第17話 上下関係
正暦10504年5月17日早朝。
相原真人は上田洸汰の指示通りに動いていた。
まずは《
日が昇る中、真人は稼働する。辺りでは地球では見たことのない野獣が動き始めている。
(夢見想を見つけた場合は拘束しろ。ただし、乱暴なことはするな)
真人は全ては上田洸汰のためと動く。
真人は保護隊員の一員であるため、三人が確認された場所については伝えられていた。連絡のあった場所にはもうおらず、少し手間がかかった。
《記憶飛び》《記憶飛び》《記憶飛び》《記憶飛び》《記憶飛び》。
真人がまず見つけたのは泰助だった。
「泰助!」
「真人!?」
「よかった! 泰助いんじゃんやっぱし」
「え? まじで真人じゃん? どゆこと?」
泰助は大袈裟なくらいに喫驚してみせた。
「とりあえず来い!」
「おお、おう」
泰助は流されるままに真人に腕を掴まれる。
《記憶飛び》。二人は一瞬にして真人が拠点とする小屋に到着した。
《
「いやー、久しぶりだなー、泰助」
「まず説明してくれよ! 今これどういう状況?」
泰助は辺りを見回し困惑の色を隠せないでいる。
「まああれよ、異世界転生」
「まじか! やべーな!」
「だろ?」
「俺死んで人生詰んだと思ったけど、これ逆に神展開じゃん」
泰助は喜びを全面に出す。
真人は段ボールの箱を開ける。
「腹減ってねーか?」
「見たことない料理的な?」
「そんな異世界売店的なものはねーよ」
「なんだよ、つまんね」
「ほい、焼きそばパン」
「うっわ、ふっつー! 異世界とは?」
泰助はそうツッコミつつも笑っている。
「あっは、それなー」
二人はパンを頬張りながら話を続ける。
「今まで何してたん?」
「なんつーかいろいろ。とりあえず、洸汰の魔法奪ってやった」
「おえ! 洸汰もいんのかよ!? 魔法って、エクスプロージョンとか?」
洸汰の存在に嫌悪感を示しつつもそれ以上に魔法という言葉に釘付けになる。
「《記憶飛び》ってやつ。さっき使っただろ? 瞬間移動! 一回行った場所にいつでも行けるやつ」
「それチートじゃん! えぐぅ」
「でも魔法奪うやつの方がえぐいぞ。俺が元々、持ってたやつ。《能力奪取》。お前の魔法は?」
真人は自慢げに言い放つ。
「え? それどうやって分かんの?」
「魔法はあるやつとないやつがいるからなぁ。分かんないってことはないってこと」
「がーん。さいーあく」
「はっはー! どんまい」
しょげて肩を落とす泰助を真人はケラケラと笑い飛ばす。
「まじかよーまじかよー。せっかくの異世界転生なのにちくしょーー」
「まあ俺と一緒にいたら楽しくさせてやるから安心しろ」
「あーはいはい。まあいいけどよ、それなら。とりま眠いから寝ていいか?」
「じゃあ俺はまた出かけるから」
「どこに?」
「ちょっくら金を取りにな」
「なにそれやば。いってらー」
「おう」
真人が姿を消す。
「けっ! 奪われたか。はぁ……。俺はこれでいいのかよ」
泰助は自身の弱さに自問自答する。彼は支配された身だ。
◆
《記憶飛び》。洸汰と約束していた場所に約束の時間に飛んだ。
そこにはすでに洸汰がいた。
「どこまでいった?」
「泰助は見つけました。和田と夢見想はまだです」
「そうか。魔法は?」
「奪いました。《
「悪くないな。俺の指示がない限りそれは使うなよ? いいな?」
「分かりました」
「あ、あと言い忘れてたが、実行予定時刻が決まった」
◆
《記憶飛び》。
「泰助、もう寝てるか?」
「真人、話がある」
「どうした急に真面目な顔して?」
「洸汰はどうした」
「洸汰は知らねーよ。どっかいった」
真人は雑にあしらう。
「あいつはお前を殺したんだぞ? 分かってんのか?」
「そりゃむかついたよ! だから魔法を奪ってやったんだ」
「もっとあいつのこといたぶってやろうぜ」
拳をもう一方の手に叩きつけ泰助は気合いを入れる。
「もうあいつに興味はない」
「洸汰が怖いのか? あいつに殺されたからか?」
「違うって! 知ってるだろ? 俺は飽き性なんだ。もうあいつには飽きた。俺だって最初はあいつをいたぶったけど、反応が薄くてつまんなかっただけ」
真人はお金の金額を数えている。
「本当だな?」
「くどいぞ」
「わるい」
中田泰助は納得していなかった。洸汰が許せなかった。
彼は地球での生活にある程度満足していた。
テニスでは真人とともに優秀な成績を修め、おもちゃもいつも用意されていた。
それを洸汰が破壊した。
彼の魔法は《記憶消去》だった。
それはばれたくない過去があったから。彼はどうしてもそれをなかったことにしないといけなかった。
◆
正暦10504年5月18日早朝。
相原真人の次の任務は夢見想の捜索である。和田は最悪必要ない。3日後の計画に向けてはあまり猶予がない。
「真人早いな。どっか行くん?」
「朝飯買って来る」
「俺も行っていい?」
泰助はできるだけ彼とともにいる必要がある。
「いや、二人で行くとその分魔力消費がでかくなるから泰助は待ってて」
「分かった……」
しかし反感を買うわけにもいかない。
「リクエストある?」
「焼きそばパン以外ならなんでも」
《記憶飛び》。
真人は数分で帰ってくる。
「ただいま。ほい、カレーパン!」
「俺最後の飯、朝カレーだったんだけど」
「文句言うなよ。焼きそばパンじゃねえんだから」
その返事を聞く間もなく泰助は袋を開け頬張る。
「いつも何してんの?」
「今はいろんなとこ行って《記憶飛び》で行ける場所を増やしてる。まじでやることないから泰助が来てくれて良かったわ」
「意外と異世界つっても物語みたいにはいかねーのな」
「所詮、現実だからな」
「いじめ相手はいねーの?」
「いねーな」
真人はさも瑣末な事柄と言わんばかりに静穏に呟く。
「つまんね」
泰助は頬杖をついて嘆息の混じる返事をする。
「テニスコートは?」
「ない」
「じゃあ作ろうぜ。めんどいけどさ。ラケットとか売ってる?」
「あー、まあ、あるんじゃね? 文化は日本だし」
「一緒に行こうや」
「俺は行くとこあっから、一人で行ってくれ」
泰助の提案に真人は興味を示さない。
真人は食べ終わった袋をくしゃくしゃに丸め床に捨てる。
「やることあんのかよ。何しに行くん?」
「奏時を探す」
「は? 奏時? いんの?」
「この島にいる」
「まじか。ていうかここ島なのか」
「言ってなかったな。帰ったらいろいろ教えるから」
「頼むわ」
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