第4話 マークⅡの一撃
拘束から解放されて何とか家に帰って来た。
意識を刈り取られるために食らった手刀のせいで首筋に痛みが残っている。
しかしまさか転校生の方の水野美乃梨がロボットだったとは……。
ごそごそと押し入れを漁って昔使っていた古いスマホを取り出す。
美乃梨と付き合っていた頃に撮った写真を見返したくなったからだ。
今の美乃梨と、かつての美乃梨。どっちが可愛いのかを見比べたくなったとか、そんな下らない理由ではない。いや、完全にそうじゃないと言ったら嘘になるけど。
美乃梨の身代わりでマークⅡが作られた。
だけど、どうしてあそこまで容姿が異なっているのか。
現在の美乃梨が過去の延長線上にいる。
スワイプして彼女が写っている写真を見るたびに、やはりそう思う。
彼女の祖父が金髪碧眼の外国人らしく、美乃梨も綺麗な金髪をしている。
中学の時の口うるさい生徒指導の先生だって、黙らせられると自信を持って言えるくらいには美しいだろう。
身長も高くスラっとしていてモデルみたいな体系をしていた。
それだけの恵まれた容姿を持っておきながら、わざわざ自分とあまりにも乖離したロボットを作る意味。
頭の良い美乃梨のことだ。
現実なんて、所詮はゲームのようだと思っているのかもしれない。
好きなキャラをメイクしているのと似たような感覚なのかも。
天才ではない自分には考えても分からない。
最もガワなんかより気になっていることはあるのだが……。
そもそもどうして、マークⅡを作りだしたのか?
こっちはどこかで聞く必要があると思って、スマホのメモ帳に書き込んでおいた。
◆ ◆ ◆
翌日、いつものように気だるげな暑さの中で、教室にある自分の机に伏せる。
転校生の美乃梨の正体がロボットだと分かっていても、視線が向かってしまう。
でも、それはもう彼女のことが気になるからではなくて……。
「よっ! 壮馬。なんか今日の目線は気持ち悪くないな。驚きだぜ……もしかして、なんかあった?」
無駄に胸元を開けて下に着ている派手なTシャツを見せつける手貝。
人のことをよく見ているのか、勘が鋭いのか。
いや、ただ単に女子を変な目で見ることに詳しいだけなのか……。
分かりやすい反応を見せたら、今度こそ美乃梨に記憶を消されるので、とりあえずは平静を装う。
「いや、特に。というか、手貝みたいに告白しに行ったりしないから、何も起こらないよ。寧ろ、積極的に何かを起こそうとする方が気持ち悪いだろ」
「無駄に饒舌じゃん!」
うるせーよ。
そこを突っ込むな。
実際のところ、本当に暇が無くても美乃梨のことばかりを見ていた。
ほんのちょっとしたことでいつボロが出てもおかしくないからだ。
とりあえず午前の授業は平然と進んで行くかと思われた。
だけど、世の中には意地の悪い教師がいる。
それが午前最後の授業の担当である、数Ⅰの教師だった。
「水野さん、この問題を前に出て解いてみてください」
美乃梨が転校生なのを良い事に、前学期の復習として難問をぶつけて来たのだ。
「はい。分かりました」
特に動揺することなく、美乃梨は席を立って黒板の前に立った。
どれだけ彼女が大天才か知っている身からすれば、この程度(自分で解くのは無理)の問題を解けないはずがないのだ。
しかし、チョークを黒板に当てた時だった。
彼女の目の前でチョークが爆散して、白い粉が舞った。
皆が唖然とそちらに注目している。
それを見て、以前手貝が言っていたことを思い出した。
『筆圧が強いと、チョークって折れるよな』
思い出したは良いが、特に役に立つものではなかった。
もっと客観的に状況を見るのなら、マークⅡの操作をミスして、チョークを握りつぶしてしまったと見るべきだ。
そして、どうしたら良いか、マークⅡのカメラの向こうで固まっているだろう美乃梨に向けてメッセージを送信する。
「すいません。先生、口頭で答えてもよろしいですか?」
「え、ああ、うん。どうぞ」
どうやら教師の方からはチョークを粉砕した様子が良く見えていたようで、美乃梨にはいつものような嫌味を言うことができなくなっていた。
それからスラスラと途中式と答えを唱えた。
「せ、正解だ」
美乃梨は手を払ってから席へと戻っていった。
◆ ◆ ◆
授業が終わると美乃梨の周りには女子生徒が集まっていた。
弁当を食べるふりをしながら、その会話を盗み聞く。
自分で思うのもアレだが、美乃梨が転校してきてから、ちょっと気持ち悪い方向のことをしすぎかもしれない……。
「あのクソキモ数学教師を黙らせたのは凄いカッコよかった! 水野さん」
そうやって美乃梨(マークⅡ)のことを褒めているのは、牧瀬香蓮。
活発な印象を受けるショートヘアーがトレードマークのクラスの女子だ。確か、一番初めに美乃梨に話しかけに行っていたのも彼女だったか。
他の女子も続いて美乃梨のことを褒め出した。
「うん。回答をスラスラ言ってるときのアイツの表情と言ったらさ」
「あの数学教師。わざと答えられそうな問題を当てたりするからねー」
とか、美乃梨褒めと数学教師の愚痴を中心に回っているようだった。
そんな折、牧瀬が動いた。
「ねえ、水野さん。もし良かったら私たちと一緒にお昼食べない?」
「ええ、是非! 一緒に食べましょう」
その時の美乃梨の表情は作られた笑顔だと感じた。
マークⅡ自体が作り物の笑顔しかできないけど、それでも本当の美乃梨の笑顔を知っている僕からすれば、ただの反応でしかなかった。
でも、嬉しくないわけではないのだろう。
だって、僕のメッセージアプリに『計画通り』との通知が届いているからだ。
誰かと一緒に昼食を取りたかったのはあるんだろうな。
牧瀬に連れられて美乃梨は席を移動した。
そして、空席になっているクラスの女子の椅子に座ったとき。
椅子の足が折れたのだ。
盛大な音を立てて、美乃梨が倒れ込み、そのまま机も真っ二つに破壊した。
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