第25話 炎属性のお約束
思恩は足が遅いし体力もない。
「思恩! 行く当てはあるのか? 真人は《
「そ、そうだった」
どうやらノープランのようだ。
「ひとまず手分けして探そう」
「それだと真人たちに勝てないんじゃ?」
「思恩は《
「上田は?」
「俺一人で探す」
今は彼らと別行動したい。
「大丈夫なの?」
「ライター持ってるから見つけたら近くの木を燃やす。もし煙が上がっていたらそこに向かって! 二人が来るまで時間を稼ぐから。俺はこっちを探す! 思恩にもライター渡しておくから同じようにして! もし見つからなかったら、明日のお昼にまた拘束施設の裏に集まろう」
「ライターって、大火事じゃないの?」
「大丈夫、これは燃え広がらない魔法性のものだから。それと俺のは黄色い炎だから、その時だけ来て」
「分かった! ありがとう」
俺は真っ先に真人との合流予定地の方向へと足を向ける。
「じゃあ私たちはこっちへ! 行こう! 思恩くん!」
俺がライターを持っていたのは、ピンチの時に近くの木を燃やして真人を呼ぶためのものだった。黄色には光らない。
一つはスペアだ。走っていると、赤い炎が上がっているのが見える。
しかし真人の持つライターは赤ではなく青く光る。
どちらにせよ何かあったのは間違いない。
さらに走ること三分。俺は到着した。
赤々と燃える小屋に。
「真人がいない? 真人! 緊急集合先に来い!」
命令を送る。
口に出す必要はなかったが、自然と声に出ていた。
「くそっ! どういうことだ?」
あたりを捜索するが人影は見えない。
少しすると猛スピードで真人がやってきた。
「おい真人? これはどういうことだ?」
「あの、はぁ、夢見が」
真人は珍しく息切れしていた。
「夢見?」
「はい。夢見が急に暴走し始めて。炎に包まれた夢見に殺されそうだったので逃げました。すみません」
《
「なぜそうなる? あんな弱そうなやつに殺されるわけないだろ?」
「ほんとなんです! 俺が立ち向かおうとした時には泰助も和田も逃げてて」
「なんで夢見がそんなことできる?」
「分かりません」
「チッ。無能が! そもそも、夢見の魔法は《
「もちろんです! 持ってます!」
「夢見が別の魔法を持っている? そんなばかな。もしそうならそれは……」
「洸汰様?」
「まずいかもしれない。真人、《
「すみません。実は今、魔力が残ってなくて」
「はあ!? そんなわけないだろ? 奏時の解放もしてないくせに」
「色々あって……」
その色々とやらを聞いている場合ではない。
俺には計画があるのだ。
「ああ、もう! 仕方ない。魔力の回復を待ちながら泰助と和田を探すぞ!」
「はい!」
◆
「夢見さーん! 夢見さーん!」
「誰かいませんかー」
俺と神前さんは大声で叫びながら走り続けていた。
俺は《容姿変化》で奏時の姿になっていたため、体はいつもより動く。
この魔法を持っていて正解だった。
それでも陸上部の神前さんの方が速い。
もう遅い時刻で街灯もないので離れすぎないように気を付けながら走ってくれている。
「誰か!」
この声は!?
この辺りは木々が多くなっているため、姿はまだ見つからない。
声の方へと急ぐ。
「ちょっと待ってください!」
声が近づいてきたが、急に止められた。
「夢見さん?」
「もしかして雨川くん?」
俺は今、声も奏時だ。
「うん!」
「神前奏もいます! 初めまして! 思恩くんの友達です!」
「あ、はい! 初めまして! あの、神前さんだけ来てもらっていい、かな?」
「……? 分かった!」
俺はなぜかハブられた。
神前さんは暗闇の中に消えていく。
「え……!? 裸!?」
「こっ、声が!」
「ごめん。びっくりして」
丸聞こえである。
ちょっとだけ興奮してしまう。
神前さんが一度こちらに戻ってきた。
「思恩くん! 上着貸して!」
「はい!」
俺はすぐさま上着を脱いだ。寒さは感じなかった。
それ以上の感情の高ぶりでちょうど暑かったのでむしろ助かる。
少し待っていると、神前さんと夢見さんが木々の中から出てくる。
「思恩くん絶対に見ちゃだめだよ? 見えないようにはしてるけど、ダメだからね!」
「はい!」
俺は夢見さんたちが来る方に背を向ける。
「あれ? 雨川奏時くんだよね?」
「《容姿変化》解いたら?」
「そうだね」
夢見さんは俺がこの姿で思恩と呼ばれることを不思議がっているのだろう。
俺は膨らむ。
「これは俺の
どうにも情けない声で説明する。
自分の姿に戻ったことで謎の恥ずかしさが込み上げていた。
「二人ともありがとう。助けてくれて」
「いいよいいよ! それより、相原たちといたんだよね? 何があったの?」
「えっと、私もよく分かんなくて。気がついたらこうなってて」
「とにかく見つかってよかった」
「もう安心していいよ、夢見さん」
俺なんかが言っても気休めにしかならないかもしれないけど。
「うん。ありがとう」
顔は見れないが、夢見さんが安堵して泣いているのを感じる。
謝りたい気持ちは山々だが、まずはどこか休める場所を探す必要があった。
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