第26話 失踪

 泰助と和田を見つけるのにそこまで時間はかからなかった。


 でも、ここからが問題だ。

 どうやってこの二人を従えさせるか。


 奏時を解放するのはいつでもいいわけではない。


 出会って開口一番。

「あの時は本当にごめん!」

 俺は深々と頭を下げる。


「今さら謝られて済む話だと思ってんのか? 洸汰」

「お前があんなことしなかったら俺たちは死んでなかったんだぞ?」

 和田にも見下されるのは癪だが今は我慢するしかない。


「謝るだけじゃダメなのは分かってる。でも話を聞いてくれ」

「言ってみろよ」


「俺は神前に脅迫されたんだ。あの日俺は神前に呼び出されてその時に言われたんだ。真人を殺さないとお前を殺すって。俺は首元にナイフを向けられてて従うしかなかった。それで真人と一緒に飛び降りた」

「そんなもんやるって噓ついて神前殺せばよかっただろ!」

 泰助は今にも俺に襲いかかってきそうなくらい激昂している。


「無理だって! 俺は丸腰。神前はナイフ。俺は怖くて無理だった。本当にごめん」

 もう一度頭を下げ、視線を上にやると俺の左頬に強烈なグーパンが襲ってきた。

 俺はもろに食らう。

 右足で踏ん張る。

 顔はじんじんするが、それだけだ。


「真人にも謝れ」

「真人ごめん」


「許してやらねぇぞ。その代わり俺に従い続けろ」

「はい」

 これでいい。今はこの形でいくしかない。


「あのさ、俺を信じてもらうために言いたいことがもう一つあるんだけど……」

「何だよ?」

 泰助は俺を用心深く見下している。


「俺は真人を殺すように神前に言われたんだ。でも俺は自分も一緒に死んだ。俺は死ななくても良かったのに」

「何が言いたい?」


「つまり、俺なりに罪悪感はあったってことで……」

 苦しい。

 自分でも自覚しながら話す。


「それで信じろって? ふざけんな! なあ真人?」

 真人、変なこと言うなよ?

 俺は真人に話が振られるたびに心臓が破裂しそうだった。


「俺はもうこいつに興味はない。これからもこいつは利用するだけの存在だ」


 ──その時、突如明らかな異変が起こった。


 とてつもなく大きな魔力の動きに俺は恐れをなす。


 真人たちも一瞬何かを感じたようで少しの間ができる。


「なんだ、今の?」

 俺はその方向に思わず走り出す。

 こっちは拘束施設の方角だ。

 奏時に何かあったに違いない。


「おい、待て! 逃げんなよ!」

 泰助の叫びを無視して俺は真人に指示を送る。


(真人! 俺についてこい。奏時の所に行くぞ)


 真人も走り出し、その運動能力ですぐに俺に追い付いてくる。


 それを放っておけない泰助と和田もつられるように追いかけてくる。


 俺も運動は得意だが、真人ほどではない。

 真人は俺にあわせるように速度を調整する。


(俺のことは気にせず行け。泰助に怪しまれる)


 そう命令すると真人は泰助を呼びつけて二人で先に拘束施設へと向かっていった。


 そして、俺と和田が二人でそれを追う形になる。



 俺たちが拘束施設に着いたのは21時頃。


 警備員の姿が見えなくなっていた。


 奏時の家に着くと真人が俺たちに気付いて駆け寄る。


「奏時がいない。バリアも破壊されてる」

 解除ではなく破壊ということは、正規の方法で脱出していないことを意味する。

 誰の仕業だ?


「なあ、もうよくね? 帰ろうぜ」

 泰助は退屈そうにぼやく。真人がチラッと俺の方に視線を向ける。


(ひとまず戻って今日は休もう。探すのはその後だ)


 そうして俺たちは小屋に戻ることにした。





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