第20話 奉仕活動の案内
火原祭り……地域の公園で行われるそこそこ伝統のある祭りだと先生は語った。
その準備とやらのために、僕は、件の祭りを取り仕切っているらしい火原祭りの実行委員が行う事前説明会へとやって来ていた。
当然だが、僕以外のメンバーもいる。
美乃梨に、手貝、そして牧瀬だ。
正直やりづらいメンツなのは間違いない。
美乃梨と一緒のグループに成れたのは運が良かった。手貝も美乃梨の秘密を一部知っているというメリットもあるが、逆に言えば僕が気を抜くと手貝に秘密を話していることが分かってしまう。
一番厄介なのは牧瀬香蓮だ。
一応、学校では美乃梨の一番の友人らしく、メッセージアプリで連絡も取り合っているらしい。だが、そんな牧瀬に僕は良く思われていないだろう。机椅子ぶっ壊した事件にしろ、最近の授業態度の悪化と言い、僕のことを普通の奴としては認識してないに違いない。
だが、後々のためにも牧瀬には――。
現在、僕たちは公民館の会議室で、火原祭り実行委員の人を待っている最中だ。
牧瀬は僕たちのことを気にせずに美乃梨と喋っている。
二人の意識がこちらに向いていない間に、あの日のHRで何があったかを手貝から聞き出したい。どうしてこうなったのか。
「手貝。どうして僕は彼女らと同じグループなんだ?」
「いや~、良く聞いてくれた。聞いてくれるのをずっと待ってた。聞きたいか?」
悪意の一つもない眩しくて楽し気な笑顔を手貝は浮かべていた。
この笑みからかして、何かこいつが事情を知っているのは確かだ。
「聞きたいからとっとと話してくれ」
「ノリが悪いなあ……。あの日のHRは地域奉仕のグループ決めをすることになってただろう。でも、壮馬や水野さんを筆頭に、教室にいない奴がそこそこいたんだよ」
「水野さんを探しに行った奴らとかもいるしな」
「…………壮馬はそれも知っているのか。意外だな、水野さんを探しに行く話が出る前に教室を出て行ったのにな~」
手貝は何かニヤニヤしたようなウザったい面を浮かべていた。
彼に言われた言葉と表情から察した。
失言。
本来なら、僕はそれを知り得ない。
手貝はあの日に何が起こったのかは知らないはず。だが、何かしらで美乃梨が居なかったことを、僕の教室から退室と関わっていると結びつけたのだ。
やらかす相手が手貝で良かった。
「僕も水野さんを探してたんだよ」
「ふーん、ま、そういうことにしておこうか」
「その話はいいから、さっきまでの続きを言ってくれ」
この話を長くしてるのは怖い。
マークⅡがどのくらいの音を拾えるのか分からないからだ。もし、聞かれていたら相当ヤバイから、とっとと話の概要を聞き出したい。
「中瀬先生が『皆が帰って来るまでに、とりあえず自分が入りたいところに書き込んどいていいわよ』って言ってたから、先生の隙を衝いて、お前の名前も俺が入れておいた」
つまり、手貝のおせっかいでここのグループになったということ。
ありがたいのはありがたい。手貝がいたずらで書き込んだなら、僕が自主的に参加したわけではないので、他の人からの反感も薄くなる。
「でも、牧瀬の他の友だちは何も言わなかったの?」
「ここのグループは男女2対2だからな」
「……まあ、一応は感謝しとくよ」
「そうしてくれ。楽しい祭りにしようぜ!」
事情は分かった。あとはグループの雰囲気を壊さないように美乃梨や牧瀬との距離感をどうするべきか……。
そんな思索を巡らせているうちに、祭りの担当者がやって来た。
「どうも火原祭り実行委員の永田です。今日と祭り当日はよろしくお願いします」
こういう地域の催しでは珍しい、三十代前半の若い男だった。
ラフな格好で話しやすそうな雰囲気の人だ。
「「「「よろしくお願いします!」」」
「では、早速お祭りの説明に入っていきましょうか」
それから永田さんは祭りの概要を話し出した。
どういう歴史があって、何のための祭りなのか。
開催日時、注目度、訪れる人数、など色々なことを聞いた。
「では、何か質問はありますか?」
「お祭りのことは分かりましたが、私たちは具体的に何をすればいいですか?」
質問を飛ばしたのは牧瀬だ。
ピンとした姿勢で行儀よく、通る声が場に響いた。
「ん~そうだね。当日は人手が足りないところを手伝ってもらおうと思ったんだけど、折角だし、今日から仕事をやってもらおうかな?」
牧瀬が質問をしたからか、やる気がある風に見えてしまったのだろう。永田さんは考え始めてしまった。
「……じゃあ、宣伝動画の撮影でもやってもらおうかな」
「宣伝動画……祭りの魅力を私たちがPRする動画ってことですか?」
「そういうことになるね」
そして永田さんは動画撮影の詳細を話し始めた。
「さっき話したと思うけど、火原祭りは最近、来場者数がめっきり減っていてね。それを打開するための施策を考えていたんだ」
「それが、動画でのPRということですか?」
美乃梨が更に聞いた。
確かに別に動画じゃなくても良いと思うし、そもそもそれを僕たちが撮る必要性があるか、とも思う。
「折角若い子たちが来てくれたから、若い世代にアピールできるような方法でも良いかなって思ったんだ」
まるで今、決めたみたいな言い方だ。
「多分、面倒くさいよね。分かるよ。けど、ボクも上から新しい風を! とか言われて困ってたんだ。だから、新しいことをやっているように見せなくちゃいけないんだよ……協力してくれないかな?」
申し訳なさそうに大人が高校生に頼んでいる。
そもそも、学校からは現場の人に従うようにと言われているから、逆らうことなんてできない。
「……分かりました。他の皆も大丈夫?」
牧瀬がその場にいる僕たちに目配せした。
僕に関しては睨んでいるかのような鋭い視線だった。余計なことを言うんじゃねえぞ、と釘を刺したいのだろう。
「大丈夫です。頑張ります」
「このお祭り成功させましょう!」
「良い動画の取り方なら心得てます」
それぞれが永田さんに気を遣いながら、了承した。
「じゃあ、皆よろしくね。具体的な動画の詳細はまた後で送るから。よろしくお願いします!」
「「「「はい!」」」」
誰しも内心面倒と思っているに違いない奉仕活動が始まった。
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