第18話 回収完了

記憶飛きおくとび》《記憶飛び》《記憶飛び》《記憶飛び》《記憶飛び》。


 いない。


《記憶飛び》《記憶飛び》《記憶飛び》《記憶飛び》《記憶飛び》。




 回数なんてもう忘れてしまった頃に相原真人は夢見想の姿を見た。


 彼女は森林地帯の中にいた。どおりで簡単に見つからないわけである。

 真人は拘束するための手錠を買ってきていた。


 あとは彼女を捕まえて魔法を奪って従えさせるだけである。


 真人は音を立てずに行きたかったが、草木が野ざらしになっているため、どうしても気付かれずに捕らえるのは無理だった。


「誰?」

「よう」

 真人は白い歯を見せる。


「相原くん……?」

 想はその姿を見て怯えた様子で退く。


「そうそう。ちょっとこい。乱暴はしない」

「いや」


 夢見想は逃げ出す。

 彼女は相原真人が雨川思恩をいじめていたことを知っている。


「おい待て!」

 夢見想は吹奏楽部だが、決して足は遅くない。

 しかし、真人はテニス部のエースコンビの一人だ。

 しかも、この走りにくい中を四足歩行で駆け回ってきた経験を持っている。あまりにも分が悪い勝負だった。あっという間に追い付かれる。


「ふん。面倒かけやがって」

 真人は夢見想の肩を掴む。


能力奪取のうりょくだっしゅ》。


「へー」

「放して!」

 振り払おうにも真人の握力が強い。


「可愛いからって俺がやっぱやーめたってなるとでも?」

 真人は夢見想を後ろから押し倒し、腕を背中に持ってこさせる。あとは手錠をかけるだけだった。もう夢見想に手段はない。


《記憶飛び》。


「おせーぞ、真人。って夢見じゃん!?」

「え? え……?」


 夢見想は目の前の景色が変わったことと泰助がそこにいることに戸惑いを隠せないでいた。

 泰助はそれを見てしたり顔に変わる。


「しかも、手錠? いいねぇ。俺、可愛い子もいじめてみたかったんだよ」

「いじめはしない。少なくとも、今はな」

 真人がきっぱりと言う。


「は、なんで? 面白そうじゃん! てか手錠してる時点で説得力皆無やん」

 泰助は納得がいかないといった様子で詰め寄る。


 真人はそれを手で制止する。


「なんで?」

「今日からこいつが俺の彼女だから」

 真人がニヤリと笑う。想はそれを聞いて震え上がる。


「は? ちょ? は? まじかよ!? 浮気じゃん!?」

「浮気じゃねーよ! 俺今彼女いないし」


 真人には前世で恋人がいた。そのことを当然泰助は知っている。


「はーあ、つまんね」

 泰助は言っていることと真逆の顔で、つい笑いが出てしまう。


「なに笑ってんだよ」

「いや別に? 夢見は嫌がってそうだし、ざまあと思っただけ」


「とにかく手出すなよ?」

「はいはい」


 夢見想はこの間、無言だった。


「あとは和田だけだな」

「和田も死んでたのか」


 泰助は記憶を遡るが、痛みしか思い出せない。


「ちげーの?」

「いや、死んでるだろうよ。あいつも探すの?」


「一応な」

 真人と泰助にとってさほど重要ではない人物である和田の話をする。


すると──。

「もしかしてその声は」

 小屋の扉の前で話していた二人と夢見を見つけ、和田が寄ってきて二人の背中をポンと叩く。


《能力奪取》。


 一瞬の隙も与えなかった。真人は常に周囲を警戒していた。


「おっ、噂をすれば!」

「ちょーどいいところに来たな」


「俺がどうしたの?」

「いやお前を探そうとしてたところでさ」

「え? まじ?」


「和田は魔法持ってんの?」

「魔法?」


「俺は持ってなかったから持ってたらぶち殺そうかなって」

 ククッと強かに笑う泰助に和田はたじろぐ。


「持ってはいるけど……」


 続く言葉を遮るように、真人が泰助に顔を見られないように和田の方を向きつつ、顔に殺すという文字を書いて無言で脅迫する。


「けど、なんだよ?」

「使い方がよく分かんなくて」


「じゃあ俺にくれよ」

 真人がフラットに頼む。


「い、いいよ、いらないし」

「じゃあ、ありがたく。《能力奪取》!」


 真人はさも今初めてやって見せるかのように口に出す。


 これ以上得るものは何もないというのに。そして準備の仕上げをする。


「二人とも手を貸してくれ」

「おう、何すんの?」


「お楽しみの時間だ」




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