第8話 経過報告
正暦10503年7月13日深夜0時。
まずは無事に転生できたことを喜ぶべきなのだろう。
しかし、そんな感情に浸っている場合ではない。問題はここからだ。
俺の取得した魔法は《
初めての転生し直しなため、神陸に戻れるか不安だったのが影響しているのだろう。
《記憶飛び》は一度行った場所に瞬間移動できる魔法だ。触れた者も一緒に移動することができる。
この世界に転生した者は必ず、一つの固有魔法を手に入れる。
その魔法はその者の欲や願望が形になったものである。
だが、この神陸で生まれた者は最初から固有魔法を持っている者はおらず、転生者特有の権利と言える。 そして、一般にこれは魔法と省略して呼ばれる。
神陸には魔力がある。
これはこの世界に最初からあった概念である。魔力を使って魔法を発動することができる。また、魔力は消費しても自然と回復する。
神陸生まれの者が魔力を使ってできることは、魔力を特定の物体に注いだり魔力塊を生み出して放出したりすることが挙げられる。その用途は様々で戦闘でも使えるが、一般的には生活用品に対して使用するものだ。
とはいえ、最大魔力量には個人差があるので、やはり地球と同じく電気等のエネルギーは必要不可欠だ。
神陸には魔力が満ちている。それは普段は目に見えないが、彼らに恵みを与えている。それは発展でもあり時には滅びでもあった。
《記憶飛び》。
灰色をした壁の前にいた。懐かしい。鉄製の扉を開ける。
「ただいま戻りました」
「え、洸汰君? 戻って来れたんですね!」
そこには一人の研究員がいた。
歴史的快挙を知り、俺の手を握り上下にブンブン振り回す。
「すごい! 本当にすごいことですよ! 是非所長にお伝えしなくては!」
「父様はどこですか?」
俺は悠揚に尋ねる。内心早く報告したくてうずうずしている。
「第一研究室にいらっしゃいます!」
「ありがとうございます。それでは」
歩いて第一研究室に向かう。その足取りは軽やかだった。
本来は来年の転生を予定していたものの、初の成功者だ。胸を張っていいはず。
扉をノックする。
「父様! いらっしゃいますか。洸汰です!」
少しすると扉が開いた。俺からすると三か月ぶりの再会だが、父様からすると三年ぶりである。
地球における時間の流れと神陸のそれは異なっており、神陸の一年は地球の一か月である。
「久しぶりだな、洸汰」
父様はパソコンに向き合う手を止めて立ち上がる。
「申し訳ありません。予定通りにはできませんでした」
「謝罪よりもまずは、状況を確認したい。具体的にはどうなっている?」
父様の顔の険しさは三年前と比べても変化はないが、口調はゆったりとしている。
蓄えた顎髭の貫禄は増したように思える。
「雨川奏時から話題に上がっていた人物である相原真人を私が殺害しました。雨川思恩と神前奏は予定通り来年に転生してくるように誘導しました。あとは、相原の取り巻きの中田泰助と和田憲示についてですが、彼らは死ぬかどうかは不透明です」
「雨川思恩の転生は何月だ?」
「おそらく、五月になるかと。ただ、転生してくると断言はできません」
「それはもちろん承知の上だ。どのような策を講じたんだ?」
「相原たちにいじめさせることで苦しめました」
父様は渋い表情を見せる。俺自身もっとやりようはあったと思っている。
「和田とは誰だ? そんな人物、雨川奏時からは出ていなかったが」
「私もその点はよく分かっていません」
「そういうところもきちんとしてくれないと困るんだが」
「すみません」
「でも上出来だ。とりあえずお前には相原真人と思われる人物が転生してきているから向かってもらいたい」
「はい、尽力します。それと父様」
「どうした?」
「新たな魔法を得ました」
「そうか! やはりか。何を得た?」
父様の目の色が輝き出す。無邪気な子どものような弾んだトーン。
「《記憶飛び》です」
「なるほどなるほど。だからここに来れたのか」
本来であれば《記憶飛び》を得られる予定はなかったので、電話での再会を予定していたのだ。
「はい、捜索にはぴったりです。それから、魔力量が増大しています」
「ほう。それは興味深いな。どの程度だ」
「およそ倍くらいかと」
「つまり《
「そうなりますね」
父様は嬉々とした表情を見せた。
俺はその事実の重さに気が引き締まる思いだった。
「それは素晴らしい。では相原真人を見つけた場合には《魅了》をかけなさい」
「分かりました」
それから俺は今後の任務についての説明を受けた。
「今後の活動にも期待しているぞ」
父様は俺の肩に手を置きそう言った。
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