 同人エロゲのダークネス・ファンタジーは、俺の作った同人サークル「暗黒舞踏」の作品。

 まあサークルと言っても、ぼっちな俺は一人ですべてやっていたわけだが……

 シナリオもキャラデザも効果音も全部、俺が創り出したものだ。

 もちろん、えっちシーンも俺が——


「自分で創ったえっちシーンは最高だ」


 俺の性癖をすべて詰め込んだ、幸せな世界。

 俺の創った美少女たちに囲まれて暮らす世界。

 セカンドライフは最高の人生になるはずだった。


 なのに。

 なのに、なのに、なのに……っ!


「ブライラント……お前は苦しんで死ぬべきだ」


 ただ殺すだけでは済まなさい。

 苦しませてから殺してやろう。


「ふふ。ブライラント、待ってろよ……」


 俺は一人で笑っていた。

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