第10話 ※《犬》のせいで予定が狂います
目を覚ますと、まだ真人は眠っていた。
起きるように念じる。
するとパッと目を見開いた真人が起き上がる。
何もしゃべらないのが不気味だ。しゃべれと言わない限り永遠に口を閉ざしていそうだ。
ただそういうわけにもいかないので、父様から与えられた任務を遂行する。
「真人! 今から俺がこの世界の常識を教える。ちゃんと覚えろ」
「はい」
その発音は決して機械的なものではなく、いたって自然だった。
しかし、真人は「はい」なんていう丁寧な返事をすることはないので、違和感がすごい。
「その前に確認だが、お前の魔法は何だ? 答えろ」
「《
「え、まじ?」
なんだかとんでもない言葉が発されていた。
「はい、まじです」
「あっぶねー、めちゃくちゃやばいの持ってんじゃん! 《
《能力奪取》は保有禁止魔法に含まれている、とにかくチートな魔法の一つだ。
「これはさすがに父様に報告しないとだよな。よし、真人! ここでちゃんと待ってろ! お手!」
俺は真人に手を差し出す。
「……?」
どうやら意図を汲み取れていないようだ。
「そこはワン! だろ」
「ワン!」
「お座り!」
「ワン!」
なんて順応性の高さだ。
「はいはい、偉い偉い」
俺は面白かったので真人の頭を撫でてやる。
「じゃあちゃんと待ってろよ? ここから動くなよ?」
「はい」
俺は直ちに《
父様の反応は俺と同じだった。
「え? まじ?」
「はい、まじです」
父様が口をあんぐりと開け、ちょっと間抜けな感じだ。
「《魅了》ちゃんとかけただろうな?」
「もちろんです」
「《魅了》持ってて良かったな、本当に……」
「はい…………」
俺たちはとんでもない危機を脱していたことを知り安堵した。
その後、父様から改めて指示を得て俺は真人のところに戻った。
「真人! お前はその魔法を持っていることは誰にも言うなよ。いいな?」
「なぜですか?」
「お前が捕まるからだ。俺にも迷惑がかかる。だから、お前の能力は今後《
「ワン!」
高らかな響き。
「めっちゃ鳴き声が上手い。大型犬だなこれは。とにかくお前は前世で犬になりたかった。だから犬の鳴き声が上手くなったってことにする。分かったな?」
「ワン!」
「まじで向いてるよ犬。本当に犬だったら良かったのに」
それから俺とマコト犬は優雅な生活を送っていった。
ひとまず島の最北端の町付近にある小屋を拠点にして過ごしている。
思恩たちが転生してくるまであと七か月ほど。時間には余裕がある。
「ポチ! ちょっとチーズバーガー買ってきて! あと、コーラとポテトのM!」
「ワン!」
転生してきて二週間。この頃俺はポチの「ワン!」しか聞いていないため、正直ちゃんと買い物に行った際に日本語をしゃべっているか不安になる。
この山吹島は雨川奏時を拘束するためだけに連れてこられた公人の者たちが住んでいる。
もし転生者か聞かれたら、ポチは自身を《犬》使いであると言うだろう。
滑稽だ。
「いやー、笑いが止まらん。俺には何の不都合もないし最高の身分だわ。でもやることもやらないとな」
ちなみにこの島の住人たちは転生者を発見した場合、報告するように命令されているが、その役割を現在担っているのが第一研究所山吹支部である。そのため俺たちについては報告がいっても、強制的に保護されるようなことはない。
しかし、それだけでは不足している。
山吹島には多くの監視カメラが取り付けられており、転生者を確実に保護する体制を整えている。
その映像は第一、第二、政府が共有している。
カメラに戸籍未登録個体が映るとセンサーが反応し、信号を送る仕組みだ。
それに基づきこの島に組織された保護隊員が転生者の身柄を拘束、身体調査を行った後に処遇が決められる。
つまり、真人の存在はもう既に周知されており、簡単に見つかってしまうはずだった。
それを防ぐために、第一はいち早く行動を起こした。
保護隊員は公人たちによって構成されている。そして、第一の役員が公人となり、その役職を受け持っている。
それに加え、公人登録の役割を担う者も第一の人間である。
その結果、真人を公人登録してしまえば、センサーの反応はなくなるというわけだ。
俺は真人の戸籍の登録と公人登録を済ませていた。
俺はもちろん戸籍があるので、センサーが反応することはない。
現状の真人は行方不明、俺は無事に第一に戻り、生活しているということになっている。
俺と真人は便宜上保護隊員に加入した人間として振る舞っている。
俺がこの期間にやるべきことは、真人にこの世界の理を教えることと、この島の各所の風景を記憶させることだ。
ある程度のことは知っておかないと、もし泰助や和田が転生してきた時に怪しまれる恐れがある。
二人が転生してきたら彼らは真人と行動をともにする可能性が高い。
そうなると、真人を殺した俺は真人と一緒にいるわけにはいかない。
さまざまな事態を想定する必要があるのだ。
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