第27話 罪の意識
正暦10504年5月21日午後7時50分。
予想外の事態がくるのはありえる話だった。
しかし、雨川奏時が解放を拒否するのはその範疇ではなかった。
上田洸汰に思い通りに歩かせていた。
やつらは順調にことを運んでいたはずだ。
その計算は狂った。雨川奏時が予備の計画まで破綻させた。
このままでは何も起こらず終わってしまう。
そうすると第一を潰すことはできない。むしろ第一の戦力が強化されてしまう恐れがある。
やつらが上手くいけば我々の勝ち、やつらが失敗すれば我々の負けだ。
あいつらの多少のミスは我々が修正すればいいと思っていた。しかし、どうしようもなかった。
雨川奏時はなぜ拒否した?
出たいと思わせるだけの策を講じたつもりだったが足りなかったか。
所内の者たちは私の話にざわめいたが、今は落ち着いている。
私は次の手を出さないといけない。
その頃地球にいるもう一人の自分が
私のもとに彼女の策略が届いていた。
これを利用しない手はない。
「
彼女にもう一仕事してもらおう。まだ修正できる。
「かしこまりました」
「秘密兵器の登場ですね」
「面倒なことになりそうですけど」
にこやかに笑う金田に船堀は危機感を露にする。
「心配ない。どうにでもなる」
◆
雨川奏時が雑木林の中を歩いている。
誰にも見つからないように《
残っていた魔力で使える魔法はこれしかなかった。
もっと、魔力瓶を用意してくれよ。
あくまでも、俺を弱っている状態で連れ出そうという魂胆だろうが、政府の言いなりになるつもりはない。俺は俺の人生を生きる。そのために必要なことをするだけだ。
この世の全ての魔法を習得する。それが目標達成の鍵となると信じている。
そう、この世界は我が物となるのだ。
◆
夢見さんと合流し、俺たちは小屋を探し歩く。上田とは合流できていない。
もし真人たちに出くわしても上田はきっと夢見さんがいないことを知ればすぐに逃げるだろう。上田を信じよう。俺たちは俺たちにできることをするしかない。
真っ暗闇の中で少し遠くの小屋に行こうという話になった。
ひとまず、夢見さんを真人たちから離れたところにいさせてあげたかった。
無事に辿り着いた後、神前さんと夢見さんが風呂に入っている間、俺は近くに上田がいないか探したがいなかった。黄色く燃えている場所も見当たらなかった。
戻ると夢見さんと神前さんのパジャマ姿がそこにはあった。めちゃくちゃ可愛い。
いや、その前に。
「夢見さん、本当にごめんなさい」
これは魔法の言葉ではない。俺の本心だ。
「えっと、何のこと?」
「え……?」
「え?」
沈黙の間。
夢見さんは可憐な顔を少し傾けている。
「本当に分かってないの?」
神前さんが尋ねてくれた。
「謝られることはなにも……」
「どういうこと?」
全員の頭の上に?マークが出ている。
あれは記憶違いなどではないはずだ。
俺は勇気を出して話を切り出す。
「夢見さんを殺したのは俺なんだ」
「私を殺した?」
「うん。もちろん故意ではないよ? ただ俺が殺人犯なのは事実で。俺は人を殺してる。俺が泰助を殺そうとした時に、その、夢見さんが俺と泰助の間に来てて、俺はナイフを振りかざしてたからその勢いのまま……。謝ってすむわけないけど、ごめんなさい。夢見さんの命を奪ってしまって。許してもらうつもりもないし。ほんとにごめんなさいしかないというか」
俺は怖くて下を向いてずっと話してしまっていた。
それはまずいと思い、恐る恐る夢見さんの顔を見ると目が合った。神妙な面持ちだったが、怒っている様子ではなかった。
「私ね、辛かったの。雨川くんが苦しんでるの。私にも罪があると思ってる」
「そんなことないよ! 俺は夢見さんがその、支えというか。いや、きもいよね」
「きもーい」
神前さんがにやつきながらツッコミを入れる。
「私はそんなふうに思ってないよ。あれは私の自己満足というか、罪滅ぼしでやってたの。こちらこそ、ごめんなさい」
夢見さんが頭を下げる。思いもよらぬ反応にどう返していいか分からなかった。
「頭上げて。俺なんかによくないよ」
「よくなくないよ。見て見ぬふりをしててごめんなさい」
「いいんだよ。誰にも相原たちは止められないし、あいつら以外誰も悪くないよ」
「二人ってカップル?」
神前さんは空気を読んでくれない。
「えっ、いやあ」
「違うよ。俺が告白して振られただけ」
俺はきっぱりと事実を伝える。
「そうなんだ。付き合ってるのかと思っちゃった」
「……」
夢見さんはどう対応していいか分からないようだ。
「じゃあ夢見さん彼氏は?」
「いっ、いないよ」
夢見さんは慌てて否定している。
「えー! こんなに可愛いのにもったいない。でも、モテるでしょ?」
「そんなことは」
「いやモテる! 私の目はごまかせないよ?」
「いや、ほんとに……」
Sな神前さんが夢見さんを襲う。
「じゃあ本題ね。夢見さんは何者?」
「ど、どういうこと……?」
狼狽える夢見さん。
「夢見さんは魔法を持っていたんだよね? 《
「縄で縛られて、その……」
夢見さんが神前さんの耳にひそひそと伝える。顔が赤い。
「あー、はいはい、死刑確定」
淡々とした口調だったが神前さんはぶちぎれそうな顔をしている。俺はあまり考えないようにする。
「そこから覚えてないわけね」
「うん」
「もしかして二つ魔法を持ってたりするの?」
「うーんと、よく分かんなくて」
神前さんは顎に手を当てて少しの間、考え込む。
「そっか。了解。今日はひとまず寝よっか。明日は上田と合流しなきゃだし。思恩くんは奥の部屋ね。私たちは手前の使うから」
「うん」
「それじゃあ、寝よ、夢見さん。思恩くんおやすみー」
神前さんは強引にこの場を終わらせていった。
俺はまだ謝り足りなかったが、止める間もなく神前さんは夢見さんの手を引いて部屋に入ってしまった。取り残された俺も言われた部屋に入る。
考えることもたくさんあったが、疲れがどっと押し寄せてきて俺はベッドに寝転ぶといつの間にか眠っていた。
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