幼馴染に振られてから三年後。同性同名の訳アリ女子に頼られています
綿紙チル
第1話 完全無欠の転校生は、僕の元カノと同性同名
「壮馬、別れよう」
小学校の卒業式の日、クラスメイトが沢山いる中で、大好きな幼馴染にそう告げられた。彼氏として情けない僕が振られるのは当然だった。
もう二度とこんな過ちを犯したくない。
弱い自分からの卒業を小学校の卒業と共に誓った。
◆ ◆ ◆
あれから三年と数か月。
夏休みって何であるんだろう。
普通に考えたら、夏が暑いからだと思う。
北海道の学校は、本州の学校と比べても夏休みが短いらしいし。そういうことなんじゃないかと思う。
つまるところ、猛暑が夏休みを過ぎても続いている現状、九月であっても夏休みにして欲しい。決して、休みを増やして欲しいからではない。本当に暑いからだ。
先生が来るまで、エアコンをつけたらいけない、とか言うルールもクソだ。
道で干からびているみみずのように、ぐったりとしながら、教室を眺めていると、どうしても意識を吸い寄せられる女子がいる。
彼女は秋口に転校して来た。
水野美乃梨。
人形のように整いすぎた日本人として完璧すぎる顔立ち。
横髪の一部を後ろに回して結っている。髪には、人間離れしたツヤがあり、その笑顔を見れば異性、同性すら関係なく、魅了されてしまう。
校則通りの長くも短くもないスカート、第一ボタンまで必ず止めている生真面目さの具現。
いつ何時でもピンとした背筋、気品ある歩き方。
眠そうにしてる、体調悪そうにしてる、なんて様子も一切見せない。
誰にでも優しくて、泣いている赤子を一瞬で眠りに誘えそうな穏やかな声。
その女子高校生として、整いすぎている姿。
一部では、『完全無欠』なんて呼ばれている。
それが、この学校に転校してきた水野美乃梨というクラスメイトだった。
「よっ、壮馬。今日も熱い視線を送ってるな」
「別に熱くなんてないよ。というか、暑さで死にそうになっている人間の前で、キンキンに冷えた缶コーヒーなんて飲まないで欲しい。奪うぞ」
死にかけの僕をからかっている手貝琥太郎。
比較的に自由な校風が取り柄のうちの学校では、こいつのように髪を染めた金髪でピアスをしていても許される。
水野美乃梨の対極にいるようなやつだと俺は思う。
「俺も波に呑まれて、水野さんに告白しに行ったけど、普通に断られたぞ。だから、俺よりもぱっとしないお前じゃ無理だ……諦めろ」
えっ、告白しに行ったんだ……、とドン引きしてしまった。
勿論、手貝に伝わり過ぎるくらいにオーバーリアクションで示してやる。
「えっ……」
「う、嘘だから! 本気でそんなことするわけねーじゃん! ただ、ホントに壮馬が毎日、水野さんに目が行ってるからさ」
「僕だって、女子をじろじろ見たくはないけど、ないけどさ……」
言われてみれば転校して来た水野美乃梨を暇さえあれば目で追っているのは、自分でも分かっている。
だけど、どうしても、彼女のことが気になるのだ。
容姿が好みとか、所作が美しいとか僕にとってはどうでも良い。
ただ、水野美乃梨という名前ただ一つが、気になってしょうがない。
「やっぱり、元カノと同性同名ってことがさ……」
「それに、歳も同じなんだろ。そりゃ疑ってしょーがねえと思うけど……どうしても、熱の籠った目線をからかいたくなっちまうんだよなあ」
手貝が悪い奴ではないのは分かっているつもりだが、今回は正直ウザい。
ただ、こいつは案外口が堅いので、他の人に漏らすようなこともしない。だから、素直に事情を話している。
「そういや、壮馬の知ってる水野さんってどんな人だったんだ?」
「……もっと不器用だったよ。警戒心高めで、心開いた人以外には、キツイ感じ」
僕の前から、いや、中学進学を境に転校すると言われたときの彼女はそうだった。
もっと厳密に言えば、僕がそういう風にしてしまった。
手貝に言うような話ではないので、わざわざ彼には伝えないが。
「それに、髪色が金色だった」
「は?」
「あと、あんなに可愛い声じゃなかった」
「…………」
手貝が黙ってしまった。
確かにここまでの僕が知っている方の水野美乃梨の情報を話したことは無かった。
でも、何か驚くようなことがあっただろうか。
「壮馬……それってもう、別人じゃないか?」
「!!!? ど、どうしてそう思った?」
手貝は呆れたような遠い目をしていた。
しかし、僕には本当に分からなかった。
「性格は……まあ、会ってなかった間に変わっているかもしれない」
それはそうだと、同意するように頷く。
「で、ここからだ。冷静に考えて髪色って変わるか? 染めてるかもしれないけど、自由な校風を売りにしているこの学校で、わざわざブロンドカラーを隠す意味無くないか?」
ハッとした。その視点は今まで無かった。
「それにだ。声なんてもっと変わらないだろ……」
「確かに……!」
言われてみればその通りだった。
というか、今までそれに気づかない僕って相当ヤバくないか……?
キーンコーンカーンコーン。
と、そんなことを話している間にチャイムが鳴って、手貝は自分の席へと帰った。
やっぱり転校生の水野美乃梨は僕の知っている、彼女とは違うのか。
客観的に見れば、違うって断定して良い気もする。
だけど、どうしても目が吸い寄せられる。
性格も違えど、見た目も違えど、声も違えど、僕の心が、転校生の雰囲気や何かから、元カノだった水野美乃梨だと感じている……のか?
そんな疑念を今日も悶々と抱えたまま授業を受けた。
◆ ◆ ◆
なんでスマホ忘れてしまったのか。
この馬鹿熱い夕日を浴びながら、廊下を歩き、自分が日々授業を受ける教室のドアを開け、僕の机の中を漁る。
見つけた……!
と、そんな小さな喜びを忘れるほどの大きな驚きが目の前に現れた。
教室の窓から女の子―—水野美乃梨が入って来たのだ。
あまりに人間離れした美貌を持っているが、身体能力まで人間離れしているとは思ってもみなかった。
僕が所属している1ーAのクラスは、四階建て校舎の三階にある。
地上から上がってきた、屋上から降りてきた。どっちのルートを使ったとて、窓から入って来るなんて、普通の人間には不可能だ。
そんな、教室の窓に飛び乗ってきた完全無欠美少女の水野美乃梨と目が合う。
「えっ、嘘。なんで壮馬が……、いやそれよりも」
美乃梨は一瞬で、僕との距離を詰める。
背後を取られたことに気づかない程のスピードだった。
首筋に鋭い痛みを感じて、僕は意識を失った。
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