第19話 両者したり顔

「所長! 新たな情報が届いています。中田泰助と夢見想が相原真人に合流したとのことです」


「魔法は?」

「中田が《記憶消去きおくしょうきょ》、夢見は《回復かいふく》です。その両方を相原真人が《能力奪取のうりょくだっしゅ》によって所有しています」


「それで、洸汰はどんな計画を?」

「相原・中田・夢見の三人で雨川奏時の解放をするように相原へと命令を下したとのことです。また、上田・雨川思恩・神前も同日に向かうとのことです」


「施設の警備の撤退の手筈はしているな?」

「もちろんです」


「具体的な計画は?」

「基本線としては相原たちにやらせる予定で、責任は押し付けられると思います。そして、雨川奏時には相原の《能力奪取》を《所有権しょゆうけん》によって奪わせます。それをさらに雨川思恩に移行することで予定通り雨川奏時は我々の管理化に置かれることになります」


 法律の改正がなされたとはいえ、いちゃもんをつけられて洸汰が捕まることはできれば避けたかった。


「《記憶消去》があるなら相原の記憶は消去させるように指示してあるか?」

「はい。その件について上田も言っていました。相原のこちらでの記憶は雨川奏時解放後に消去するように命令してあるとのことです。そして、それと同時に《魅了みりょう》を解除すると伝えられています」


「分かった。それでよい。下がれ」

「はい」


 所長の豆田啓吾は恋焦がれた時を待つ。


「楽しみだ。反乱の時が。公人たちの逆襲が」



 ◆



「一応、お前たちにも情報を共有したい」


 所長──谷川原の前には三人の第二研究所幹部が横一列に座り向き合っている。


「あの子は大丈夫そうですか?」

 谷川原から見て一番左の年配の女、米澤が尋ねる。


「まあ問題ない」

 谷川原は周辺に細心の注意を払いながら返答する。


「《感覚共有かんかくきょうゆう》ってどのような感覚なんですか?」

 谷川原と同い年で親友と言ってよい細身で丸メガネが特徴の金田が真ん中に座っている。その口調はいつも敬語であり、谷川原に対しても同じだった。


「中学生という多感な時期の声がよー聞こえてくる。若いっていいよな」


「金田さん、そんな話をしている場合では……」

 生真面目をそのまま顔にしたような船堀が金田のブレーキ役だ。


「本題に入ろう。今の進捗はどうやら順調のようだ。このままいけば第一研究所は崩壊する。相原真人たちのケアは米澤に任せる」

「承知しました」


「最後の仕上げは私がする。そのあとの雨川奏時の保護については金田と船堀。頼んだぞ」

「もちろんです」

「尽力します」


「政府は本当に信頼していいのですか?」

 船堀が最大の懸念について尋ねる。


「心配はいらん。政府にも多大なメリットがあるからな。地球はいずれ我々のものだ。それよりも、不測の事態になった時が問題だ。もしものためにお前たちにはしばらく私の側についてほしい。ブレーンはいくらあっても困らんからな」


「微力ながら務めさせて頂きます」

「私でよければ」

「光栄な限りです」


「心強いものだ。今のうちに踊っていろ、第一の虫けらども」




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