勇者に殺される悪徳領主に転生した俺、序盤に鍛えすぎたせいで勇者の地位を奪ってしまう〜逆恨みした勇者に狙われているけど、全然気づきません〜

水間ノボル@『序盤でボコられるクズ悪役貴

第1話 エロゲの悪徳領主に転生した

「悪徳領主、ブライラント。これがお前の最期だ……っ!」


 勇者――ヴァイス・ランドは、剣を振り上げる。

 ヴァイスの前に倒れている男は、悪徳領主のオウガ・デューク・ブライラントだ。

 今まさに、悪徳領主が正義の勇者に成敗されるシーン。

 これから悪役は、破滅するのだ……

 

「クソ……ここまでか」

「俺はお前を許さない。お前は領民を搾取し、少女たちを凌辱した。生きる価値はない」

「く……っ!」

「死ね」


 ヴァイスはオウガの首をめがけて、剣を振り下ろす。


「あああああああああああああああああっ!!」


 ★

 


「ここはどこだ……?」


 目が覚めると、俺は知らない部屋にいた。

 やけに大きくで柔らかいベッドの上。

 うん。かなりフカフカだが……


「オウガ様……朝食の準備がで、できました……」


 メイドの恰好をした女性が、やって来た。

 すげえきれいなお姉さんだ。

 うやうやしく俺に、頭を下げる。


 (オウガ様……?)


 聞いたことがある名前だ。

 窓を見ると、デブった7歳くらいのブサイクな少年が映っていた。

 ……この顔は、どこかで見たことあるような。

 まさか。

 同人エロゲ『ダークネス・ファンタジー』の悪役、オウガ・デューク・ブライラントか?

 『ダークネス・ファンタジー』は、同人エロゲの世界で「問題作」としてかなり話題になった。

 ストーリーは勇者の主人公が魔王を倒すダークファンタジーだ。

 悪徳領主の令息であるオウガは、奴隷やメイドや庶民といった自分より弱い立場の美少女たちを凌辱しまくる。

 商業エロゲでは実現できないような、過激な内容が売り。


「マジヤバいわ……」

「グロすぎw」

「最後までプレイできない」


 これが『ダークネス・ファンタジー』のネットでの評判。

 怖いもの見たさで俺は、プレイしてみたわけだが……

 美少女を犯しまくるオウガに、ヘイトが溜まりまくって思わずPCの画面を殴ってしまった。

 貴族の立場を利用して、美少女を無理やり嵌めていくオウガは、「死ねばいい」としか思えないほど好感度0のキャラだ。

 最期には、勇者の主人公と民衆が蜂起して、ブライラント公爵家は破滅する。

 同人エロゲらしく設定はめっちゃくちゃで、どのヒロインのルートでも、オウガは確実に死ぬという結末だ。


 ――そんなキャラに、俺は転生したのか?


「ねえ、キミ。俺は、オウガ・デューク・ブライラント……なのか?」


 俺は起こしに来てくれたオウガの専属メイド――アンジェリカに聞いてみる。


「…………!」


 アンジェリカは恐怖で身体が震えまくっている。

 額から尋常じゃない汗が流れて、顔は青ざめている。


 (なるほどな……)


 おそらくアンジェリカは、主人のオウガの問いを「深読み」しているのだろう。

 つまり、意味のよくわからない問いかけをして、答えが自分の気に入らなければ、オウガに虐待されると思っているのだ。

 オウガはかなり性格の悪いキャラだから、どんな意地の悪い嫌がらせをしてくるかわからない。


「大丈夫だよ。怖がらなくていい。何もしないから」

「ほ、本当ですか……?」

「ああ。約束する」


 俺はなるべく優しくメイドさんに微笑んだ。


「……はい。オウガ様のフルネームは、オウガ・デューク・ブライラント様です」


 (やっぱりか……)


 これで俺は、同人エロゲ『ダークネス・ファンタジー』の最低の悪役、オウガに転生したことが確定した。

 ほとんど諦めていたが、改めて自分が最低な悪役に転生したことを自覚するとガッカリしてしまう。


「オ、オウガ様、あたしは、いったい……?」


 まるで冷たい水を浴びせられたかのように、アンジェリカは身体をガタガタ震わせている。

 間違った「答え」を言ってしまったのかと、不安になっているようだ。


 (ここは主人として、使用人を安心させないといけないな……)


 俺の前世はブラック企業の社畜だった。

 いつもパワハラ上司の顔色を伺っていた。

 それで無駄に疲弊していたわけだ。


 (上司は部下に働きやすい環境を用意してやらないと……!)


「いつもありがとう。アンジェリカのおかげで助かっているよ」

「……えっ?!」

「これからも俺の世話を頼む」

「……は、はい! オウガ様!」


 部下の苦労をきちんと言葉にして労う――ブラック企業のパワハラ上司になかったものだ。

 上司の何気ない一言で、部下は救われたり絶望したりする。

 だから部下に話しかける時は慎重にいかないとな……


「今日はもういいから、下がっていいよ。アンジェリカもゆっくり休んでくれ」


 俺はアンジェリカの背中を優しくさすった。


「あ、ありがとうございます……! オ、オウガ様!」


 最後まで怯えた顔で、アンジェリカは部屋から出て行った。


 (うーん……嫌われてるな。俺)



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