第9話 第二次転生プログラム
俺は父様から新たな指示を与えられた。
「期待している」か。頑張ってよかった。また任務を任せてもらえる。
俺は父様に恩返しをしたいし、しなければならない。
そして、多くの人を救うんだ。
やる気に満ち溢れながら、俺は真人を探す。おおよその場所は伝えられている。
《
ひとまず、山吹島へ向かう。転生者の多くは山吹島に転生してくる。
俺は何度も繰り返し《記憶飛び》をした。
そして、ついに──。
「よし、発見」
「よし」とは言ったものの、本当はいてほしくなかったのが本音だった。
相原真人はどうしても好かない。
こういう人間がなぜか親になった場合、必ず子供に虐待するからだ。
俺は元々、前世で虐待を受けていたため、その点には敏感だ。
妹とともに虐待を受けていた日々が思い出されつつ、俺は真人に声をかける。
「真人!」
「洸汰……!」
真人の表情は見たことがないくらいに険悪だった。無理もない。なにせ自身を殺した張本人が目の前に現れたのだから。
真人は俺の方へと近寄ってくる。
でも、目が合ったのが最後、真人は俺の思うがままだ。
《
この魔法は三秒間目が合った相手に対してかけることで、相手を自分に従えさせられるというものだ。一回目の転生で獲得した魔法だったが、俺の最大魔力量が《魅了》の消費魔力量よりも少なかったため使えなかった。
でも、もし使えていたとしたら保有禁止魔法所持者として拘束されることになっていたため、使えなくて良かったと思っている。
今この魔法を使える理由は、なぜか二回目の転生で最大魔力量が一回目の転生時の約二倍に増えていたからだ。
とりあえず、真人には俺の後をついてくるように指示を与えてみた。
すると彼は黙って真後ろを歩いてくる。正直不気味だ。でもちゃんと《魅了》がかかってはいるようだ。
二人合わせて《記憶飛び》。
お互いが触れていれば、一緒に飛ぶことが可能だ。
それは服の袖だけでも構わない。
この島には数多くの小屋が設置されている。それは建前としては公人や転生者の保護隊員用の休憩所だ。
しかし、本当は第一の今回の計画のためである。俺たちが生活に困らないようにするための手段であった。結果としては俺が《記憶飛び》を得たことによりその必要性は薄れているものの、今後のことを考えればやはりあるに越したことはない。
俺たち第一からすれば公人は奴隷の代替品のような扱いをされている人たちのことで、救うべき存在だ。
正確には、経済的に困窮した者たちのことであり、一定水準に満たない生活をしていることで、そういった人たちを救済する制度のことをボランティア制度と呼び、その恩恵に預かっている人たちを公人と呼ぶ。
ボランティア制度とは、無償で働いてくれるものを募り、その代わりに最低限度の生活を保証する制度のことである。
これにより、経済的に多くの子供を持てない家族がそれを可能にすることができ、日本で言う生活保護を必要とするような人も、路上で生活しないといけないような人も生まれずに済む。
以前は公人の子どもたちは学校に通えない者もいて度々問題になっていたが、それは一昔前のことで、今では教育制度は整えられ、公人からの脱却を果たせる門戸は大いに開かれていると言える。
公人は本土とこの山吹島で性質が違っている。本土の公人は魔力封じの首輪をしておらず、魔法の使用は許されている。つまり、魔力を使った仕事・生活が可能である。一方で、山吹島では魔力封じの首輪を着けて生活するので、魔力は使えない。
これは不便であるように思われるかもしれないが、神陸生まれの人間は元からあまり魔力を使えない者も多いのでさほどの問題ではない。
それと、交通機関の発達度合いにも差がある。本土はまさしく現代日本のような交通網が出来上がっているのに対して、山吹島では未発達である。
総合的に見ると、本土のほうが良い生活を送れると考えられもする。
しかし、一概にはそうとも言えない。
