その後(終)
校長と永田にカチコミに行ってから少しの時間が経った。
校長は僕への停学処分を取り消し、永田は警察からの捜査を受けているらしい。
もう夏の暑さも収まって、ワイシャツで過ごしているような生徒は減って来た。
これで朝もへばらずに済んでいる。
「よっ、壮馬! 最近、水野ちゃんとはどうなんだ?」
そう話しかけてきたのは手貝だ。
秋口になったからと言って、イヤリングの色が変わった。
「どうって……最近はすっかり人気者になっちゃったからな」
「ああ、すげえよな」
僕がいつものように視線を飛ばすのは美乃梨がいる方。
テレビに出たこともあって、彼女はもうすっかり有名人だ。
本心を露わにした美乃梨は他人に対して少し当たりが強い。口調も冷たさを感じる人は感じるだろうから、ここまで人気者になるとは思わなかった。
評判によると、それが寧ろサバサバしててかっこいいだとか。
ただ……今日、登校しているのはマークⅡだ。
美乃梨本人は外に出れるようになったが、体力が足りなくて二日に一日しか学校に来れないと彼女は語っていた。
そんな美乃梨からいつものように頼みごとがメッセージアプリで送られてくる。
学校での僕たちにはまだまだ壁がある。
話すことなんて難しいから、こうやっていつも通りに遠巻きに眺めていて、メッセージアプリを使ってやり取りをするだけ。
それに僕はまだまだ不良生徒みたいな扱いで、話してくれる相手は随分と減ってしまった。手貝を除けば、時々牧瀬が話しかけに来てくれるくらいだ。
問題は解決したとて、失った評判は戻らない。
でも、好きな人を守るため。
美乃梨を守れたのなら、それ以上に幸せなことなんてありはしない。
そう思って迎えた昼休みのこと。
いつの間にか教室からマークⅡが消えたと思ったら、美乃梨本人が教室に現れた。
そして、何故かわざわざ教室中に聞こえるような大きな声で、僕の名前を叫ぶ。
「そうま~! アタシとまた、付き合って!」
いきなりの告白だった。
しかもクラスの皆がいる前で。
こんな時に限って、誰も食堂や部活の昼練に行っていない。
クラス中の視線が僕に集まった。
僕は似たような場面に遭遇したことがある。
それはかつて美乃梨に振られたとき。
あの時も卒業式が終わった後のみんながいる教室で、だった。
けど今回は関係の終わりを告げるものではない。
ここからが始まりなんだ。本当の意味での徳永壮馬と水野美乃梨の関係が、再び、動き出そうとしている。
だからこそ、素直に短く答えを伝える。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
僕がそう言った瞬間に、皆からのクラッカーが宙を舞った。
「おめでとう!」
「お幸せに」
「水野さんを傷つけたら、許さないからな!」
色々な祝福の声が入り混じる中で、僕は気がついた。
そして、美乃梨にだけ聞こえるように言った。
「もしかしなくても、皆と秘密裏に計画してた?」
「そうそう! 壮馬の評判が下がったままなのも嫌だしね」
あの日、振られたときは違って祝福に包まれた空間。
これもまた、美乃梨が僕を助けるためにやってくれたこと。
やっぱり本気を出した美乃梨には敵わないなと思いながら、今、この幸せな一瞬を噛みしめていた。
========
あとがき
本作「幼馴染に振られてから三年後。同性同名の~(以下略)」に最後までお付き合いいただきありがとうございました!
別作品でまた皆さまと再会できれば幸いです。それでは!
幼馴染に振られてから三年後。同性同名の訳アリ女子に頼られています 綿紙チル @menki-tiru
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