第7話 学校ボケ
「でも、協力して欲しいって何を? 僕の頭じゃ、マークⅡ改造の手伝いとかはできないけど……」
「肉体労働」
そう言って美乃梨が取り出したのは小さな機械だった。
かなり薄くて手のひらよりも小さく、何かを嵌められそうなくぼみがある。
「これをクラスにある全ての椅子に嵌めて欲しい。今はこれ一つしかないけど、後々家から人数分持ってくる」
「頼み事は分かってけど、これは……?」
「無理やり強度を上げるための装置」
美乃梨がさっき言っていた『重さに耐えられるような細工』ってこれのことか、と一人で納得をする。
だが、わざわざ美乃梨が僕に協力を求める理由が分からない。
本来なら一人でもマークⅡとして学校生活をやっていくつもりだったはず。実際に成し遂げられるかはさておき、今の美乃梨が積極的に人を頼るとは思えない。
「……余計なことを考えていそうだから、言っておくけど、あなたに手伝って欲しいのは、見張りとしての役目。他のクラスメイトに見せられないから」
聞きたいことを先読みされた。
てっきり呆れられるかと思ったが、どこか申し訳なそうな顔をしていた。
「なるほど。分かった」
「さて、話は終わり。放課後になったらやるから、あなたは教室に戻るなり、ほとぼりを冷ますために帰るなりしていいわよ」
「美乃梨は?」
「アタシは……もうちょっとここでまったりしてから教室に帰る」
どこか疲れた表情を見せる美乃梨。
たぶん、優等生を演じているのに、疲労を感じているのだろう。
声をかけてあげたいが、それを今の彼女は望んでいない。
素直に家に帰って食えなかった昼飯でも食べようと思って、階段を下りていた最中、不意にあることに気づいた。
ダッシュで階段を駆け上がって屋上へと戻る。
しかし、マークⅡの姿は見当たらない
ぐるりと辺りを見渡すと、給水塔の上でプラプラしている足を見つけた。
僕も梯子を上って、美乃梨の隣に立つ。
しかしマークⅡは固まっていて反応が無い。
恐らく一時的に接続を絶っているのだろう。
仕方がないから、メッセージアプリで美乃梨(ホンモノ)へと通話をかけた。
けっこう長めのコール音の後に美乃梨の声が聞こえた。
『な~に』
昼寝でもしようと思っていたのだろうか、明らかに機嫌が悪い。
『マークⅡの改良で思いついたことがあるんだよ。そうすれば、わざわざ1―Aの椅子すべてに装置を取り付けなくて済む』
『……つまんないアイデアだったら、屋上からぶん投げるよ』
マークⅡの力があれば可能なんだろうなと、ぶん投げられる未来を想像する。
まあ、そんなことにはならないだろうと、大天才に力強く進言することを決めた。
『マークⅡに空気椅子をさせて、座っているように見せつければいいんだよ!』
『……空気椅子? 空気椅子って何?』
美乃梨は空気椅子を知らないようだ。
しかし、説明を求められても言葉が出てこない。イメージはあるのだが、何と言えばいいのかが微妙に難しい。
『……聞いてごめん。こっちで調べる』
『……はい。よろしくお願いします』
自分から提案しておいて、詳細を言えないというあまりにもみっともない醜態を晒してしまった。穴があったら入りたい。
『……なるほど、空気椅子というトレーニング方法があるのね』
『そうでございます』
思わず変な口調になってしまったが、美乃梨は我関せずと言った様子で、話を進めていく。
『つまり、椅子に座りながら、本当は座っていない状態にさせたいわけか。具体的な例を出すなら、座っているように見せかけて尻を椅子から5ミリ浮かすとか』
『そうそう!』
アイデアを出したはいいが、結局は美乃梨の知能におんぶにだっこ。
僕も具体案ぐらい用意してから言えば良かった。
『……正直、アタシにはないアイデアだった。助かる』
『……だったら、屋上からぶん投げるのは止める?』
『止める。というか、本気で投げる気ないから!』
記憶を消す。これが本気だったから、投げるも本気だと思った。流石にそこまで、鬼畜ではなかったようで良かった。
『どうしてこれを思いついたの?』
閃き、と言えば済むかもしれないが、純粋に美乃梨が僕の発想に興味を持ってくれている。それなら、根底にあったのは――。
『そもそも問題が解決してないから、かな』
『いや、そんなことはない。だって、学校で椅子に座る機会なんて無くない?』
『……色々あると思うんだけど。移動教室、何かの行事で座る体育館のパイプ椅子とかさ』
スマホの向こうで、ペットボトルが落ちる音が聞こえた。
どうやら、心がざわついているらしい。
『二年間ひきこもっていたから忘れてた! 教室の椅子だけじゃどうしようもないじゃん!』
『……そういうことになるね』
『耐荷重装置作るより、空気椅子のプログラム組んだ方がはるかに楽だし、やらかした~!』
学校ボケとでも言ったらいいのか。
恐らく彼女は優等生を演じるために必死なところがある。
秘密を守るために過度なことをしようとしたり、わざわざこんな完全無欠美少女なロボットを作ったりと余念がない。
そういう風な努力に余念はないが、肝心要の学校のことを分かっていないのだ。
『でも気づけて良かった。本当にありがとう!』
『いや、結局大したことしてないし……』
『それでも、だ! マークⅡと同衾するぐらいはしてやりたい!』
止めてください。ベットがぶっ壊れてしまいます。
それに何でもかんでもマークⅡの身体でお礼をしようとするのは、本当に良くない。決して誘いには乗らないが、不健全が過ぎる。
そうだ、だったら――。
『別のことでお礼してもらうってできる?』
『できるけど……何? アメリカの超大手企業の株が欲しいとか?』
何でそんなもの持ってるんだ、この人。
それも結構大きいご褒美だけど、それよりも、優先して聞きたいことがあった。
「教えてくれるなら教えて欲しい。どうして、マークⅡを作ったのかを」
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