第29話 俺のヒロインを返せ……! 勇者ヴァイス視点

【勇者ヴァイス視点】


「クソ……っ! なんでエステルがブライラントと一緒に?」


 俺は生徒会室から出てきたブライラントを尾行していた。

 今日こそヤツを殺すために……

 そうしたら、エステルとブライラントが一緒に学園の外に?!


「嘘だ・嘘だ・嘘だ……あり得ない」


 エステルとの王都デート。

 あれはエステル√でしか発生しないデートイベントだ。

 それを……悪役のブライラントが奪っている?


 俺は二人に気づかれないように、学園の外まで跡をつけていく。

 西へ向かっている……

 これは王都の商人街の方向だ。

 あれか……エステルの領地の郷土料理を食べに行く。


「完全にデートイベント確定だな……」


 エステルとのデートイベントは、俺が気合を入れてシナリオを書いた。

 「氷の姫騎士」と呼ばれるエステルと、主人公ヴァイスが心を通わせる感動ストーリー。

 貴族至上主義の強いセプテリオン学園で、平民でありながら成り上がっていくヴァイスに、その実力を評価するエステルが興味を持つ。

 実は……このデートで、エステルは領地でモンスターに父親を殺されたトラウマがあって、その暗い過去をヴァイスに明かす。

 そうやってヒロインと絆が生まれる大事なイベントなのに……

 

 そして、その日の夜に、ヴァイスはエステルに誘われて――最初のえっちシーンへ行く。


「俺の一番好きなイベントなのに……それを奪うつもりか」


 エステルのおっぱいは爆乳。

 すべての攻略ヒロインの中で、一番大きなおっぱいだ。

 この世界に転生してきた時に、最初に望んだこと。

 それは――エステルとのえっちだ。

 あの豊すぎるおっぱいで、ヴァイスの勇者を……

 うん。ここから先は口にできないほど、すげえヤバいえっちシーンを描いた。

 俺が俺のために創った、最高のえっちシーン。

 たぶんエロゲの歴史に刻まれるべき、偉大な傑作であるはず……

 

「……っ!! あれは!!」

 

 俺が離れたところから、気配を消して着けていると……衝撃的な光景が。

 エステルと、ブライラントが手を繋いでいる……っ!

 あり得ない、絶対にあり得ない!

 俺は目を閉じてから、もう一度ゆっくり目を開けると――


「く……っ! やっぱり手を繋いでいる!」


 しっかりと固く、エステルとブライラントが手を繋いでいる。

 しかも、エステルのほうが少し身体をブライラントへ傾けて……

 受け入れがたい現実。

 本当にここは、俺の創ったゲームの世界なのか?

 俺は確かに主人公ヴァイス。

 ああやってエステルと手を繋ぐのは、俺のはずなのに……っ!


「ブライラント……絶対に許さない」


 郷土料理の店に行くのなら、そこのヤツらを操って……

 いや、それだけじゃ足りない。

 この世界は間違った方向に進んでいる。

 それならば、俺が世界を正しい方向へ導けばいい。

 

「作るか。神の軍隊を……」


 ブライラントにめちゃくちゃに壊された世界を創り直せばいい。

 俺は神だから、世界を破壊する権利もあるはずだ。

 いったん間違った世界を破壊して、そして一から創り直せばいいのだ。


「ただ……メインヒロインたちは救いたい」


 メインヒロインたちは俺の理想の女の子。

 それを壊すのは勿体ない。

 エロゲの世界にせっかく転生したのなら、ヒロインたちといろいろしたい……


「ブライラントさえいなければ、ファルネーゼもエステルも、絶対に俺に惚れるに違いない……っ!」

 

 なんせ俺は主人公のヴァイス。

 勇者であり、この世界を救う英雄だ。

 しかも、このゲームの制作者だ、

 つまり「神」である。


「俺は神だ。神を好きにならないヒロインなんてあり得ないはず……」

 

 そうだ。

 ファルネーゼとエステルに告白しよう。

 神の愛を込めた告白をすれば、絶対にヒロインたちは恋に落ちるに違いない。

 いや、神である俺が目の前に現れるだけで、向こうから愛の告白をしてくるはずだ……


「ふふ。待ってろよ。ブライラントから俺のヒロインを取り戻してやる……」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る