第9話 勇者の代わりに生徒会長に評価される

「ぐ……っ! ふざけるな! ヘルファイア!」


 と、クラウスはヘルファイアを連射するが、


「魔力無効——」


 ヘルファイアは一瞬で消滅してしまう。  


「嘘だろ……クラウス殿下の魔法が効かないなんて」

「古代魔法ってマジかよ」

「まさかクラウス殿下に勝つのか……?」


 周囲の学園生たちもざわくつく。

 みんな初めて見る魔法だろうから無理もないことかもしれない。

 うん。やっぱり魔力無効は想像以上の性能だ。

 相手の魔法を無効化して、それから……

 

「来るな、来るな、来るなぁぁぁぁあああ!」


 クラウスの放つ魔法をすべて無効にしつつ、俺はどんどんクラウスに近づいていく。

 あとは物理で——殴るのみ。


「ひっ……」


 自分の魔法がすべて無効化されて、俺が無傷のまま近づいてきたのが怖いのか、腰を抜かすクラウス。

 なんか身体をガタガタ振るわせてるし、俺の握った拳を見てビビってるみたいだ。

 おいおい。これじゃ、悪役が王子様をいじめているみたいじゃないか……

 あ、そうだった。今の俺って悪役じゃん……

 だけど、王族をみんなの前でボコって後でめんどくさいことになるのも避けたい。


「……審判、勝敗をお願いします」


 俺は呆然とする審判に話しかける。

 審判、ちゃんと仕事してくれー!


「す、すみません……っ! く、クラウス殿下の戦意喪失により、ブライラント公爵令息の勝利ですっ!」


 審判が俺の勝利を宣言する。

 戦えなくなった奴を馬乗りになって殴ることはしたくない。

 クラウスから仕掛けてきた決闘とは言え、俺は一応ルールは守るつもりだ。


「マジでクラウス殿下に勝ちやがった……」

「ブライラントって無能のはずじゃ?」

「どんだけ強いんだよ」


 周囲のギャラリーがかなりざわつく。

 ヤバい。このままではかなり目立つ。

 悪役からモブキャラになって、学園生活を平和に楽しむ計画が破綻してしまう……


「オウガ様ーっ! さすがですっ!」


 アンジェリカが後ろから俺に抱きついてきた。

 

「すごいです! 王族に勝ってしまうなんて! もうヤバすぎて抱かれたいです……!」


 アンジェリカの凶悪なおっぱいが俺の背中にぎゅうぎゅう当たりまくる。

 なんか最後にすごいこと言ってるけど、スルーしたほうが賢明だ。


「……ブライラント様」


 俺がくっついて離れないアンジェリカを引き剥がそうとしていると、ギャラリーの令嬢から声をかけられた。


「わたしは、セプテリオン魔法学園生徒会の者です。少しブライラント様とお話しできませんか……?」


 この令嬢は、生徒会長のファルネーゼ・フォン・アンダルシア。

 長い金髪とアイスブルーの瞳がキレイな美少女。

 ゲームのメインキャラのひとりで、決闘でクラウス殿下に勝った主人公ヴァイスに、声をかける。

 平民なのに膨大な魔力を持つヴァイスを、生徒会に勧誘するためだ。

 ここで悪役の俺が誘いを受けてしまえば、シナリオを破壊してしまうことになるが……


「すみません。この後、用事がありますので……」

「では、用事が終わった後でお話できれば」

「いや、今日は忙しくて」

「でしたら、明日でも大丈夫です」

「明日もちょっと……」

「そうですか……わたしはブライラント様のご都合に合わせます。1ヶ月でも半年でも待ちますので」


 ファルネーゼが俺に話しかけるのを見て、他の学園生たちがヒソヒソ話している。

 クズ悪徳領主と呼ばれているオウガと、人気者の生徒会長ファルネーゼの組み合わせ。

 あまりにも合わなすぎて、注目が集まってしまう。


 誘いを断って生徒会に睨まれるとめんどうだし、変な噂が立つとさらにめんどくさい。

 生徒会メンバーは将来の国王側近候補で、生徒会メンバーと揉めたら卒業後も肩身が狭くなる。

 地方騎士になってスローライフを送る未来を、失ってしまうかもしれない。


「わかりました。明日お話できれば……」

「ありがとうございます! 放課後に生徒会室に来てください。お茶とお菓子を用意しておきますね!」


 ニコッと笑って、ファルネーゼは俺の手を握る。

 スベスベのキレイな指。

 しかも巨乳だし。

 前世でこんな巨乳美人と手を握ったことはなかった……


「おい。生徒会長がブライラントをお茶会に誘ったぞ」

「マジかよ……あいつも生徒会入りか」

「クズ貴族のくせにあり得ねえ……」


 うん。わかるよ。そりゃ評判最悪の悪徳領主が生徒会のお茶会に誘われるなんてあり得ない。

 お茶会は、生徒会メンバーが、次の生徒会メンバーを勧誘するためにやるからだ。


 ——チッ!


 うん?

 なんか近くで誰かが舌打ちする音が聞こえたが……

 いったい誰だろう?



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