第28話 野犬駆除
第一研究所の所長、
雨川奏時が行方不明。夢見想が第二次転生者もしくはそれ以上の存在の可能性。加えて第二が絡んでいる可能性。
対処すべき課題が多すぎる。政府はもう信頼できない。第二が政府と結託している可能性が高いからだ。計画の一部が第二にも流れていると考えた方がいい。
だが公人解放計画についてはバレていないはずだ。まだ逆転できる。
夢見想については《
夢見想が第二所属の人間だとしたら山吹島に拠点を持たない第二と連絡を取れる手段を持っていてもおかしくない。例えば《
洸汰の最大魔力量が倍増しているのが洸汰特有のものでなかった場合、もうこの先の選択肢は決まっている。やらせるしかない。
洸汰を使って雨川奏時を《魅了》し操る。
政府を脅し新たな国家の建設を成立させる。
今しなければ、我々は捕まってあとは死ぬのを待つだけだ。
動けば未来は変えられるはずだ。
「ただちに伝えろ! 雨川奏時を探せ!」
◆
雨川奏時は戦っていた。自分の中で自分以外の存在と。
自分を失いたくなかった。
僕がやりたいのは蹂躙じゃない。この苦しみからの解放だ。
「誰から魔法を奪おうか」
もういい。これ以上はダメだ!
まだ自分はいる。
精神力ではまだ勝っていた。
「神陸を俺のものにするんだ」
そうはさせない。
早く。早く誰か見つけないと。
僕を殺せるだけの存在を。
◆
豆田に言われずとも洸汰は決断していた。
時間との勝負になる。俺が雨川奏時を見つけるのが先か、政府に捕まるのが先か。奏時さえ見つけられればこちらのものだ。
今改めて真人が支部に行って指示を仰いでいるところだ。
大丈夫。奏時は俺に触れないと《
それに対して俺は目を合わせられさえすれば《魅了》できる。奏時は俺の魔法を知らない。こちらの方が有利だ。
とにかく気を抜かないことだ。
真人が帰って来た。
「行くぞ! 奏時を探す! あいつの魔法を俺が全て奪ってやる」
やはり俺の予想通りの指示だったようだ。特別な指示があった場合は手を握った状態で話すように命令してある。真人はそれをしていなかったからそういうことだ。
真人は山吹支部で魔力回復薬である魔力瓶を支給されたことにより魔力量は回復していた。
泰助と和田は放置することになった。
理由は魔力がもったいないことと、信頼できない俺を真人が監視しておくためということにしている。
俺に対して泰助は相変わらずの仏頂面だったが、そんな適当な理由でも真人が言えば一応は納得してくれた。真人の言うことを泰助は否定しない。
《
「いた!」
奏時だ。特に魔法は使っていなかった。
魔力が尽きているのか、温存しているのか。
奏時が使える魔法は九つ。《所有権》《
奏時は元から異常に最大魔力量が多い。一度目の転生にも関わらずだ。
もし、奏時が魔力を十分に持っているならば、どの魔法も使えるはずだが。
奏時は真人を見ている。
ゆっくりとこちらに向かってくる。
真人に触れられる前に奏時の注意を引く必要があった。
その前に真人へ。
(《
そして真人への《魅了》解除。
「奏時くん!」
俺は大声をあげる。
奏時が俺を見る。
《魅了》。
しっかりと三秒間目を合わせる。
勝った!
間違いなく俺と目が合った。そして、間違いなく魔法は発動した。
命令を送る。
(俺の指示に従え! お前が過去に真人に従っていたように)
あとはもう奏時を父様の所に連れていくだけだ。
俺は真人とはおさらばだ。
(魔力があるなら《半透明》を使え。使えないならそのままでいい)
奏時は《半透明》を使わなかった。つまり、今奏時は魔力がほとんどないということだ。それは《所有権》を使えないことも意味する。
出来れば真人の《
真人も何度も《記憶飛び》をしてたった今、《記憶消去》も使用したことで《能力奪取》を使うことはできないのでさほど問題はないが。
(真人は今、《能力奪取》《記憶消去》《回復》《記憶飛び》《容姿変化》を持っている)
奏時に情報を提供する。特に反応を示さないのはありがたいが不安になる。
奏時は賢いから俺が《魅了》を使えることを怪しまれないようにしているのだろう。色々察してくれているのだ。
奏時は口を開く。
「真人また会ったね」
記憶を失った真人の反応は──。
「かっ、奏時!? ここは?」
奇妙な空気が流れる。
「なんで洸汰も!?」
自身を殺した張本人とすでに死んだはずの人間が目の前にいるのだから当然だ。
「ここはどこなんだ?」
「真人、ここは神陸だ」
「し、しんりく……? 意味が分かんねえ。俺は死んだのか……?」
「俺が殺した」
俺は空気を切り裂くように容赦なく事実を叩きつける。
あたふたしていた真人の目が鋭くなる。俺に詰め寄る。
俺は見下す目を変えない。
「てんめえ! 何様だよ!」
「申し訳ないね」
「お前えええ! ぶっ殺す!」
真人のグーパンチが俺に襲いかかってくる。俺は顔の前に魔力塊を形成してそれを受け止める。
「くっ」
真人が痛みに顔を歪める。
「どうなってんだ、ちくしょう!」
バカだ。再びの右ストレート。
俺はまた同じように防ぐ。
あまりにも情けないからか奏時が後ろから真人の背中に一発魔力塊を食らわせる。
倒れ込む真人を俺はかわしてその背中を踏みつける。
「ぜってえ後悔させてやる」
地に手をつけて立ち上がろうとするので俺も一発叩き込む。
真人の動きが止まる。どうやら気絶したようだ。
「このままにしておくのも危ないな」
そのため真人はロープで木に縛り付けておいた。
《記憶飛び》を使える時点で大して役に立たないかもしれないが、《記憶消去》で《記憶飛び》を使えることに気づかないかもしれない。
そして俺は奏時と第一研究所山吹支部へと向かった。
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