第33話 全国デビュー
僕―—徳永壮馬はぼうっとスマホを眺めていた。
美乃梨が事を起こすと言って、一週間が経った。
新しいスマホを手に入れた僕は連絡を試みているが、一向に返事はない。
よほど忙しいのか、何なのか。
けど、僕の経験上、美乃梨が本気を出す時はとんでもないことが起きる。
彼女が本気を出せばマークⅡという性能が凄いロボットを作ったり、記憶を消す装置を作ったりもできる。別に発明方面に限らず、彼女の行動力と頭脳が組み合わさる時にとんでもないことが起こったりする。
一週間経ったからか、とてもそわそわしていた。
期待でも不安でもある。
落ち着かないけど、一人でそうめんを食べていた時に、美乃梨から一件のURLが届いた。開く前にそのURLを確認すると、どうやら動画配信サイトのものだ。
URLをタッチして当該サイトへと飛ぶ。
すると、画面には一人の壮齢のおじさんと二人の美乃梨、マークⅡと水野美乃梨本人が机に座っていた。
このおじさんどこかで……。
記憶が確かなら、美乃梨と交流があった大学教授の人……のはず。
この並びが何故か、動画配信サイトで配信を行っている。
カメラに写っている様子から記者らしき人も確認できる。
まるで記者会見みたいだった。
そして定刻を迎えたのか、大学教授が話し始めた。
『この度我々は、ここにいる天才少女、水野美乃梨さんと共に、人型ロボットを開発いたしました。それがこちらに座っている少女、マークⅡです』
会場内を拍手が舞った。
配信のコメント欄でも88888と拍手だったり、賞賛するようなコメントが見たこともないようなスピードで流れていく。
そして、開発者本人である。美乃梨がマイクを取った。
彼女は久しぶりに浴びる大勢の目線に臆しているようだった。
けど、マイクを強く握っているのが、配信のカメラからは見えた。
『私が開発したロボット、マークⅡの機能を発表を致します』
そして彼女は手につけていたモーショントラッキングでマークⅡの腕を動かした。
人間そっくりの動きをするマークⅡに会場は驚いていた。
『このように操縦者の腕と同じように動きます。そして……』
美乃梨がコントローラーでマークⅡを歩かせた。
その歩き方は人間と比べても遜色のないもので、誰も釘付けになっていた。
『歩き方も人間とそっくりです。勿論、走ることもできます。あと、人間以上のパワーがあるので、このように石くらいなら手で砕けます』
大学教授が渡した石を素手でボロボロに砕いている。
『こちらのパワーについては調子に乗ってつけてしまっただけなんですけどね……。つまりこのマークⅡは人間と同様の容姿を持ち、人間と同様に活動ができる完全な人型ロボットということになります』
並んで立ったマークⅡと美乃梨に沢山のシャッターが切られていた。
二人揃って頭を下げる二人。
気づけば、配信の視聴者は十万人単位を超えていた。
そりゃオーパーツのような既存のロボットの概念を破壊するようなものが誕生したのだ。外野の盛り上がりは分かる。
だけど、分からないのはどうして美乃梨がマークⅡを公表するかに至ったかだ。
今だってニコニコしているマークⅡとは違って、美乃梨自身はあまり嬉しそうにしていなかった。
やっぱり大人数の前に姿を晒しているのが辛いのだろう。
そんな思いまでして、どうして配信をしたのか。
機能解説が終わり、質疑応答の時間になる。
研究者たちからの専門的な質問は何言っているか分からなかったが、記者たちの質問の中には気になるものがった。
『先ほど、水野さんは元々マークⅡのことを公にする気は無かったと仰っていました。でしたら、どうして今、公表する気になったのでしょうか?』
『元カレのためです』
この記者会見の中で美乃梨は恥ずかしげもなく言い切った。
カメラに映る大学教授はそれを聞かされていたのか、微笑んでいた。
その元カレが誰か分かっているというか、僕しかいない。
何十万人も見ている中で、元カレと言われて恥ずかしくならないわけがない。
『元カレさんのため……ですか? それは一体どのようなものかとお聞きしてもよろしいでしょうか?』
記者も慣れているのか、冷静に質問を続けた。
『マークⅡを秘密裏に運用していたら面倒なことになりまして、それを解決するため、と今は言っておきます』
この言葉で美乃梨が確実に何か目的があって、記者会見を開くことを決めたのだと分かった。それにしても一体何のために……?
質疑応答の時間を経て記者会見は終わった。
SNSのトレンドだったり、ネットニュースだったり、テレビではこの話題で持ち切りになった。美乃梨の幼い頃の研究成果だったり、謎に包まれたプロフィールなど、色々と報道された。
気になるのは、わざわざどの高校に通っているのかを美乃梨自身が公表して良いと記者たちに告げたこと。
用があるなら学校を通してくれと言っているらしい。
個人情報の公開なんて基本は、彼女自身を不利に追い込むことだ。
中学時代の不登校、両親の離婚、いくらでもいやらしいメディアが騒いだって不思議じゃない。それなのに、何故か、一部だけ情報を明かしている。
絶対に何か狙っていると思った。
だけど、美乃梨が考えていることを当てるのは難しく、考えていたら連絡を取ることを忘れていた。
そのままやって来た翌朝。誰かに起こされている。
スマホを見て、情報収集をしていたら寝落ちをしていたようだ。
「起きて壮馬! これで仕込みは済んだから学校行くぞ」
起こしに来ていたのは、マークⅡではない本物の水野美乃梨だった。
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