山吹島で暮らすことのメリットとして、魔力被害のリスクの軽減が挙げられる。山吹島は転生者が出現するスポットとはいえ、本土での被害率を遥かに下回る。本土は現在、魔力犯罪の増加に歯止めがかかっておらず、社会問題となっている。いわば、銃社会で暮らすようなものである。それがない日々を過ごせる時間が多いというのはかなりの魅力である。
また、山吹島での生活は、本土とは違い、より多くの魔力を供給した者ほど、特典が得られる仕組みとなっている。その特典とは金銭給付である。ある一定値を提供する毎にお金が貰える。結果的にそこまで不便な生活にはならないのである。これらが、公人たちを山吹島という不便な地に赴かせるに足りる理由となる。
小屋には三つの部屋と別に浴室とトイレがあり、部屋の一つはキッチンと冷蔵庫。もう二つにはベッドと棚が置かれている。棚には衣服も収納されている。
ひとまず俺たちは着替えや風呂を済ませた。
真人が風呂に入っている間に俺は食料の回収を済ませる。日持ちのする缶詰やパックご飯が主だ。キッチンには電子レンジも置かれている。かなり設備が整っている。
それから俺たちは仮眠をとった。真人にベッドを与えるのは癪だったので床に寝かせておいた。これから長い旅になる。
第二次転生プログラムは俺の所属する第一研究所が初めて行った一大プロジェクトであり、その一人目の第二次転生者に選ばれたのが俺だった。
この計画は表向きには転生者を元の世界に返し、危険な転生者の脅威を取り除くために行われたプロジェクトだ。
しかし、本当の目的は転生者を一度前世に戻した後に再び神陸に帰ることが可能かどうか、もし可能であればどのような身体的・精神的変化があるかを調べるためのプロジェクトである。
そして、父様──研究所の所長──によると、神陸に転生してくる者は未練を持った山吹市に住んでいる者であり、前世に対する身体的耐性を持っていることから、前世に戻れさえすれば、死んだ際に未練があれば再び神陸に転生する可能性が高いと結論づけている。
その仮説は見事に当たっていたのだ。
俺はこの神陸でやり残したことがあった。それが未練だったのだろう。だから完全には死にきれずにまた神陸に戻ってきた。
やはり、父様はすごい。
前世に戻る方法についても教えられている。そもそも転生した際に魔力を獲得することから、俺たちは肉体を再形成してこの神陸に来たと考えられている。
しかし、その仕組みは未だに解明されていないため、同じことを繰り返すのは困難であった。
だから父様は魔力によりゲートを形成して地球を探し出したそうだ。そして、同じ肉体のまま地球へと戻れるようにした。
肉体を神陸からそのまま持っていくので魔力を保持したまま前世に戻ることが可能であると見込んでいたが、残念ながら、前世に戻っても魔力を使えるような感覚は得られなかった。とはいえ、これは今後の課題としていい収穫だったと言える。
しかし、10名以上の転生者をこれまで送ってきたが、その誰もが未だに神陸に戻ってきたケースは存在していなかった。
そのイメージを払拭するために度々プロジェクトの名前は変化している。
そのため、俺が一人目というのは名目上の話である。
父様によると、俺が無事に戻って来れたのはその未練の強さだという。
俺は小さい頃に転生してきて父様への忠誠心は高いし、本気で父様の計画を成功させたいと思っている。
しかし、それまでの被験者は意志が弱かったという。
もちろん、単純に戻ることさえできなかった人や二度目の前世を堪能しているだけの人がいるのかもしれないが。
何はともあれ、俺は第一成功者となった。
父様は今回並々ならぬ自信があったようだが、それを達成できて本当に良かった。
計画は完璧に成功したとは言えなかったが、上出来だろう。
これも父様が親になってくれたおかげだ。父様が俺を優秀な人間に育ててくれた。
その恩に報いなければならない。
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