第19話 オウガさんはすごく強い…… エステル視点

【エステル視点】


「オウガさんは、すごく強かった……」


 あたしは生徒会室へ向かっていた。


 下級魔法のライトボルトで、上級魔法の雷撃斬を破った。

 そんなこと、普通、できるわけがない……


「どんな修業をしたらそんなことが……」


 オウガさんの魔力量がすごいのもあるが、魔力を操るセンスが卓越している。

 根源——人間一人ひとりが持っている、魔力が生み出される「核」のようなものだ。

 古代魔法は、この根源に直接干渉することができるらしい。

 昔、魔法の家庭教師がそんなことを言っていたのを覚えている。


「だとしたら、オウガさんは古代魔法の使い手なのか」


 古代魔法……それは現代では失われた魔法だ。

 現代人が古代魔法を習得することは困難で、高位の魔術師ですら十年以上かかるらしい。


「本当にすごい……」


 人はわたしを「氷の姫騎士」と呼ぶ。

 どんな状況でも、冷静に剣を振る姿を見てこの名前がついた。

 この名前は、わたしは好きじゃない。

 わたしはただ、強くなりたいだけだ。

 もっともっと強くなるために、剣をひたすら振り続けていたら、勝手に人が「氷の姫騎士」と名付けた。


「オウガさんは……きっと私より強い」


 ブライラント公爵家は、領民から搾取し、贅沢三昧の暮らしをする貴族のゴミ、と聞いていた。

 父親のブライラント公爵も、その息子のオウガさんも最低の悪徳領主だと、もっぱらの噂だ。


「だけど……全然違っていた」


 メイドから聞いた話だが、最近、平民の間でブライラント公爵領の人気が上がっているらしい。

 ブライラント公爵領に、引っ越したい平民が増えているのだそう。

 領地の状況が劇的に改善されたのは、オウガさんの指示が大きいらしい……


「強くて、領民想いの貴族か……」


 わたしは噂を信じない。

 自分の目で人を見て、正しいかどうか見極める。

 オウガさんは……間違いなく本物だ。


「……カッコ良かったな、オウガさん」


 グラスとの決闘に勝った後も、グラスの心配をしていた。

 自分ですぐ治癒魔法をかけていたし……

 剣士部と魔導士部の揉め事も、オウガさんのおかげで上手く仲裁できた。

 剣士部が中央グラウンドを試合で使う代わりに、剣士部は魔導士部にメイドを貸すことで、丸く収まる。


「もしオウガさんがいなかったらわたしは……」


 わたしはただ正論を言うだけで、まったく事態を収めることができなかった。

 オウガさんが一緒に来てくれなければ、わたしは本当に何もできなかっただろう。


「オウガさんとまた一緒に……」


 オウガさんのことが頭から離れない。

 早くまた会いたいな——



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